以前、野中郁次郎教授が主宰していたフォーラムに参加していたことがあるのですが、本書は、その事務局の方から、野中氏の最近の著作としてお送りいただいたので読んでみました。
ご存知のとおり、従来から野中氏が提唱しているのは、形式知と暗黙知の往還を基本コンセプトにおいた「知識創造理論」です。
本書では、野中理論の最近の展開として、「共通善(コモングッド)」を根底にした実践知にもとづくプロセス理論が、9つの具体的な事例を材料に解説されていきます。
このプロセス理論を野中氏は「知の作法」と名付けているのですが、そのなかで最初に紹介されているのが、「実践的三段論法」です。具体的事例は、旭川市立旭山動物園と京都市立堀川高等学校です。
まず、野中氏は、「理論的三段論法」の適応領域とその限界についてこう指摘します。
(p70より引用) 理論的三段論法は普遍的な命題から演繹的に結論を導き出すものです。・・・理論的三段論法は形式論的には正しく、ひとつの真実に到達することはできます。
しかし、・・・論理的に正しいからといって、だから何なのでしょう。ここにはなんらの知の創造性も生産性もありません。論理的な正しさを問うことと、新しい知を生むことはまったく違います。
大前提・小前提・結論から成る「理論的三段論法」に対して、「実践的三段論法」は、目的→手段→行動というプロセスで構成されています。「何を知りたいか(目的)」「どう知るか(手段)」「どう行動するか(行動)」の3ステップです。
(p73より引用) 堀川高校の探究科では、実践的三段論法により、実践を反復し、個別具体の事実から普遍的命題を導き出します。この経験を通して知識が知恵化し、自分のものとなっていきます。
「与えられる教育」が形式知ベースの詰め込みであるのに対し、探究科では経験を通して知識が知恵化し、自分のものとなっていくという暗黙知ベースの学びにより、自ら成長していくのです。
この「仮説→検証→行動」というプロセスを繰り返し実践していくことは、「新たな知の獲得」に繋がっていきます。
(p73より引用) 実践的三段論法のもう一つの特徴は「目指すべき目的」「実現する手段」「起こすべき行動」のいずれもが仮説であり、実践した結果を検証し、修正していくというプロセスが含まれていることです。・・・大前提である目的そのものを修正することもありえます。
このサイクルのなかで、演繹法(deduction)や単なる演繹法(induction)とは異なる「仮説設定(abduction)」という直観的な発想法が習得されていくのです。
(p79より引用) 新たな知識創造には本来、仮説の生成が必要です。仮説は目の前の個別具体的なミクロの事象を普遍的なマクロの概念に結びつけるなかで自分の内からわきあがってくるものです。
昨今、特に「仮説検証」型のアクションが推奨されていますが、実はスタートとなる「仮説の設定」が非常に難しいのです。
この点について、野中氏は、場の共有や経験にもとづく「実践知」の役割を指摘しています。
(p80より引用) 理論的推論はロジカルシンキングと呼ばれるものです。旭山動物園の変革も、堀川高校の変革もロジカルシンキングだけでは生れませんでした。旭山動物園の小菅氏と堀川高校の荒瀬氏に共通するのは、現場で個別具体の世界から入りながら、普遍と結びつけ、最善の判断を行う実践的知恵、すなわち、プラクティカルウィズダム(実践知)です。
この「ロジカルシンキングからプラクティカルウィズダムへ」が野中氏の主張する変革のリーダーシップのあり方の根幹になります。
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