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BL小説・風のゆくえには~遭逢5-2(慶視点)

2015年12月04日 07時26分42秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 2週間探しても会えなかったのに、一度会えたらその翌日に図書室でばったり再会するなんて、そんな偶然があるもんなんだな……。

 別れ際、急に元気がなくなったのが気になるところだ。部活の帰りにうちに寄ってくれるというから、来たら聞いてみよう。

「あいつ、甘い物好きかな……」
 帰ったら夕飯だろうから、少しだけ腹に入るものがいいよな……チョコとか?

 おやつの入っている棚を開けてうんうん唸っていたら、

「何してんの?」

 妹の南が横から手を伸ばしてきて、煎餅の入った袋を取っていった。
 そうか。甘い物ダメだったら煎餅でも……

「今からちょっとだけ友達来るから、何か出そうと思って」
「友達? 誰?」
「誰って……」

 答えに詰まっていると、南がにやーっと笑った。

「昨日、お兄ちゃんのこと自転車で送ってきた人?」
「ど……どうしてそれをっ」

 こいつ、本当にこわい。見張ってるのか?!
 南は今、中学3年生なんだけど、中1の夏あたりから、妙におれの動向をチェックするようになった気が……。

 南はニヤニヤと笑いながら、

「昨日たまたま見たの。同じクラスの人?」
「いや、違う。……って、お前に関係ねえだろ」

 目を吊り上げて言ったけれど、南は懲りた様子もなく軽く肩をすくめた。

「あっそ。せっかく、きのこたけのこの隠し場所教えてあげようと思ったのに」
「なんだとっ」

 きのこたけのこって、きのこの山とたけのこの里かっ。
 そんな魅力的なものが今うちにあるとはっ。どこにあるんだっ。

 つめよると、南はボリボリと煎餅を食べながら、しらばっくれた。

「さあ……関係ない私には関係のない話ですからねえ……」
「………」

 くそー……昔からこいつには絶対に敵わない……。

「分かった……教えるから、教えてくれ」
「おっけー」

 またまたニヤッと笑う南……。
 ホントこいつヤダ……。


 きのことたけのこの箱を前に、かいつまんで奴との出会いの話から昨日の再会、今日の再再会の話をすると、南は、ホウッとため息をついた。

「なるほどねー。それでお兄ちゃん、2週間前から急にバスケ復活したのね」
「………」
「それでお姉ちゃんとも仲直りしたわけね」
「仲直りって……別に喧嘩してないし」

 姉がおれの担当医だった近藤先生と付き合っていると聞いた時から、おれは姉のことを避けていたけれど、喧嘩をしていたつもりはない。
 でも、確かに、2週間前に奴の話を聞いてもらったのをキッカケに、今までみたいに話せるようにはなったけど……

「椿姉のことは関係なくね?」
「んーどうかしらー?」

 南が、ふ、ふ、ふ、と怪しげに笑った。
 こいつ、中学入ってから、言動おかしくなったよな……。せっかくわりと美人なのに、全然美人に見えない。文芸部の友達と、おれと父には見せられない、あやしい本を作ってるらしいし……。

