大橋むつおのブログ

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ライトノベルベスト《季節の扉・2》

2021-08-08 06:28:24 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

《季節の扉・2》      

 




 父は、言付けた品物に手紙を付けていた。

 なんと、ボクを伯父さんの養子にして、神主を継がせるという、とんでもない内容だった。

「しんちゃん、あんた知らんかったん!?」

 玄関でくじいた足にシップをしながら、マドネエが驚いた。

「手紙一本で、息子のやりとり。あんた、まるで犬か猫の子みたいやなあ」

 今度はニヤニヤする。

 で、結局は、伯父の養子になってしまった(;'∀')。

 大学の四回生になろうというのに、就職のアテもなかった。そう豊かな暮らしができるというわけではないが、神社は食いっぱぐれがない。

 誤解してもらっては困るんだけど、ボクがマドネエの婿さんに成るわけではない。なんせ、マドネエは、ボクより八つも年上だ。それにマドネエは、やりたいたいことがいっぱいある人だから。

 ボクは神主の資格を取るために、K大学の聴講生になった。一年通えば資格がとれる。

 で、このころから季節の扉が見えるようになった。

 なんだか詩的な言い回しだけど、現実的には、こんな感じだった。

 街中で人が二重に見え始める。そして二重の片割れが、何か扉を開ける仕草をして、元の体と重なる。最初は意味が分からなかった。

 やがて気づいた。

 季節の変わり目に多く見ること。人によって開ける扉の大きさが違うこと。

 そして、ごくたまに開けられない人がいること。

 それは、春と夏の境目あたりのころだった。

 神社の境内で休んでいたオジイチャンが二重になったかと思うと、開け損なって、ペタンと尻餅をついてしまった。三回ほどくり返すと、影が薄くなり消えてしまい、同時に本体のオジイチャンは、前のめりに倒れてしまった。救急車が来て病院に搬送されたが、途中で事切れてしまった。

 ああ、あれは季節毎の命の扉なんだな……と、思った。

 そんなある日、天下の一大事が起こった。

 なんと、マドネエが男を連れて帰ってきた。それもフランス人! 

 ジョルジュというニイチャンはボクと同い年。で、なんと、すでに神主の資格を持っていた。大学生のころに日本にやってきて、神道に惚れ込んで、そのまま資格を取ってしまったらしい。

「なんで、神道がええのん?」

 そう聞くと、こう答えた。

「神道には教義が無い。清々しいと思って、そこを清めれば、もう、そこに神さまがいる」

 まるで、メールの返事のように短く明確な答が返ってきた。ジョルジュは神道の本質を理解していた。そして、そのまま伯父の神社の神主に収まった。むろんマドネエの旦那としてである。

 ボクは、骨折り損のくたびれもうけなんだけど、素直に喜べた。ボクは首になることもなく、権禰宜(神主補佐)として神社に残った。

 ジョルジュは、フランス人の神主として有名になり、マスコミにも出るようになり、神社は街の名所になり、いつのまにか縁結びのパワースポットのようになって繁盛するようになった。

 一年もすると、家族だけでは手が回らなくなり、バイトで巫女さんを雇った。

 坂東みなみという子で、ロングの髪を巫女さん風にまとめると、とても和風の美人で、マドネエより、よっぽど神社に似合う。

 ボクは、密かに恋心を抱くようになった。

「しんちゃん。みなみちゃんのこと好きやろ?」

 マドネエにはバレてしまったが、積極的に味方することも、邪魔することもしなかった。

 その年の秋、伯父さんが季節の扉を開けるのに苦労しているところに出くわした。

「おっちゃん、あかん。もう一回失敗したらしまいやで!」

「え、なんやて?」

 扉を開けるのは、もう一人のというか、別の目には見えない伯父さんなので、本人には分からない。

 説明していては間に合わないので、ボクはもう一人の伯父さんが扉を開けるのを手伝った。

 伯父さんは無事に季節の扉を開けた。

 そして、その年の晩秋、マドネエとみなみちゃんが、いっしょに扉を開けるところを見てしまった。
 若いので、簡単に開くと思ったら、二人とも苦労をしていた。「これは危ない」そう思ったぼくは、拝殿から鳥居のところまで走った。

 で、とっさに気づいた。これは自動ドアだ。それもドアノブにタッチしなければ開かないタイプ。
 ボクは、ゆっくりとドアにタッチ、扉は素直に開いた。

「よかったね」

 そう言うと、二人の影は嬉しそうに頭を下げた。

 そして、振り返ると、自分のドアが立ちふさがっていることに気づいた。押しても引いても開かない。むろん自動ドアでもなかった。

 そのとき、前の道路を走ってきた自動車が、道を曲がりきれずに鳥居にぶつかった。

 ドッカーーーーン!!

 ボクは、崩れた鳥居の下敷きになってしまい。気づくとドアの向こう側に居て、それっきりになってしまった。

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