図書館の新刊書のコーナーで、上品な装丁だったので手に取ったものです。
IT関連企業JBCCホールディングス社長の石黒氏と12人の多彩なジャンルの著名人との対談集です。
興味深い話題が多くありましたが、その中からちょっと気を惹いたものを以下にご紹介します。
まずは、「ネットワーク社会における基本ルール」についての金井壽宏神戸大学大学院経営学研究科教授の考えです。
(p76より引用) ネットワーク社会ならではのルールは確かに必要でしょうが、「ウソをついてはいけない」という基本は同じだと思います。言い換えるなら、誰も見ていなくても「お天道様が見ている」ということです。日本人の「恥」という意識は、他人から見られて恥ずかしいのではない。他人の視線には関係なく心の中に「恥」がある。恥はひとが見ているから生じるといった米国のR.ベネディクトの説を批判して、わが国の社会学者の作田啓一先生が看破したしたような、日本人の心の中にある「恥」の意識はまだまだ健在だと感じています。この意識をきちんと発揮させるような仕組み作りが必要なのではないでしょうか。
「恥」の意識の意義については異議を唱えるものではありませんが、そのための「仕組み作り」が必要というのはどうでしょう。「仕組み」がないと成り立たないということは、「本来の心情の元にあるもの」とはいえないような気がします。
次は、作庭家重森千青氏が語る「古典の斬新性」についてです。
(p90より引用) 古典はそれが誕生した時代において常に斬新であり、だからこそ古典として命を長らえるのだと思います。・・・この斬新に牽引される形でさまざまな文化も生まれてくる。ここに古典の重要性があるのですが、これを模倣していては新たな古典は生れない。・・・古典の斬新性を上回らないことには古典を学ぶ意味がない。これが永遠のモダンにつながっているんです。
古典はしばしば「保守的」「静的」なものとして捉えられがちです。しかしながら、「古典」として後世に残るものは、その当時「革新的なダイナミズム」をもっていたとの指摘です。
蓋し慧眼だと思います。
続いては、日本に止まらず世界各国で植樹活動を行っている横浜国立大学名誉教授宮脇昭氏の「本物の木」についての言葉です。
(p185より引用) 石黒 「本物の木」とはどういうものですか?
宮脇 元々その土地に生えていた木です。新たに木を植えるというと、換金しやすい木や、すぐに成長する見た目のよい木を植えたくなります。そういう木はすぐに大きくなります。ところが、最初は調子がよいものは後が続きません。企業が人材を育てるのと同じで、調子がよいだけの社員は役に立たない。最初は育てるのに苦労しても、しっかりと大地に足のついた植物は大きな益をもたらします。
そして最後は、冷泉家第25代当主冷泉為人氏の「型の文化」についての言葉です。
(p230より引用) お茶の世界には「守破離」という言葉がありますね。型を踏襲して、それを破り、師匠から、型から離れていく。その過程を踏まえたときには、おのずから個性が生まれてくる。そういうものが型の文化の本質であると私は思うのです。ところが現代人は自分の思いを表現し、表白すれば、それだけで個性だと見る。勘違いもはなはだしいと思いますね。
対談に登場した方々の多くは、気負ったところがなく淡々と本質を突いたお話しをされています。
「悠然」とした受け答えです。
12賢者と語る 和らぐ好奇心 価格:¥ 1,800(税込) 発売日:2009-06-04 |
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
TREviewブログランキング