ライトノベルベスト
心臓が口から飛び出すかと思った!
昇降口の入口に新しいクラスの編成表が貼り出されていた。
オレは会田だから、保育園以来、たいてい出席番号は一番。だから、すぐに自分が4組だということが分かった。
次に担任を見る。西村郁美、地歴の中堅教師だ。地歴に多いZ教組の教師。時々授業を脱線して体制批判をするのが玉に瑕。いい意味で生徒のことは分かっていないしZ教組らしく『自主性』の信奉者で、あまりうるさいことは言わない。組合優先の人で、仕事は二の次。担任としては申し分のない無関心なオバサン。問題行動を起こさなければ、うるさいことは何も言わない。
それより、ビックリしてラッキーと思ったのは蟹江莉乃と同じクラスになったこと。
編成表には「蟹江」としか書いていないが、この珍しい苗字は学年で一人しかいない。で、AKBのセンターを張ってもおかしくないほど可愛い子で、新三年大方の男子の憧れの的である。
今時めずらしいお嬢様で、大きな声一つあげたことがない。けして無口ではないが、荒っぽいところが丸でなく、掃き溜めに鶴を絵に描いたような美人だ。その莉乃と同じクラスになっただけではなく、その本人が、いつの間にかオレの後ろに立っていることに気づいて二度ビックリ。
「会田くんと同じクラスだね。よろしく!」
そう言って、あろうことか、握手をしようと手を差し出してきた。
わ、手とは言え莉乃体の一部に触れられる(#'∀#)!
そして握手をしたあと、莉乃はとんでもないことを言いだした(とっても、いい意味で)
「会田くん、わたしと付き合ってくれない?」
信じられなかった。学校一の美人と同じクラスになることが奇跡なら、握手出来たのはメガ奇跡。でもって莉乃の方から「付き合って欲しい」だなんてギガ、いやテラ単位の奇跡で、担任の好きな言葉で言えば「大革命」だ!
莉乃も、なんだか嬉しそうで、いつもより口数が多く、お互い早めに学校に来たことを素直に喜びあった。
十五分ほどたっただろうか、大方の生徒が揃ったところに、スケバンの海老原のグループがやってきた。
「ち、ばらばらにされちっまってる」
編成表を見て、海老原佳乃子が呟いた。
こいつらは、単なるワルじゃない。制服や生活態度で問題にされるようなことは(目につく限り)することは無い。頭も悪くない。ちょっとした言葉じりを捉え「ちょっと待ってよ今の言葉……」そこから理詰めで相手を追い詰め怒らせ、先に手を出させ、それから相手をボコボコにする。実に陰湿なやつらだ。
こいつらを、バラバラにしたのは学校の知恵だと思う。
「ちょっと、この編成表の話を付けに行こう」
佳乃子は、本当に切れたようで、なんと職員室へ向かいだした。
「ちょっと待って、海老原さん」
あろうことか、莉乃が佳乃子に声をかけた。
「なに、ちょっとあたしら機嫌が悪いの、声かけないでくれる。お嬢さん」
「クラス編成なんて、成績とか名前とかがファクターになって決められるけど、他にもいろんな要素を加味して決められるのよ。でも、それは過去のファクター、新しくシャッフルしたら、おのずと新しい展開が開けるものよ。ネガティブにだけとらえるのは、どうかしら?」
「なんだって……」
佳乃子が静かにキレてきた……。
つづく