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爆速経営―新生ヤフーの500日 (蛯谷 敏)

2013-12-01 08:57:06 | 本と雑誌

Yahoo_japan_logo  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。

 カリスマ的存在感を示していた井上雅博社長から後任を任された執行役員宮坂学氏。
 本書は、2012年4月宮坂氏CEO就任以降の新生ヤフーの改革の実像をレポートしたものです。

 井上氏に率いられたヤフーは、1996年の設立から検索サービスをコアにした広告事業やネットオークション事業等を収益源に大きく成長し、未だに日本におけるポータルサイトの巨人企業として君臨しています。
 創業から成長期にかけての会社の舵取りは、一般的なベンチャー企業の通例の如くトップの圧倒的なリーダーシップの下でなされていました。まさに、前社長の井上雅博氏の経営スタイルは、典型的な「トップダウン型」でした。

(p97より引用) 自らが組織の細部にわたって目配りし、強い権限を持って事業を動かして戦略を遂行していくマイクロマネジメント型の経営者だった。

 しかしながら、現在のヤフーは提供サービス150以上、社員も5,000名を越え、大企業病的な兆候も見え始めてきました。そういったタイミングで社長に指名された宮坂氏は、井上氏とは全く別のアプローチを選択しました。
 それは「原理原則で動かす」という手法でした。

(p97より引用) 意思決定をする判断のよりどころとななるルールを公開し、社員に周知させたうえで事業を進めるというスタイルである。宮坂は管理型のマイクロマネジメントではなく、社員が自律的に動く、ルールに基づく権限移譲型のマネジメントを目指した。

 「権限委譲」と言っても、そのスタイルを機能させるためには、具体的な事業を任せられる人材の発掘・確保が必須条件になります。そして、適材を適所に配したところで、それらの人材に最大限の能力を思う存分発揮してもらうのです。

(p108より引用) 要は才能がある人とチームを組むことなんですよ。何でも自分が指示を出すのではなく、チームで結果を出していくことに意識を変えれば、もっと大きいことができる。
 結局、マネジメントというのは人に結果を出してもらうことが仕事です。自分ではない人が結果を出せるように、どうサポートするのかが本質的に重要じゃないですか。

 そして、最後に、新たなヤフーの経営戦略を徹底させる方法が「評価」です。宮坂氏はソフトバンク執行役員青野人事部長から、こんなアドバイスを受けていました。

(p194より引用) 人事評価制度の要諦は3つしかない。
 まず、頑張る人が報われるということを社内に周知させること
 そして、実際に頑張った人に報いること
 さらに、どうしたら報われるのか、その基準を明確にすること
 この条件が満たされていれば、組織は活性化する

 宮坂氏が引き継いだときのヤフーは、こういった評価の基準が不明確になっていました。宮坂氏は、評価の基本を「業績評価」と「貢献効果」の二本立てとし、「貢献効果」についての評価軸も明確化しました。

(p196より引用) 新生ヤフーの評価軸となる4つの「バリュー」が決まった。
「課題解決をしたか」
「やるべき業務にフォーカスしているか」
「既存の枠組みにとらわれない、ワイルドな判断をしているか」
「何よりも爆速で動いているか」

 貢献評価はこれらのヤフーのバリューを満たしているかで判断される。

 確かに「評価」において公平・公正という観点は最重要ポイントですし、それらを可視化する営みも望ましいものだと思います。宮坂社長の改革で、従前の状況よりも大きく改善したというのも事実でしょう。

 ただ、「評価」における最大の問題点は、「『絶対評価』が最終的には『相対評価』に転化される、そしてその時点で、被評価者の心情に不満感・不透明感が惹起される」ということだと、私は考えています。
 ほとんどの社員はそれなりの成果を出していますし、経営方針に沿った貢献を行っています。『絶対評価』では「及第点」なのです。が、しかしながら多くの企業の場合、「絶対評価」が最終評価になるのではなく、最後の最後は評価結果をグレード分けした「相対評価」に落とし込みます。昇格のポストや賞与の原資が有限である以上、これはやむを得ない制度上の限界でもあります。
 だからこそ、「評価」は極めて人間的な営みであり、評価者の総合的な人格も試される「管理者にとっての究極の中核業務」と位置づけられるのです。

 さて、最後に本書を読んでの感想です。
 タイトルは「爆速経営」ですが、その他にも、「経営は軍議長くすべからず」「組織は原理原則で動かす」「アサインよりもチョイスを増やす」といったキーフレーズで表現されたアドバイスも豊富。それらは、ネット系ベンチャーのみならず、ひろく一般の企業においても首肯できる内容です。

 もちろんメインテーマである社長交替後の宮坂新社長が取り組んだヤフー大改革の経緯や背景に関しても、とても分かりやすく描かれていると思います。
 ただ、読みやすい分、少々物足りなさも感じましたね。
 前井上社長のマネジメントスタイルと昨今のマーケットトレンドとの間で、どんな不整合が事実として具体的に生じ始めたのかとか、会社としての経営方針の大転換が、従来からいる社員にとって具体的にどんなインパクトを及ぼしたのかとか・・・、もう少しベタでドロドロした姿も紹介して欲しかった気がします。
 

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価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2013-11-07


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