高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ
10『雰囲気に弱い妹ではある』
生徒会長は二期連続で務めるのが普通なんだ。
例外は三年生で前期の会長を務めた時。
後期の会長は任期が、あくる年の五月に跨るために、二月に卒業してしまうと任期が全うできず、会長のポストに空白期間が出来てしまう。
だから会長は二年生の後期に立候補し、前期の生徒会長から時間をかけて仕事を引き継ぎ、あくる年の前期いっぱい職にとどまる。
梶川俊也は二年の後期に生徒会長になり、一期半年を務め今年の前期選挙には立候補しなかった。
そつなく任務をこなしていて、教職員にも生徒にも「まあ、よくやっている」と評判をとっていたので、五月の選挙に立候補しないと知れた時には、ちょっと話題になった。
「一期で辞めたこと、ちょっと後悔してるんだ」
南館屋上、南向きのベンチに舞が座ると、こう切り出した。
「あ……普通は、もう一期やりますよね。でも、梶川さんの場合、あれと両立はむつかしい、でしょ?」
並んで座った舞はしおらしい。
ま、あいつは俺以外の人間には丁寧だし気配りもする。
あんなタメ口で乱暴なのは俺に対してだけだ。ほんと、損な役回りではある。
「もう一期やっていたら、生徒会で君と一緒になれた」
「え、あ……」
「そうしたら、もっと自然なかたちで気持ちを伝えることができたのにね。呼び出してすまない、そしてきちんと応じてくれてありがとう」
わずかに頬を染め、きちんと話す梶川は昔の青春ドラマの主人公のように清々しい。
じっさい、梶川はテレビドラマに出ている。
そう、あいつが会長職を一期半年で辞めたのは、某プロダクションの目に留まり、俳優業を始めたからだ。
「えと……去年の舞台素敵だったそうですね」
「あ、記録のDVDを見れば……あ、僕のことじゃなくてね、文化祭の企画や運営の参考になると思うよ」
「観せていただきました、先月生徒会の文化祭企画会議で」
「あ、観てるんだ」
観ているのに、推量の「そうですね」を使っている。
「舞台は生で観ないと、映像の二次資料では正確なことは……あ、なんか生意気なことを言ってすみません!」
両手をパーにして、胸の前でハタハタ振る舞は、正直可憐でため息が出る。ギャップの凄さにだけどな。
「生意気なんかじゃないよ、高校一年で、そんなに正確な物言いをしようとするのは立派なことだよ」
「でも、あの舞台がプロダクションの目に留まって俳優になられたんですから、先輩こそ立派な方です」
「それはどうも……あ、なんか照れるなあ」
手の甲で額の汗を拭う梶川、くそ、サマになってやがる!
「ハンカチどうぞ」
「え、あ、すまない」
あ、そういのは誤解を与えるぞ!
あ、一瞬ハンカチの匂いを嗅ぎやがった、くーー、驚き方までサマになって!
「えと……僕は、その、まだまだなんだけど……そのよかったら、友だちからというぐらいから付き合ってもらえないかな、君の友だちの一人として」
ちょっと予想から外れてしまった。
度重なる投げ文、爽やかなルックスとビヘイビア、文武両道で前途有望な俳優の玉子、その熱意とグレードの高さから、もっとストレートで、高めの直球を放ってくると、俺も舞も思っていた。
「あ、えと……」
「どうだろ」
「えと、友だちなんですよね……」
いかん、舞が陥落してしまう!
俺は、スマホの☏マークにタッチした!
「すみません、電話」
「あ、どうぞ」
「はい、もしもし……あ、はい、直ぐにいきます」
「用事が出来たかな?」
「すみません、先生から……」
舞は階段に急ごうとしたが、慌ててていたんだ、ベンチの脚を引っかけてしまった。
「キャ!」
「危ない!」
奴の反射神経は見事で、転倒寸前の舞を腰抱きにして転倒を防いだ。
「あ、す、すみませんでした」
「転ばなくってよかった」
「ありがとうございます、じゃ」
ぺこり頭を下げると、階段に向かう舞。
どうやら、ギリギリのところで踏ん張れたようだ。
「芽刈くん!」
く、ダメ押しの一声。
「はい、お友だちということで!」
あーーー雰囲気に弱い妹ではある……。