大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『その他の空港・1』

2021-05-26 06:15:56 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト 

 

『その他の空港・1』

 


 荒れ模様の雷雨も収まって、ようやく、空港法第二条で『その他の空港』と雑に分類されるY空港は、その一日の役割を終えようとしていた。

「いやあ、マスコミもねばるもんでんなあ」

 次長が、その性癖であるマメさから、広報室のあちこちに散らばっている湯飲みを片づけ始めた。

「選挙も終わって、もうオスプレイでもないやろにな。あ、すんまへん片倉はん」

「なんの、こないして体いのかしてるほうが、むつかしいこと考えんでええんですわ」

「そのサラリとしたとこは、勉強になりますわ。悪い癖で、ついムキにになってしまう」

「……なんや、あの放送局スマホ忘れていきよった」

「電話したろか、困っとおるやろ」

 空港長の飯山は生真面目にスマホを手に取った。

「触らんほうが、ええですよ。スマホは個人情報の固まりですよって」

 広報の出水結衣が、実年齢より十歳は若く見える顔でたしなめる。

 

 プルルルル プルルルル

 そのとき、管制塔から、広報室に電話が入った……。

『管制塔です、こちらに向かってくる編隊があるのですが、無線連絡に応えません』

「なんで無線にも応えへんのや……向こうからも何にも言うてけえへんか?」

『はい、互いに無線連絡をとってる様子もありません。真っ直ぐうちに向かってきます』

「なんで、うちの空港やねんな?」

 やっと、マスコミとの我慢会が終わってホッとしたところだったので、空港長の眉間にしわが寄る。

 空港長が尖がって、次長が湯呑を片付け終わったころに、それはレーダーに映ってきた。

 九機の小型機が、三機ずつの編隊を三つ組んで、空港法によって「その他の空港」と雑に類別されるY空港を目指して飛んでくるのである。関空でも、神戸空港でもなく。全国でも数少ない交差滑走路を有する他は、先日のオスプレイで問題になるまで、日本中から忘れ去られ、しかも嵐の夜、営業時間も終わった午後八時過ぎにである。

「間もなく視認できます」

 管制塔のみんなは双眼鏡を構えた。赤青の翼端灯の感覚はセスナほどしかなく、それが三機ずつ、三つの編隊になって向かってくる。

「単発の低翼機やなあ、きれいな編隊飛行や……発光信号『本日営業終了』」

「……あきません。ギア降ろして、降りる気満々でっせ!」

 図体に似合わない爆音を響かせながら、九機の小型機はA滑走路に着陸した。ガラに似合わず飛行機にくわしい広報の出水結衣が呟いた。

「うそ、みんな鍾馗や……」

「正気やないで、着陸許可も出してへんのに……」

「飛行第246戦隊・第246飛行場大隊・蟹江中隊九機帰投……だれもおらんのか!!」

「やっぱり、正気やない……」

「鍾馗三編隊の帰投だ、だれも出迎えんのか!」
 
 隊長とおぼしき一番機の搭乗員が叫んでいる。駆けつけた整備員や、警備員と言い合いになり始めた……。

「なんだと、昭和三年だと。違う? 令和三年? なんだそれは? 貴様ら寝ぼけておるのか。今日は昭和二十年五月十七日だ……なんだ灯火管制もせずに、貴様らでは話にならん。大隊長か飛行長殿のところに案内しろ」

「せやから、わたしがこの空港長で……」

「クーコーチョー? なにを寝ぼけたことを、ここは陸軍飛行第246戦隊・第246飛行場大隊の基地だ、見ろ周りを」

 空港長たちは、びっくりした。あたりは真っ暗で、ついさっきまで煌々と輝いてた大阪の街はおろかY市の灯りも見えない。

「ただちに灯火管制、今夜半の敵の襲撃に備え、機体を整備し燃料弾薬の補給をせよ」

「隊長殿、周りの風景が……」

 今度は、周囲の景色が、夕闇の中の二十一世紀のそれに変わった……。

「なんだ、これは……!?」


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