🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!
65『桃、お前……?』
夕べ桃は現れなかった。
ぐっすり眠れたかというと、そうでもない。寝つきは悪いし、夜中も何度も目が覚める。なんだか体の一部を失ってしまったように頼りない。
朝食のために冷凍庫を開けても、大盛り冷凍ナポリタンには目が行かなくなった。
焼きおにぎりに2個に味噌汁になり、食べながら――これに納豆と焼きのり、玉子焼きがあればいいのに……そうなれば、おにぎりは1個でいいかな――などと考えてしまう。
「いらっしゃいませ、ソレイユへようこそ。4名様ですか? はい、それでは禁煙席にご案内いたします」
バイトも快調だ。ディナータイムになっても追われるということが無い。お客さんがたてこんできても、そのペースで仕事がさばけるようになった。
「片桐さんも快調だね」
「あら、気づいてないの?」
「え、なに? あ、Aダイ4番片付けて、Bダイ2番のセット。そう、鈴木さんお願いします。片桐さんレジお願い。はい? ええ、倉庫整理ですね、すぐ行きます」
倉庫整理は直ぐにやらなければならない。センターからの荷物は量が少なくても冷凍品や冷蔵品が混ざっているので、直ぐに処理しなければならないのだ。補充された食材や消耗品は古いものを棚の前に出し、新しいものは奥にやる。缶詰などの重量物は下から2段目の棚へ、取り出すときに腰に負担がかからない位置に収納する。オレ的には3段目でもいいんだけど、また、マニュアルにも3段目までが重量物になっているけど、ソレイユ国富店は女性スタッフが多いので、できるだけ2段目に収めるようにしている。
「Aダイ、5・6・7を片づけてください、10名様お入りになります」
フロアーに戻ると、直ぐにお客様の様子を見て指示を出す。
「うまく回っているようね」
店長が満足げに頷いている。
「はい、今日はみんな調子がいいようです」
「フフ、やっぱり気づいていない」
Aダイに向かいながら片桐さんが笑う。
「今日うまくいっているのは、百戸くんが的確に指示出しているからよ」
従食を休憩室のテーブルに並べながら片桐さん。
「え、そうだっけ?」
「今日はシフトリーダーがお休みでしょ、自然に百戸くんが指示出してたわよ」
「え、オレはそんな……」
「ううん、口に出して言うのは5回もなかったけど、目配せで指示飛ばしてたわよ」
「え、あ、そう?」
「「「そうよ」」」
休憩の交代に入って来た鈴木さんたちが同時に頷いた。
いつものように片桐さんを送り、いつものように家に帰った。
「桃……」
ベッドに潜り込むと、思わず妹の名前を呟いてしまう。
「お兄ちゃん……」
「桃……いるのか?」
「ここだよ」
足許からモソモソ這い上がってくる気配がしたので布団をめくってみた。
「桃、お前……?」
這い上がって来た桃は、リアルサイズの1/4ほどの大きさしかなかった……。