愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題386 源氏物語(五帖 若紫) 初草の若葉の上を 紫式部

2024-01-22 10:07:53 | 漢詩を読む

zzzzzzzzzzzzzz 若紫-1  

 

[帖 若紫-1 要旨] (光源氏 18歳)

3月末の頃、源氏は、“おこり”に罹り、療養に北山のさるお寺の修験僧を訪れ、祈祷を乞うた。近くの庭の造りも凝った山荘で、10歳くらいで、一際 麗質を備えた女の児(若紫)が目を引いた。恋しい藤壺の宮によく似ていて、心が惹かれた。

  源氏は、その子を手元に迎え、教養を与えて、未来の理想的な妻として育て上げたいとの強い思いに駆られる。その旨をお寺の僧都を通じて訴えるが、その子の祖母である尼は“…未だ幼齢であることから、…”と、源氏の希望を拒み、源氏の願いは聞き届けられません。源氏は、次の歌を尼に届ける:

 

  初草の 若葉の上を 見つるより 

    旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ (光源氏) 

 

僧都に拠れば、尼君は、僧都の姉で、亡き按察使大納言との間に娘がいた。この女人は、藤壺の宮の兄・兵部卿の宮夫人で、娘を設けたが、娘の誕生後間もなく亡くなった。その娘が件の女の子(若紫)であった。即ち、若紫は、藤壺の宮の姪である。

源氏の病は、すっかり良くなり、病苦から解放されて、京に帰って行った。

 

本帖の歌と漢詩 

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初草の 若葉の上を 見つるより 

  旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ (五帖 若紫-1) 

  [註] 〇初草:春の初めに萌え出る草、若草;幼い子などに譬えられる。

 (大意) 初草のような若葉の方を見てからというもの お逢いしたい気持ちで 私の旅寝の袖は涙の露で濡れたままで、乾くことはありません。

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<漢詩> 

   旅途一見鍾情小姬  

               旅途(タビサキ)で一見鍾情(ミソメ)た小姬  [上平声四支韻]

猶如若草麗小姫, 猶如(アタカ)も若草の如く麗しき小姫,

窺視鍾情多所思。 窺視(ヌスミミ)て鍾情(ミソメ)て 思う所多し。  

不能相見辛酸淚, 相見(アイマミエ)ること能(アタワ)ず 辛酸(シンサン)の淚,  

旅睡衣袖無燥時。 旅睡(タビネ)の衣の袖 燥(カワ)く時無し。

 [註] 〇猶如:あたかも…のようだ; 〇窺視:盗み見る; 〇鍾情:

   惚れ込む、好きになる; 〇辛酸:つらい思い; 〇燥:乾いている。

<現代語訳> 

 旅先で見初めた可愛い娘  

恰も若草のようなかわいい女の子、 

ちらっと眼に止まり 惚れ込んでしまい 胸いっぱいである、

直にお逢いすることが叶わず 辛く涙がこぼれ、 

旅寝する衣の袖は涙で濡れたまゝ 乾くことがない。

<簡体字およびピンイン> 

  旅途一见鍾情小姬 Lǚtú yī jiàn zhōngqíng xiǎo jī 

犹如若草丽小姫, Yóurú ruòcǎo lì xiǎo jī,    

窥视鍾情多所思。 kuīshì zhōng qíng duō suǒ .   

不能相见辛酸泪, Bù néng xiāng jiàn xīnsuān lèi, 

旅睡衣袖无燥时。 lǚ shuì yī xiù wú zào shí.

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源氏の歌に対して、尼は、次の返歌を送っている:

 

枕結ふ 今宵ばかりの 露けさを 深山の苔に くらべざらなん 

 (大意) 旅寝の枕を結ぶ今宵一晩だけの涙の露を、深山の苔と較べないでください(深山の私どもは、一晩だけではなく、いつも袖が涙に濡れてかわくことはないのです」。

 

【井中蛙の雑録】 

〇『源氏物語』とは、「歌物語」と題した方が的確であるように思われる。総じて795首の歌が含まれるとされ、本帖でも25首あります。本稿では各帖1~3首を選び、漢詩化を進めつつ、物語の要旨を’語って’行くつもりです。

 

zzzzzzzzzzzzzz 若紫-2 

[帖 若草-2 要旨] 

藤壺の宮は、体調が勝れず、宮中から自宅へ退出していた。この機会を逃しては、いつ逢えるか知れないと、源氏は、藤壺の女房・王命婦(ミョウブ)に逢える機会を作るよう迫る。

王命婦の働きで、わずかな逢瀬の機会を持つことができました。しかし永久の夜が欲しいのに、思いの一部さえ告げる時間もなく、却って恨めしい、と別れの時に詠った歌:

 

見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに

     やがて紛るる 我身ともがな    (光源氏) 

 

帝は御所へ帰るよう促すが、藤壺の宮は病の経過もよくなく、里居を続けている。宮自身、生理現象を感じ、また女房達も気づきだした。妊娠3ケ月であった。初秋七月、藤壺の宮は御所へ戻った。帝は最愛の方が懐妊したことを知り、一層 宮に思いを寄せるようになる。 

一方、源氏は、若紫を手元へ迎えるよう僧都や尼君などに掛け合うが、賛同は得られない。尼君の没後、49日過ぎのある日、父の兵部卿が引き取ることになっていた日の早朝、惟光を伴い、若紫を連れ出し、二条院に伴ってきた。

 

本帖の歌と漢詩 

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見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに

     やがて紛るる 我身ともがな

   (大意) こうしてお目にかかっても、これからも二度と逢う夜はめったにないでしょうから、夢としか思えぬこの逢瀬の中で、このまま紛れ 消える我が身でありたい。

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<漢詩> 

 才成就幽会        才(ヤット)成就せし幽会 

 [上平声五微-上平声四支通韻]  

從教才有会君機, 從教(サモアラバアレ)才(ヤット)君に会う機有り, 

但再逢応是稀奇。 但だ再び逢うは応に是れ稀奇(キキ)ならん。 

無端如夢茲相会, 無端(ハシナクモ) 夢の如くに茲(ココ)に相い会う, 

願此機身熄滅期。 願わくは此の機 身の熄滅(ソクメツ)する期なるを。

 [註] ○幽会:密会; 〇從教:ままよ; 〇稀奇:稀な、珍しい; 〇無端:思いがけず; 〇熄滅:消えてなくなる。

<現代語訳> 

 やっと果たせた逢瀬 

ままよ やっとこうして君に逢う機会を得た、とは言え 再び逢う機会はめったに来ないであろう。思いがけず 夢のようにここでお逢いしている、願わくば この機会にわが身がこのまま消えてなくなってほしいものだ。

<簡体字およびピンイン> 

 才成就幽会        Cái chéngjiù yōuhuì  

从教才有会君机, Cóng jiāo cái yǒu huì jūn ,  

但再逢应是稀奇。 dàn zài féng yīng shì xīqí.    

无端如梦兹相会, Wúduān rú mèng zī xiāng huì, 

愿此机身熄灭期。 yuàn cǐ jī shēn xīmiè qī.

ooooooooooooo   

 

藤壷の宮は、涙にむせ返っていう源氏の様子をみると、さすがに悲しくなって、次の歌を返した:

 

世語りに 人やつたへん 類ひなく 憂身をさめぬ 夢になしても

  (大意) 世間の語り草として、人に語り伝えられるのでしょうか 比べ物がないほど辛いわが身を 目覚めることのない夢の中のことにするとしても。

 

コメント
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