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「ポジティブに受け止めたほうがいいんじゃないかな。いつまで同じグループでつるんでちゃ、面白くなくない?」
「あのね、問題はあたしたちをゴミみたいに分別した学校なのよ……!」
「それを前向きに、進歩とか成長のファクターとして捉えなきゃ、程度の低い恨みでしかない」
「なんだって!?」
「莉乃ッ!」
佳乃子は莉乃の襟をつかんだ。
ブチ!!
セーラーの胸当てが外れる音と、佳乃子の頭の線が切れる音が重なった。
今までのつつましやかな莉乃からは考えられない行為……いや、暴挙だ。オレは成りたての「付き合っている男」として黙って見て居るわけにはいかない。尻込みしながら半歩前に出た時「ン!」という吐息とも気合いと「キャー!」という悲鳴がした。
その場に居合わせたみんなが、オレを含めて目をつぶった。
一瞬が数時間にも感じられた。
だれもが無残に投げ倒された莉乃の姿を思い浮かべた。が、事態は逆であった。
今まで体育の教師を相手にしても負けたことのない佳乃子が、潰れた蛙のようにへばっていた。
「ごめんね、でも海老原さんが先に胸倉掴んで足払いかけようとしたから、正当防衛よ。手加減したから怪我はしてないと思うんだけど……あんたたち、なにをボサッとしてんのよ。リーダーが倒れてるんだから、起こしてあげなさいよ!」
佳乃子の手下たちは莉乃の迫力に気おされ、薄情なことに、佳乃子を放り出したまま蜘蛛の子のように散っていってしまった。
「海老原さん……」
莉乃が優しく手を伸ばした。
「ほっといて、あんたの手で起こされたくなんかない!」
佳乃子は、そのまま校門から外に飛び出してしまった。
オレは引きちぎれて、少しあらわになった莉乃の胸元に目がいった。
え?
少し覗いた花柄のブラがまぶしかった。
「それでは、クラス開きを行います」
Z教組らしく、こういう組合的な展開が担任の西村郁美は好きだ。一人一人自己紹介をやらされる。だれも、こんなとこで本音で自分のことを話すやつなんていないのに。
「自己紹介と、新学年の抱負を語ってもらいたいんだけど、その前に転校生の紹介をします」
転校生という言葉に、みんなは互いの顔を見合わせた。みんな元のクラスは違うけど、見覚えのある顔ばかりだった。
「蟹江さん、前に」
「はい」
意外の声が上がった。
わが担任西村郁美は、とうとうおかしくなったか。学校でも評判の可愛い莉乃を転校生と間違えるなんて。
ところが、莉乃は言われるままに教卓の横に立つと、背筋を伸ばした。
「転校生の蟹江莉奈です。今まで双子の姉の莉乃がお世話になっていましたが、この春からお互い環境を替えようということで、転校してきました。活発で面白い学校で、わたし的には気に入ってます。みなさんよろしく」
オレは絶句した。
「莉乃さんとはそっくりだけど、別人です。慣れない学校なんで、みんな助けてあげてください」
担任が嬉しそうに言う。
「いいえ、学校のことは分かっています。わたしたち、時々学校入れ替わって行ってましたから。三学期は、ほとんどわたしがこっちに来て慣れておきました」
これは担任・西村郁美も驚いた様子だった。で、オレは次の言葉でひっくり返った。
「一応、学校でのカレは、そこの会田くん。今朝わたしの方からコクっておきました。当分売約済みなんで、よろしく」
そう言って、莉乃……いや莉奈はニヤリとオレの顔を見た。
複雑なオレの気持ちはチャンスがあったら話すよ……。