実朝の歌は、蜩(ヒグラシ)が喧しく鳴いていた夏が終わり、暑さも和らぐ頃、7月(旧)初めに詠まれた歌である。時期的には今日とは随分異なるが、気候的にはちょうど今頃(旧8月)と言えるでしょうか。秋風に敏感に反応しています。
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[詞書] 七月(フミヅキ)一日(ツイタチ)のあしたよめる
きのふこそ 夏は暮れしか 朝戸出の
衣手さむし 秋の初風
(『金槐集』秋・155; 『新続古今集』巻四・秋上・347)
(大意) 昨日こそ 夏が終わったのであろう、朝の外出時に袖口の寒さを覚え
たよ、きっと秋の初風に違いない。
註] 〇朝戸出の衣手:早朝の外出の着物の袖。
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<漢詩>
初秋風 秋の初風 [上平声一東韻]
無端知昧旦, 無端(ハシナクモ) 昧旦(マイタン)に知る、
先已晚蝉終。 先(マ)ず已(スデ)に 晚蝉(ヒグラシ)終(ヤ)む。
早班袖口冷, 早班(ハヤデ)に袖口(ソデグチ)冷(サム)く,
応是初秋風。 応(マサ)に是(コ)れ 初の秋風。
[註] 〇無端:偶然に; 〇昧旦:まだ暗い明け方; 〇早班:早出の勤務。
<現代語訳>
秋の初風
偶然にも今朝早くに知ったのだが、
先に蜩(ヒグラシ)の鳴くのは終(ヤ)んでいる。
早朝の早出で外に出ると、袖口が寒かったよ、
まさに秋の初風のせいであろう。
<簡体字およびピンイン>
初秋风 Chū qiū fēng
无端知昧旦, Wúduān zhī mèi dàn,
先已晚蝉终。 xiān yǐ wǎn chán zhōng.
早班袖口冷, Zǎo bān xiù kǒu lěng,
应是初秋风。 yīng shì chū qiū fēng.
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今年は、例年になく、世界規模で地球温暖化が進み、日本では未だに日中は30数℃を超す猛暑・苦熱に悶々として過ごす日々である。文明の利器・冷房機なしでは、生命を危険に晒す状況である。ここ2,3日、朝夕やや涼しさを覚えるが、本格的な秋の到来を待つ思いや切なる所である。
次の歌は、実朝掲歌の本歌とされている。
きのふこそ 早苗とりしか いつのまに
稲葉そよぎて 秋風の吹く (読み人知らず 『古今集』巻四・秋上・172)
(大意) 早苗を採り、田植えしていたのは、つい昨日だと思っていたのに、
いつの間にか成長し、稲の葉が秋風に揺れてそよそよとそよいでいるよ。