 南は興味津々という感じに聞いてくる。

「名前は何て言うの?」
「……さくらい、こうすけ」

 初めて口に出して言ってみた。言いながら、なぜか恥ずかしくなってきた。なんで名前いうだけなのに恥ずかしいんだっ。意味が分からない。

「こうすけさん、ね。どんな人なの?」
「どんなって……」

 うーん……と唸りながら答えようとしていたところ、外から自転車を停める音が聞こえてきた。

「……っ」
「きた!」

 ドキッとした。……なんで、ドキッ、だよ! いやいや、南がいきなり大きい声だすからだっ。

 動揺したおれのことを置いて、南は、なぜかわあっと嬉しそうな声を上げ、

「はいはーい! いらっしゃーい!」
「ちょ、ばか、南っ」

 玄関にむかって走っていってしまった。あわてて追いかけていくと、

「いらっしゃーい!」
「!」

 南が勢いよく開けた玄関の先に、インターホンを押そうとしたままビックリしたように固まっている、こうすけ、がいた。

「あ………」
 本当に、きた。おれのうちに、きた。

「こんばんはー! 妹の南でーす」
「あ……妹さん」

 こうすけ、は、ニコリとした。優しい笑顔。こんな顔もするんだ、となぜかちょっと感動する。

「入って入って! お兄ちゃん、こうすけさんのためにお菓子何出すかってすっごい悩んでてねー」
「南、余計なこと言うなっ。まあとにかく上がれ………どうした?」

 戸惑ったように固まっている、こうすけ……。

「どうしたんだ? 入れよ」
「……お菓子?」
「ああ。きのこの山とたけのこの里。お前どっちが好き?」
「…………え」

 まだ固まってる……。

「どうした?」
「あ、うん」

 こうすけ、ふうううっと大きく息を吐いた。

「ごめん、おれ、人の家とか、その……慣れてなくて。緊張してるっていうか」
「別に何もねえぞ?」

 変な奴。

「とにかく入れよ」
「………うん」

 ようやく、こうすけが玄関の中まで入ってきた。

「おじゃまします」
「おお。上がれ」

 おれの日常空間にこいつがいるってことがなんだかくすぐったい。


**

 
 『古典 1年9組 桜井浩介』

 ノートの表紙のやたら綺麗な字。
 こうすけってこういう漢字なんだ……。

 そのノートを開いて、驚きのあまり叫んでしまった。

「お前、これ、どうやって書いてんの?!」

 キレイに色分けされ、単語ごとの注釈も細かく書かれていて……こんな完璧なノートみたことがない!

「あの早口授業でどうやったらこんなに綺麗に……」
「ああ、授業中にとってるノートはこっちだよ」

 見せられたノートにはミミズがのたくったみたいな字が……。なんて書いてあるかまったく読めない……。
 これを家に帰ってから綺麗にまとめ直してるらしい……

「お前もしかして……すげえ頭いい?」
「そんなことは……」
「入学してからすぐやった実力テスト、何位だった?」
「え………」

 張り付いた笑顔のまま答えようとしない浩介。

「もしかして総合1位?」
「まさか」
「でも10位以内には入ってるだろ?」
「…………」

 困ったような笑顔。ってことは、10位以内ってことだな。すげー……。

 なんか本当に不思議な奴。いくつ引き出しがあるんだってくらい、色々な面がある……。

「とりあえず、写させてくれ」
「うん」

 写しながら、分からないところを聞くと、すごく丁寧に教えてくれた。中森の授業より、よっぽど分かりやすい。
 教えてくれている時の浩介は、何だか別人みたいに頼りがいがある感じで、本物の先生みたいだ。

 こいつ、いったいいくつ顔を持ってるんだろう。
 その顔を全部見てみたい。

 もっと、お前のことが知りたい……

「……どうしたの?」
「あ、なんでもないなんでもないっ」

 あまりにもマジマジと顔を見ていたせいか、浩介に気づかれ、あわてて手を振る。
 何、野郎に見とれてんだよ、おれ。

「お前教えるの上手だな。本物の先生みたいだ。本当に助かっ……え?」

 そこらを片付け、浩介の完璧ノートを返したところで、なぜか浩介の顔色がみるみる悪くなってきた……

「な、なに? どうした?」
「………ごめんなさい」
「え?」

 いきなり頭を下げてくる浩介。意味がわからない。

「何がごめん?」
「あの……教えたりして」
「は?」

 え、意味わかんないんだけど?

