大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

不思議の国のアリス番外・『ライトノベル』

2020-02-12 06:16:35 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス
『ライトノベル』  



 ライトノベルについてレポートを出すように言われた。

 アリスは、高校時代に日本に短期留学の経験もあり、また、大阪弁ではあるが日本語にも堪能だったので、「それ、なんですか?」とは質問できなかった。
 なんとなくサブカルチャーの匂いのする言葉だったので、そういうのに詳しい韓国からの留学生ソンファ・キムに聞いてみた。
「あんた、日本のサブカルチャー詳しいやろ。ライトノベル持ってたら貸してくれへん?」
 日本文化論の講座仲間であったので、日本語で聞いてみた。
「うん、何冊か持ってるよ」
「ほな、貸してえよ」
「そのかわり、これに署名してくれない?」
 差し出された署名は、『従軍慰安婦の少女像設置の嘆願書』と、書かれていた。
 この問題には異論のあるアリスだったので、きっぱり断ると竹島やら日本海を韓国名で言われ、その説明……というか演説を聞かされた。独島=竹島 東海=日本海と訂正してやったのが運の尽きだった、日帝三十年の話に及んだので、アリスは『ハンガンの奇跡』と呼ばれる韓国の経済成長は日本の経済援助や、円借款でできたことを『国際経済論』で学んだ知識を総動員して反論。
 互いにツバキの飛ばしあいになっただけで、けっきょくライトノベルは借りられなかった。

「なあ、オバアチャンとこにライトノベルあれへん?」
 うちに帰って、お隣のタナカさんのオバアチャンに聞いた。
「ライトノベル? 右翼の小説かいなあ……」
「右翼て、保守の過激なやつ?」
「せやな、パソコンで探したらええのん出てくるんちゃうか」
「ほんなら、リベラルなもん読も思うたら、『保守的小説』やな」
「そないなるかな。アリス、こういうもん読むときは、反対の立場から書いたもんも読んだ方がええで。せや、うちに短編であったなあ」

 タナカさんのオバアチャンは、古い『蟹工船』を貸してくれた。
 で、読んでみた。
 アホかいな。
 これが『蟹工船』の感想だった。
 この程度の過酷な労働現場のことを書いた小説なら、アメリカにも掃いて捨てるほどある。だいたい人物が類型的で、こんな小説1930年代のアメリカの出版社に持ち込んでもボツだろう。
 ラストで、同じような反乱が北洋の沢山の蟹工船で起こったとしているのに至っては、左翼的オプティミズムだと思った。
 ただ、作者の小林多喜二が、当時の警察でなぶり殺しの目にあったことだけは同情した。
 ひょっとして小林よしのりの親類か? ちょっと似ているなあ……検索したら関係なかった。

 で、いよいよライトノベルである。

 街の図書館に『日本の保守の本』で検索してみた。
 白州次郎がヒットした。マッカーサーをして「唯一、従順ならざる日本人」と言わしめた若者の話である。
 ダイジェスト版を読んでみた。

 感動した。

 サンフランシスコ講和条約で、時の首相吉田茂(このオッサンもたいがいで、アリスはファンになった)が国連……これも変な日本語で、ユナイテッドネーションなのだから、正確な訳は連合国である。国防軍を自衛隊と呼んでいるのと同種の日本独特のコンプレックスというかアレルギーを感じた。

 で、随行員である白州次郎は、吉田首相が国連において英語でスピーチしようとしているのを知り、猛然と反対する。
「じいさん、英語のスピーチなんて媚びだ。日本の独立宣言に等しいんだ。日本語でやれ!」
 それを理解した吉田首相は、秘書官に日本語でスピーチ原稿を書き直すように命じた。

 ただ、吉田は極度の老眼で、書かれた文字は一センチ四方ほどあり、巻くと直径十センチほどの巻紙になり、当時の欧米のマスコミから『吉田のトイレットペーパー』と呼ばれた。

 これをレポートにして提出すると、担当のハーミス先生は感動して、みんなの前で読むように言われた。
 緊張して読み上げると、みんなから笑い声がしはじめた。
「気にしない、続けて」
 ハーミス先生に励まされ、続きを読んだら、アジアの二カ国から来た留学生を除いて、好意的なシンパシーをもって聞いてくれ、最後は拍手のオベーションになった。

「これを、偉大で真摯な誤解というのです。ライトノベルの名称は日本人も考えたほうがいいかもしれませんね」
 ハーミス先生は、そう締めくくった。

 そのあと、アリスは改めて「ライトノベル」で検索した。

 それは、アリスが日本にいたころ、しょっちゅう読んでいた種類のものであることが分かった。
 
「なんや、これのことかいな!?」
 
 これならば、今の自分が書かれている駄文そのもの。つまり、アリス自身の事だ。アリスは、その自分の事が書かれている駄文を読み返すことにした。

 



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