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スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

Kの自己意識&全体と部分

2017-08-27 19:09:58 | 歌・小説
 Kが奥さんに対して「私は金がない」からお祝いをあげることはできないと言ったのは,金を持っている先生はと結婚できるけれども,自分は金がないから結婚はおろかお祝いもできないという嫌味であったと解することは可能です。ですが僕はここではKは,先生と静の結婚を祝うことはできないという意味でそう言ったのであり,奥さんや静に対する嫌味ではなかったと読解します。この読解にはふたつの理由があります。
                                     
 Kとの同居を提案したのは先生でした。Kはあまり乗り気ではなかった筈です。だからこそ最初は大部屋にふたりで暮らしていたのを,を立てて,狭いながらもひとりの部屋を選びました。これは自分の部屋で静とふたりきりになりたかったからだと解せなくはありませんが,たぶんひとりでいたいという単純な理由だったのです。
 家賃は先生が一括して支払っていました。ですがそのことをKは気にも留めていません。もしもこれを気にしていたら,裕福な男と困窮した男という関係をKは日頃から感じていたということになるでしょう。ですがKは先生に無理に同居させられたというふうに思っていたから,そのことで卑屈になる必要はなかったのです。むしろ困窮した生活はKのアイデンティティでさえあったといえるでしょう。そのアイデンティティは,むしろ同居しない方がKを満足させられたろうと思います。
 このようなKが,先生と静の結婚を告げられたときだけ,急に自分の困窮を誇りとしてでなく卑屈なものとして意識するとは思えません。だからKのことばは嫌味ではなかったと僕は読解します。
 ただしKが,奥さんと静は財産を目当てに先生との結婚を選んだのだと感じたのだとしたら,このときに嫌味を言ったとしても不思議ではありません。ただ僕はそのような解釈は取りません。少なくともこのことばを聞いた奥さんは,結婚は財産目当てだという意味に受け取らなかったことだけは間違いないと確信しています。

 現実的であろうとなかろうと同じことになるので,一般的に考えてみます。
 ある個物res singularisの存在が,いくつかの個物という部分に分割できるということは,少なくとも論理的には可能です。いくつかの個物によって組織される単一の個物の存在をスピノザは認めていて,たとえば人間の身体corpusというのはまさにそうした個物としてあるからです。これは旧版117ページ,新版140ページの第二部自然学②要請一から明白であるといわなければなりません。
 しかし人間の身体の本性natura,essentiaが,それを組織している各々の個物の本性に分割できるということは不可能だと僕には思えます。部分の本性の集合が全体の本性であるとは思われないからです。そこでこのことについては,次のように考えておくことにします。
 第二部定義七は,複合の無限連鎖を前提として個物を定義していると僕はみます。つまり存在するどんな個物もほかの個物と共同して,何らかの全体である個物を構成するという前提です。すると,人間の身体というのはいくつかの個物によって組織された全体であると同時に,ほかの個物と共同してより大きな,というのは物理的な意味において大きいということですが,より大きな個物を組織するということになります。つまり人間の身体というのは,ひとつの全体であるとともにある全体の部分であるとみることもできるのです。それでも人間の身体の本性があるということは,人間の身体の形相formaがある以上は当然のことといわなければなりません。そして第二部定義七というのは,とくに人間の身体に限定して何かをいおうとしているわけではなくて,一般にすべての個物に妥当する事柄を示そうとしているのです。したがって,存在するどんな個物も,ひとつの全体であると同時にある全体の部分であるということが帰結します。
 このゆえに,それが全体とみられようと部分とみられようと,ある個物としてみられるのであればその個物に特有の本性があるということになります。したがって人間の身体には固有の本性があり,そのある部分だけを抽出しても,それに固有の本性があります。ただし部分の本性の集合が全体の本性ではないことになります。

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