「あの……同級生に教えたりするのは失礼だって……」
「は? 別に失礼じゃないだろ。こっちは助かってんだし」
「でも……」

 浩介、なんだか苦しそうな切なそうな表情をしてる。……あ、この顔。今日の図書室の帰りと同じ顔だ。

「もしかして……今日の昼休みも同じこと思ったのか?」
「…………」

 無言は肯定だろう。
 ノートを貸してくれる、と言いながらも、失礼なんじゃないか、と不安になったってことか。

「バカじゃねーの」
 思わず言ってしまう。

「誰にそんなこと言われたのか知らねえけど、友達だったら教え合ったり助け合ったりするの当然だろ」
「………え」

 浩介が目を瞠った。

「………友達?」
「あ、そうだ。じゃあさ、おれがバスケ教えてやるから、お前おれに勉強教えてくれよ」
「え………」

 我ながら良い案だ。そうすれば、木曜だけじゃなくて、もっと会えるじゃないか。

「だめか?」
「………ううううんっもちろん大丈夫っ」

 ようやく明るい表情に戻った浩介。

「そうしたら、木曜日だけじゃなくて、他の曜日も渋谷に会えるってことだよね? 嬉しいっ」
「な…………っ」

 変な発言も戻ってきた。
 いや、おれもまったく同じこと思ってたけど、でもそれを恥ずかし気もなく言ってしまうお前はやっぱり変だっ。

「と、とりあえず、きのこたけのこ食おうぜ。お前どっちが好き?」
「たけのこ!」
「おおっおれもっ」

 同じものが好きってことが、なんだかくすぐったくて嬉しい。
 次の約束をできることが、すっごく嬉しい。



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お読みくださりありがとうございました!
まだ友情段階の二人。
まったりした話ですみません……でもまったりしてるんです。はい。
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BL小説・風のゆくえには~遭逢5-1(慶視点)

2015年12月03日 10時30分35秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢
 二週間探し続けていた『あいつ』に、ついに会えた。
 予想通り体育館にいた『あいつ』と話して、そのあと、自転車で送ってもらって、来週も会う約束もした。

 うちの前で自転車の後ろ姿を見送りながら、夢みたいだ、と思った。本当に会えて、こうして話せるなんて……

 でも、『夢みたい』って気持ちは、あいつの方がずっとずっと大きいだろう。何せ……

『おれ、昨年の夏に十中であったバスケの試合で、渋谷のこと見て、それからずっと渋谷のファンで……』

 なんかものすごい、尊敬の眼差し!って目でおれのこと見てたあいつ……
 ニヤニヤしてるから、いつもそんななのか?って聞いたら、

『今日は特別! だって、渋谷に会えたんだもん』

 なんて、恥ずかし気もなく言ったりして……

 ホント、変な奴。変な奴だ。 

 でも、おれだって、この二週間、ずっとお前のこと考えてきたしずっと会いたいって思ってたし、会ってみたらこんな変な奴だったのは予想外だけど、おれがシュートの手本見せたら、目キラキラさせて「もう一回!もう一回!」って何度もせがんできて、帰りの自転車もなんか一生懸命漕いでて、そんなとこは予想通りで………


