スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理九系&神の存在

2017-06-03 19:13:49 | 哲学
 第四部定理九には系Corollariumがひとつあります。証明Demonstratioはなく,系自体がとても長い文章になっています。
                                     
 「未来あるいは過去の物の表象像,言いかえれば現在のことは度外視して未来あるいは過去の時に関連させて観想する物の表象像は,その他の事情が等しければ,現在の物の表象像よりも弱い。したがって未来あるいは過去の物に対する感情は,その他の事情が等しければ,現在の物に対する感情よりも弱い」。
 スピノザがこの系において主にいいたかったのは,二番目の文章だと思います。すなわち,未来や過去に関係する感情affectusよりは現在に関係する感情の方が強力であるということです。このために,たとえば現在においてその喜びlaetitiaを回避することによって未来においてより大きな喜びが得られると分かっている場合でも,えてして現実的に存在する人間は,目の前にある小さな喜びの方を選んでしまうのです。実際にはこのことは,スピノザがここでいっていることとは異なるのですが,未来に関連する喜びが小さく感じられるからだという理由によって説明することはできるので,この系から帰結し得る事柄なのは間違いありません。そしてそうであるならこのことは第四部定理九から直接的に帰結するのであって,論証が不要であるのも理解できるでしょう。
 最初の文章で,表象像imaginesが強いとか弱いといわれるのは不思議な感じもしますが,おそらくそれは次のような意味です。
 第二部定理一七は,人間の精神のうちにある表象像は,別の表象像によって排除されるという意味を含んでいます。このとき,過去および未来と関連する表象像は,現在と関連する表象像よりも,より容易に排除されるのです。この意味で,現在の表象像すなわち表象の種類でいえば知覚は強く,過去または未来に関係する想起と想像は弱いのです。実際に想起や想像が知覚によって排除されるということが多いのに対し,知覚が想像や想起によって排除されることは少ないでしょうから,このことは経験的にも僕たちは理解しているといえるのではないでしょうか。

 正しくいうなら,Deusが絶対に無限absolute infinitumであることは神の本性natura,essentiaであり,神が自己原因causa suiであるということはその神の本性から必然的にnecessario帰結する神の特質proprietasであるというべきでしょう。けれども僕は,このふたつの事柄は,僕たちが神を十全に認識するに際して同等の重要性を有していると考えています。というのは,前者は神に対して,後者は自己原因に関して,スピノザに独自の解釈,伝統的な解釈から大きく外れるような解釈を含んでいると考えるからです。
 スピノザがフッデJohann Huddeに宛てた書簡三十六を読むと,どうやらフッデは絶対に無限な実体substantiaのことを神というということが理解できていなかったということが分かります。それは端的に,この時代において神をそのように概念するconcipereということが,異色であると認定されていたからだと思われます。ではフッデは神をどのようなものと認識していたのかといえば,おそらく聖書に記述されているようなものとして解釈していたのです。つまりそれは信仰fidesの対象objectumとなり得るような神です。それに対していえば,絶対に無限な実体というのは,そうしたものが必然的に存在しなければならないということは理解できるにしても,信仰の対象となり得るような存在ではありません。つまりスピノザが定義しているような神は,人間にとって認識cognitioの対象subjectumとはなり得るものですが,信仰の対象とはなり得ないものなのです。
 あなたは神を信じますか,という問い掛けは,現代でも十分に成立するのではないでしょうか。それが成立するのは,神は存在するのかということは,信じるか信じないかに二分されるということが暗黙裡に前提されているからです。ということは,スピノザが生きていた時代も,現代も,神に関係する言説の中心あるいは背後を支えている状況は,あまり変化していないといえるのかもしれません。あえていいますが僕は神が存在するということを信じているのではありません。僕は神が存在するということを知っているのです。
 第一部定義六は,このような観点の変化を含んでいます。そのゆえにスピノザがいう神を理解する場合に,それが絶対に無限な実体であるということは欠くべからざる要素だと僕は考えます。
コメント
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