大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト・『きれいなペンダント』

2021-11-21 06:29:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
きれい  




「きれいなペンダントしてるなあ」

 そんなオタメゴカシを言って、お父さんはいつものように沖縄に行った。

 お父さんは、沖縄に土地を持っている。150ほどと、人に聞かれたら言っておく。

「へえ、大したもんだ!」

 と、たいていの人はびっくりしてくれる。

 エメラルドグリーンの海を臨む高台の上に150坪もの別荘を持っている。そんなふうに人は誤解してくれる。

 正しくは150平方mm、ほとんどハガキの大きさの土地……。

 お父さんは『あ』の付くものが嫌いだ。

 安倍、安保、アメリカとかね。

 だからアメリカが沖縄に基地を持っていることが許せない。同じ感性の某政党をいまだに支持している天然記念物。

 5月15日、6月23日、8月15日は、お父さんが大張り切りする日。他に年に何度も沖縄に行って自称「がんばっている」沖縄に二つしかない新聞社の人たちとも仲良しのようで、基地反対のデモや集会では沖縄市民の一人としてよく写っている。あんまりよく写っているので、某週刊誌の記者が質問した。

「あなた、東京の活動家の○○さんですね?」

「う……そ、そうだ。ぼくは本土の一市民として反米闘争、反基地闘争に共闘しているんだ!」

 N放送やA新聞などは、ほんの百人ほどの反対集会を何十倍にも水増しして報道している。たまに千人ほど集まることもあるけど、かなりお父さんみたいな人が集まってる。基地で働いてる人や、基地賛成の人もいるけど、この人らの声がマスコミにのることはほとんどない。

 嘉手納基地の近くの小学校の移転計画が本気で出たことがある。信じられないけど、よってたかって、この移転計画は握りつぶされた。その移転反対運動の中心にお父さんもいた。

「移転すべきは米軍基地で、小学校ではない!」と主張してる。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 
 娘としては、家の近所の問題や、家のことに気を使って欲しい。

 

 近所で野良猫が増えて困ってる。お父さんは知りません。

 街で、若い女性の拉致事件が3件も起きました。あたしも女子高生なんだけど、お父さんは「お前に限ってそれはない」と笑っておしまい。わたしは去年の学祭でも準ミスに選ばれているんだけど、一応。

 筋向いの家が火を出して半焼。信じられないけど、お父さんは、この事実さえ知りません。関心がないんです。

 一回だけ、お父さんをおちょくりました。

「お父さん、近所の某空港で、オスプレイの離発着訓練やるのよ」

 お父さんは、顔色が変わりました。さっそく仲間に電話して訓練日には、数十人で反対運動に行きました。

 意気揚々と帰ってきたお父さんに、プリントアウトした資料を渡しました。

 オスプレイの、ここ十年ほどの事故記録です。警察が使っているヘリコプターよりも低い事故数です。

「……なんだ、アメリカの資料じゃないか、あてになるか」

「その下の中国語のは、人民解放軍の資料。同じ数字が出てるよ」

「……」

「そのまた下は○○島の住民の人たちのオスプレイ配備嘆願書。島で急病人が出るとオスプレイだと、ヘリの半分の時間で運べるんだって」

 無言のお父さんをしり目に、あたしは、その日の反対闘争のことを写真と資料付でブログに載せました。アクセスは200ほど、日本人は、元々無関心だということが、よく分かりました。

 弟が、ずっと不登校だけど、なにも言いません。家のことは、お母さんと、あたしに丸投げです。家庭内安保のただ乗りです。

 先日は、弟をなんとかしてやろうと思って、家の外に引きずり出して大げんか……正確に言うと、引きこもりで体力がない弟を、見かけの割に力も根性もあるあたしがボコボコにしてやりました。

 そして学校の先生と児童相談所の人にも直ぐに来てもらって、膝詰で話をしました。

 グズグズしながらも弟は「近所の野良猫が怖い」と言いました。ここんとこアメリカ大統領の報道官並に言葉を選んで語っています。そこんとこよろしく。

 どうも弟は野良猫の雌ボスが、特に怖いらしく、人間のくせに猫のパシリまでやらせられていたようです。

 あたしは、仲間といっしょに雌猫のボスを捕まえて、「保健所」ではなく、近くの山の中に連れて行って殺処分しました。

 動物愛護のうるさい人も居てるんで、その場で焼きました。生き物と言うのは90%近く水分で出来てるんで、なかなか焼けません。薪を集めては何回も焼きました。最後は真っ黒に焼けたのをバラバラにして別々に焼きました。丸半日かかりました。

 こんどは見事に焼けたので、無理やり弟を連れ出し見せてやりました。

「もう、怖くないだろ?」

「う、うん……」

 弟の喉かコクンと動きます。

「なんだ、震えてるの?」

「ちょっと寒いかも……」

「お姉ちゃんが、温めてあげよう……」

 丹念に、弟を温めてやりました。

 そして……喉の骨がきれいに見えたんで、水で洗ってペンダントにしました。

「かわいいペンダントしてるな!」という最初のお父さんの言葉につながります。


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