 翌日の昼休み、奴のことで頭いっぱいになりがら、図書室に入って行ったところ、

「あ!」
「え? あ!」

 当の本人がいてビックリした。思わず声を上げると、奴も「あ!」と驚いた顔をして、それから、パアッと嬉しそうな顔になって、

「うわっ。渋谷っ。ほんとに……っ」
「しー!しー!しー! 声でかいっ」

 いきなり叫ぶから、慌てて口を押さえてやると、奴は降参というように両手をあげた。ゆっくり手を離すと、ニコニコしたまま小声で、

「……ごめん。嬉しくてつい」
「嬉しくてって」

 出た。変な奴発言。

「ホントに渋谷、この学校にいたんだね。夢?とか思ったけど本当なんだよね。ほんっと嬉しい。夢みたい」
「……………」

 なんでこいつ恥ずかしげもなくこんなセリフぺらぺら言えるんだろう。こっちが恥ずかしくなってくる。

 頭抱えたくなってるおれを置いて、奴は変わらずニコニコしたまま、

「渋谷が図書室くるの珍しくない? おれ、わりとくるんだけど会うの初めてだね♪」
「……ああ。はじめの学校案内以来だよ」

 ちょっと肩をすくめてみせる。

「今日の中森の授業、速すぎてノート取れなかったから調べにきた」
「中森ってことは古典? じゃ、こっち」

 奴は迷いもせず古典の本の置かれている本棚まで連れて行ってくれた。相当来なれているみたいだ。

「プリントのやつ?」
「ああ、これ。………って、ないじゃん」

 本棚をざーっと見て、ガッカリする。残念ながら、枕草子、全滅。考えてることはみな同じってことか。だよなあ、クラスの何人かに「ノート見せて」って言ったけど、みんな取れてなくて断られたもんなあ……

「放課後またくるかあ……って放課後までに戻ってくんのかなあ」
「あの……」

 行きかけたところ、奴に遠慮がちに声をかけられた。あんなに変なことぺらぺら言う奴なくせに、今回はなぜか躊躇しながら、

「あの……おれのノート、見る? こっちの方が授業進んでるみたい。そのプリントの授業、今週頭にやったから……」
「え、ホントに? やった。助かる!」
「あ、うん」

 なぜか、ホッとしたように息をつく奴。なんだろう??
 聞こうとしたら、予令が鳴りだしてしまった。

「じゃあ……おれ、放課後部活だから、終わったら渋谷の家に寄ってもいい?」
「え! いいのか? 悪いな~~助かる!」
「うん。じゃ……」
「……?」

 軽く手を振りながら教室に帰っていく奴の後ろ姿が何だか寂しそうで……

「なんなんだ?」

 思わず一人ごちてしまう。 

 一生懸命シュート練習してたり、無邪気にはしゃいでたり、変なこと言ってきたり、こんな風に妙に切なげだったり……

「ほんと……変な奴」

 奴の姿が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、ずっと見送ってしまった。





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お読みくださりありがとうございました!

浩介の重~い話の後だから、慶の二週間が軽く感じる……
でもまあ、これからこれから、です!!

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もうホントに有り難いです。いちいち「おお!」とか「わあ!」とか画面に向かって叫んでます。ものすごい励みになります。本当にありがとうございます!!
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BL小説・風のゆくえには~遭逢4(浩介視点)

2015年12月01日 17時08分06秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢
 ついに彼に会ってしまった……

 今、冷静になって、あらためて手が震えてきた。

 っていうか、おれ、どさくさに紛れて、握手までしちゃったよ。どうしよう。


 間近で見る渋谷慶は、想像以上に、完璧な美貌の持ち主だった。そして、予想以上に背が低いことに驚いた。160あるかないかってところだろう。スタイルがいいからあまり小さく見えないのだ。
 握手してわかったのは、その手がとても温かくて、そして細く繊細であること。あんなに力強いドリブルをしている手がこんなに華奢だなんて。
 意志の強い目は前にも見た通り。シュートをする時の射抜くような眼差しに惚れ惚れとしてしまう。
 お手本のシュートを見せてくれたんだけど、フォームを見ろ、と言われているのはわかっていても、ついついその瞳に吸い寄せられてしまってフォームだけをみることができないのが難点だ。

 そうこうしているうちに5時半のチャイムが鳴ってしまった。あっという間すぎる……。

「片付けておくから、着替えてこい」

と、言ってくれた渋谷。

 それで、更衣室で一人着替えながら、あらためて事の重大さに気がついて、アタフタしはじめたわけだ。

 さっきおれ、興奮しすぎて、何か失礼なこと言ったりしてないかな……
 握手とかしたの、嫌じゃなかったかな……
 ファンとかいって引かれたかな……
 もう、会いたくないとか思われてるかな……

 ああ、もう一度、再会のシーンからやり直したい……
 ああ、もうどんな顔して渋谷のこと見ればいいのか分からない……

「………あれ」
 でも、更衣室から出たら、もう、渋谷はいなくて………
 そうだよな。もう時間だもんな。さっさと帰るよな……

 どんよりしたまま、体育教官室に体育館の鍵を返しに行き、階段を下りていったところで、

「……渋谷!!」
 うわ。うそ。いた。本物。いた。待っててくれた!

