大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)029・いつの間にか

2024-05-13 09:41:39 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
029・いつの間にか                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 あれ?

 いつの間にかバラが盛りになっている。

 たまたま信号で停まった公園の脇――こないだまでは春の名残の八重桜、あ、ツツジとかも咲いていたっけ――と思い出す千歳だが、いつの間にかバラが主役になっているので、小さく驚いた。

 時のたつのは早いものだ。入学式の日、多少の不安はあったけれど、両親のわずらわしさから逃れて大阪で自由な生活ができる……と、開放感の方が大きかった。その開放感に八分咲きの桜は似つかわしかった。

 その桜は、いつの間にか葉桜に、次にサツキやツツジが咲き始め、チューリップが混ざって、今は、文字通りバラが女王様。

 言っているうちに紫陽花が蕾を付けて、うっとうしい梅雨がやって来る。

 信号が青になって、車はグィーンと坂を上る。フロントガラスの景色の半分が空になる。

 この風景は初日から気に入っていた。坂を上って青空が広がった先に七階建ての明るい校舎。大阪どころか全国的にも有名なバリアフリーの惣堀高校は遠い大阪の高校に来る口実になった。姉の瑠璃が大阪で働いているということだけでは納得しない両親を説得できたのは、この学校の存在が大きい。

 しかし、学校は三日でいやになった。

 惣堀の三本杉。

 構われ過ぎ、期待され過ぎ、騒がしすぎ。

 一学期いっぱいは我慢する。そして、がんばったけど合わなかったということで見つけておいた第二候補の学校に転校する。

 人にはけしてネガティブな自分は見せないようにしている。例外は演劇部の部長の啓介だけだ。入部するときに、なんだか宇宙人を見るような目で見られたので、なんだか挑戦的な気分になって本当の気持ちを言ってしまった。

「あたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」

 啓介の目には「車いすの子が演劇なんてありえないだろう」という決めつけと「車いすの子を入れたらムゲに廃部にもできないだろう」という打算が見えた。だから千歳は静かにキレて本音を言ってしまった。

「道変えてみたんだけど、気が付いた?」

「え、そうなの?」

「マッチャマチ通りってとこ通ったのよ」

「抹茶?」

「松屋町と書いてマッヤマチ、オモチャや駄菓子とかの問屋さんが集まってて、おもしろいらしい。ひな祭りや端午の節句、夏は花火とかもバリエーションがあって、さらにおもしろいらしい」

「ふうーん」

「反応うすいなあ (¬д¬。) 」

「え、あ、梅雨も近いだろうしね(^_^;)」

「梅雨ぅ?」

 梅雨には早いぞぉ……と、空を見上げる瑠璃。

 ちょっとブルーになっていたとも言えず不機嫌になる千歳。

 すると、スマホが振動した。

「ん……啓介せんぱいからだ」

――部室棟の取り壊しが決まってしまった――

 え!?

 ガックン

「ごめん、縁石踏んじゃった」

 あやうく舌を噛みそうになって車は学校に着いた。



 その少し前、学校の昇降口。



「よかったやんけえ!」「報われる努力もあるんやなあ!」

 昇降口で上履きに履き替えようとしていると、セーヤンとトラヤンが祝福してくれる。

「なんのこっちゃ?」

 分かってはいるが、ポーカーフェイス。

「クラブやがな、演劇部。なんとかなるもんやなあ」

「ほれ、掲示板!」

 トラヤンが指差す生徒会用の掲示板には『生徒会規約の改正』が書かれていた。

――持ち回りの生徒総会において、下記のように生徒会規約第28条第3項を改正しました。クラブの成立要件を5人から4人に変更する――

「え、4人!?」

「ホームルームで言うてたやろ、みんな異議なしで通ったやんけ」

「世の中、突いたり引いたり、合格点なんとちゃうか」

――しもた、てっきり勝った思て、ちゃんと聞いてへんかったあ!――

 委員長は、演劇的に言って活舌が悪いし声も小さい。大方の生徒には『どうでもええ話し』なので、啓介はてっきり原案通りだと思っていたのだ。

「まあ、最後は職員会議の承認もいるさかいなあ」

「妥当な線ちゃうかあ」

 よく読んでみると、下の方に補足がある。

――なお、成立要件の4人に満たない部活については、一学期末までの猶予期間を与えるものとする――

「クソォ、瀬戸内美春ぅ!」

 歯ぎしりしていると、生徒会の松平先生がやってきて、掲示板に新しい『お知らせ』を貼っていった。

「「「なんやろ?」」」

 それは、啓介にとっては完全な死亡宣告であった。

――調査の結果、部室等は緊急に取り壊すことになったので立ち入りを禁じます。学校長――

「な、なんちゅうこっちゃ(;'∀')!」

 数十秒間ゲシュタルト崩壊した啓介は、やっと気を取り直して千歳と須磨にメールを打ったのだった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     

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