大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした・25『マイクロバス』

2020-06-17 06:35:10 | ノベル2

・25
『マイクロバス』
      


 

 あたしたちもタヒチアンダンスをやろう!!

 という具合にはならない放課後の食堂。
 
 智満子は感動のあまり、プールの真ん中で泣きだすくらいだったけど、その智満子でも「あたしもやる!」ということにはならない。
 高校一年生にもなると、手が届くことの限界が分かっている。
 感動したことを無条件に「やりたい!!」と思えるのは中学までだろう。

「でもさ、智満子が、あんなにピュアな涙流すとは思わなかった」

 ネッチの感想に取り巻き達が「うんうん!」と激しく同意する。
 熱烈歓迎というのは知っているけど熱烈同意ってのもあるんだと感心する。
「今度の連休にタヒチアンダンスのコンクールがあるんだって」
 智満子がスマホの画面を見せた。
「「「「「「「どれどれ」」」」」」」
 みんなが小さなスマホの画面に集中する。なんだか餌に集った鳩みたいだ。
「プルルップー」
「アハハ、ほんと鳩みたいだ!」
 智満子が鳩の真似をして、みんなが笑う。どうやら、智満子は以前とは違う形でリーダーになれそうだ。
「それで早乙女女学院の子たち力が入っていたのね」
「観にいきたいなーーーー!」
「「「「「「「「そーだねー」」」」」」」
「でも会場、滋賀県なんだね……」
「ちょっち遠いなあ」

 いつもなら、このあたりで話が萎んでしまう。

 滋賀県は新幹線と在来線を使って四時間ほど。そして行って帰るだけでも二万円以上のお金がかかるのだ。
 ダメなのは分かっているけど、想いが勝ってしまって、みんなスマホの画面から目が離せない。
「行けたとしても、今からじゃ新幹線の予約なんかとれないよね……」
 気弱なベッキーがため息をついてみんなの食器をトレーごと回収に回った。
「ベッキー、食器は各自で片づけるからいいよ」
 智満子が言うと、みんな各自のトレーを持ち始めた。トレーを片付けてしまったらお終いになると思った。

「ね、補講で使ってるマイクロバス使えないかな」

 思い切って提案してみた。
「あ、それいい!」
 ネッチが叫んで、みんなが振り返った。
「あれなら乗り慣れてる!」
「先生に頼みに行こう!」
 あたしの提案に乗っかって、萎みかけた気持ちが再び膨らんだ。

「だめだ、そんな思い付きには付き合えない」

 水野先生はニベもなかった。みんなも思い付きと言われたことにカチンときているようだ。
「あたしたち真剣なんです」
 智満子が静かに言った。
「そんな思い付きは真剣とは言わん」
「「「「「「「「思い付きじゃありません」」」」」」」
「高校生だから、そう思うんだ。中間テストも近い、そんなの観に行ってる場合じゃないだろ」
「それはおかしいと思います」
「なに?」
「たしかに、あたしたちは高校生です。比較できることは十六年の人生に中にしかありません。でも、そんなこと言ってたらオバサンになるまで、なにも決心して決めることができません」
 智満子も食い下がる。
「あのな、この十三人を連れて運転することになったら、これは学校の許可がいる。今から計画書作って職員会議にかけていたら間に合わん。そうだろうが」
「そんな大そうな……」
「教師や学校には責任というものがあるんだ。あきらめろ」
 先生は、そう言うと鞄を持って出て行こうとした。
「じゃ先生、マイクロバスだけ貸してください。運転手は捜します」
「あれはホテルからの借りものだ」
「じゃ、連休の間借りられるようにホテルと交渉します」
「横田……おまえ」
「ホテルのものだから構わないでしょ」
「……勝手にしろ!」

 智満子が再びリーダーシップを発揮し始めた。


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