 階段の手すりに背を持たれて、渋谷が腕組みをして立っていた。
 何をしていても絵になる人だ……。思わず、ほやっと見惚れてしまう。

「お前、家どこ? 何で来てる?」
「え、あ、う、うん」

 ああ、だめだ。おれ、ちゃんとしろ! 呆れられちゃう!

「I町。K駅の近くなんだ。自転車通学だよ」
「K駅で自転車かあ。おれも自転車でもいいんだよなあ。でもなんとなく膝がこわくて自転車避けててさ。帰りはいいけど、行きは坂キツそうだし」
「そうなんだ……。渋谷はうちどこなの?」

 普通に話せ。普通に、慎重に……

「A町。バス使ってんだよ」
「A町! おれ通りながら帰れる! 送ってくよ!」
「え」
「あ」

 思わず口走ってしまってから、再び自己嫌悪に陥る。
 ダメだ。おれ、興奮しすぎて、正常でいられない。変なこといった。まだ会ったばかりなのに送るとかそんなの……

「あの」
「遠回りじゃね? K駅だとここからこうだろ?」

 渋谷が空中に、人差し指で斜め右下に線をひっぱる。

「うち通っていくと、こうなるじゃん」

 L字を書く渋谷の指。細くて綺麗……って見惚れてる場合じゃなくて!

「あ、うん、でも、ここのとこ川じゃん?」

 L字の下の棒のところを往復させて言う。

「おれ、この川べり走りたいから、こっちから帰ること多いんだ」
「あ、そうなんだ。じゃ、よろしく」
「え」

 いま、よろしくって言った?
 え、じゃ、一緒に帰ってくれるってこと?! うわっどうしよう……っ

 おれの内心の動揺なんて知るはずもない渋谷は、淡々と話しかけてくる。

「お前、何組? 全然見かけないよな」
「9組だよ。渋谷は?」
「3組。……9組で、しかもチャリ通か。なるほどな。会わないわけだ」

 1年9組は東棟5階。1年3組は西棟4階。しかも、バス通学と自転車通学は使っている門が違う。だから今まで会わなかったんだ、と納得する。

 あれ? でも今日はなんで会えたんだ……?

「えーと、渋谷は今日、体育の先生に呼ばれたりしたからあそこにいたの?」
「あ? ああ、そうそう。……あ、おれ、下駄箱あっち。出たとこでな」
「あ、うん」

 すいっと行ってしまう渋谷。か、かっこいい……。なんであんなにかっこいいんだろう。
 なんて後ろ姿に見とれている場合じゃない。待たせちゃダメだ! 急がないと!

 おれも慌てて下駄箱で靴に履き替えて昇降口から出る。と、左からツカツカと渋谷が歩いてきた。ただ歩いているだけなのにあまりにもかっこよくて、つい頬が緩んできてしまう。

「お前さ……」
 おれの横にならんでゆっくりと歩きながら渋谷が言った。

「お前っていつもニコニコしてんの?」
「え……ニコニコ? してるかな」
「してるだろ。ほら今も」

 ピッと頬をつつかれた。うわ~渋谷に頬つつかれた! 余計に頬が緩んでしまう。

「ニコニコっつーか、ニヤニヤ?」
「ニヤニヤ………」

 そんなのいつもなわけがない。

「いつもじゃないよ。今日は特別!」

 思わず言葉が出てしまう。

「だって、渋谷に会えたんだもん」 
「な………っ」

 渋谷、かああああっと赤くなった。

(わ、こんな顔もするんだ)

