愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 418 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十三帖 藤裏葉)

2024-08-19 09:55:38 | 漢詩を読む

[三十三帖要旨] 夕霧と雲居雁はかつて相思相愛の仲であったが、内大臣は雲居雁を春宮に入内させたいとの思惑があって、二人の交際を禁じた。あれから数年経った今、内大臣はむしろ二人の結婚を願う。だが内大臣-夕霧の間には蟠りがあり、互いに話しかけにくい状況にある。夕霧の他との縁談話を聞き、内大臣は焦燥する。

 

春三月二十日、故大宮の一周忌に当たり、一族の極楽寺での参詣の際を機に、内大臣と夕霧は会話を交わすことができた。内大臣は自宅での藤の花の宴へ夕霧を招き、酒杯を取り交わします。頃合いを見て内大臣は機嫌よく、娘を藤の花に譬えて歌を詠み、息子の頭中将に命じて、房の長い藤一枝を折ってきて、夕霧の杯の台に添えさせて、贈った。内大臣の仲直りの歌:

 

  紫に かごとはかけん 藤の花

    まつより過ぎて うれたけれども  (内大臣)

 

夕霧は晴れて雲居雁との結婚を許されました。

 

明石の姫君の入内が二十日過ぎと決まる。源氏と紫の上と相談の上、入内する姫君への付き添い、またそれ以後の後見に、実の母親である明石の上が付き添うことになる。後見の交代を機に紫の上と明石の上は初めて対面し、互いにすぐれた人柄を認め合い、二夫人の友情は固く結ばれていく。

 

頼りない男と見えた夕霧の結婚、また明石の姫君の春宮への入内と すべてを手に入れた源氏は、もう出家してもよい時が来たと思うのである。

 

源氏三十九歳の秋、源氏は准太上天皇の位を得て、朝廷では、翌四十歳の賀宴の用意がなされている。また内大臣は太政大臣、夕霧は中納言に昇進した。十月には冷泉帝と朱雀院が六条院に華やかに行幸されます。朱雀院と源氏は、かつての紅葉賀を思い起こすのでした。冷泉帝の御代、源氏とその一族の栄華は例えようもありません。

 

本帖の歌と漢詩

ooooooooo    

  紫に かごとはかけん 藤の花 

    まつより過ぎて うれたけれども  (内大臣) 

   [註] ○かけん:望ましくないことを、他に負わせる; 〇うれたし:

    “うれいたし(心痛し)”の 音変化、心痛し、憎らし; ○「まつ」: 

    「待つ」、「松」の掛詞、「藤」の縁語。「うれたし」の“うれ”は末

    (うれ) の縁語。 

   (大意) 紫の藤の花(雲居雁)にことよせて免じましょう、今日まで、

    久しく待ちすぎて、心苦しく思いますが。 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩> 

  和解         和解             [下平声六麻韻] 

 假託紫藤花, 紫藤花(フジノハナ)に假託(カタク)して, 

 饒恕往日奢。 往日の奢(オゴ)りは饒恕(ジョウジョ)せん。 

 讓君長久等, 君を讓(シ)て長久(ヒサシ)く等(マ)たせしは, 

 悲痛一嘆嗟。 悲痛(ヒツウ) 一(イツ)に嘆嗟(タンサ)たり。 

  [註] ○假託:ことよせる、かこつける; 〇饒恕:許す、大目に見る; 

   ○往日:昔日; 〇奢:おごり、おごるさま; 〇悲痛:心の痛み; 

   〇嘆嗟:嗟嘆、舌打ちして歎く。      

<現代語訳> 

  仲直り 

 藤の花にことよせて、 

 これまでの勝手にしてきたことは、大目に見ることにしましょう。 

 長い間待たせてしまったことは、 

 大変心苦しく思っていますが。 

<簡体字およびピンイン>  

  和好          Hé hǎo  

 假托紫藤花, Jiǎtuō zǐténg huā,   

 饶恕往日奢。 Ráoshù wǎngrì shē.   

 让君长久等, Ràng jūn chángjiǔ děng, 

 悲痛一叹嗟。 bēitòng yī tàn jiē

ooooooooo  

 「私はこれまでの蟠りは捨てます、雲居雁との結婚を許しましょう」と、

仲直りを宣言して、内大臣は、上掲の歌を贈ります。それに対して、夕霧は、盃を持ちながら、頭を下げて謝意を表する形で、次の歌を返します:

 

いく返り 露けき春を すぐしきて 花の紐とく 折に逢ふらん 

 (大意) いったい幾度涙に濡れる春を過ごしてきて 望みの叶う折に巡り

  逢えたことか。

 

【井中蛙の雑録】

○三十三帖の光源氏 39歳春~冬。

『蒙求』と『蒙求和歌』-2  四字句の意味は? -② 

 『蒙求』の四字句を通覧、興味を惹く四字句について見て見ます。まず、漢詩に関係のある人物、酒好きな隠逸/田園詩人の陶淵明。次の三句がある:343武陵桃源、488陶潜帰去および525淵明把菊 の3句(頭の数字:便宜的に『蒙求』中に列記されている順番を示す)。それぞれ、陶淵明の作品の伝記小説『桃花源記』、長編詩「帰去来辞」および「飲酒20首 その五」に関わる事柄と言えよう。

  諸葛孔明についても、先に挙げた句の他、293葛亮顧盧および485亮遣巾幗があり、前者は“三顧の礼”に、後者は五丈原の戦で、動かぬ司馬懿に巾幗(キンコク、女性の髪飾り)を送り、挑発したという故事による。

 これらの例から知られるように、〇初めの二字は、主に“人物”を示し、その 本名や字(アザナ)の他、地名など人物を想起させる用語、及び 〇総じて596句からなるが、対象人数が596人ということではない、と言える。

 

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