 いつものクールさとは全然違くて、驚いてしまう。

 思わず見惚れていたら、渋谷ははっとしたようにおれをつついていた指を離して、また歩きだした。

「そういやお前、さっきも変なこと言ってたよな。十中でおれを見て、その……」
「うん。ファンになった」
「ファンて」

 こめかみのあたりを押さえた渋谷。

(あ、やっぱりまずかったんだ)
 やっぱりこういうことは言ってはいけないんだな。慌てて訂正する。

「ごめん。ファンとか気持ち悪いよね。あの、なんていうか、その……」
「いや別に気持ち悪かねえよ」
「え」

 気持ち悪くない? じゃあいいのかな……
 渋谷が立ち止まったので振り返ると、渋谷がマジマジとおれを見上げてきた。

「お前さ……」
「うん」

 うわ……この人、本当に整った顔してる。色も白くて肌も綺麗。作り物みたいだ。
 見とれていると、渋谷がボソッといった。

「お前、変な奴だな」
「え………」

 変な奴。変な奴。変な奴……

 頭の中にぐるぐると色々な人の声が渦巻いてくる……

「う……うん。よく言われる」

 なんとか肯いて答える。

 そう。『変な奴』って、よく言われる。けど……なんでだろう。渋谷の『変な奴』は嫌な感じがしない。
 渋谷はなぜか引き続きおれのことをジロジロジロジロと見たかと思うと、

「……へーんな奴っ」
 ふっと笑って、おれの腕をバシっと叩いて、また歩きだした。

(へーんな奴、だって)
 なんでだろう。褒められてるみたいな気がする。同じ言葉なのにいう人によってこんなにも違うんだ。

「おーい、お前、自転車どれだよ」
「あ」

 渋谷の涼やかな声に我に返る。

「もう一つ向こうの列!」

 そうだ。自転車!
 ……って、おれ、二人乗りってしたことないんだけど、漕げるかな。大丈夫かな。


***


 渋谷を無事に家まで送り届けて、気分よく川べりの道に自転車を走らせていたのだが、
「……げ」
 家の近くまできて、母が門の前に立っているのが見えて、回れ右して帰りたくなり……そう思った自分を笑ってしまう。

(帰りたくって、どこに帰るんだよ)

 帰る場所なんて……どこにもない。

「浩介、ずいぶん遅かったじゃないの。心配で学校にも電話したわよ。聞いたら、今日はバスケット部の練習はない日だっていうし、あなたこんな時間までいったい何をしていたの。学校が終わって真っ直ぐ帰ってくれば、遅くとも4時半までには帰りつくでしょう。今、何時だと思ってるの。お母さん心配で……」
「すみません。図書室で勉強してました」

 母の洪水のような声を背に自転車を停める。

「なんで図書室なんかでするの。家ですればいいじゃないの」
「調べ物をする時に便利なんです」

 さっさと家に入り、慌てて追いかけてくる母を振り返る。

「これからもこのくらいの時間になりますので」
「ちょっと、浩……」
「!」

 腕を触れられそうになり、バッと振りはらう。
 せっかく渋谷が叩いてくれた跡、穢されたくない。

「浩介……」 
 母があげかけた手を下ろし、ボソリという。

「……7時にご飯にするから」
「………はい」

 母が台所に入って行くのを見送ってから、洗面台に手を洗いに行く。

 鏡に写る自分の顔……
 陰気で暗い、おれの本当の顔……

『お前っていつもニコニコしてんの?』

 渋谷がつついてくれた左頬に手をあてる。

「………渋谷」

 おれ、上手に笑えてたかな……。


 自転車を二人乗りで走らせながら色々な話をした。

 渋谷にはお姉さんと妹がいるらしい。

「いいなあ。おれ、妹欲しかった」
「妹~? うるせえだけだぞ?」

 笑いながらいう渋谷。
 渋谷、笑ってくれてたけど、おれなんかといて、つまらなくなかったかな。

 来週の木曜日も練習に付き合ってくれるって約束してくれたけど、迷惑じゃなかったかな。

「渋谷……」

 おれ、変な奴だけど、嫌われないように頑張るから。頑張るから。だから……

 おれと、友達になってくれないかな……



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以上、浩介視点でした。
お読みくださりありがとうございました!
前半明るかったのに、後半案の定暗くなりました。

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