スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

道草&第二部定理四〇備考一

2025-02-04 09:55:00 | 歌・小説
 作家の目的は『道草』を対象とした対話の中で出てきたのですが,『道草』についてはこのブログで詳しく紹介したことがありませんでしたので,この機会に取り上げておきます。
                            
 『道草』の主人公は大学教師の健三。遠いところから帰ってきたとされていて,これはかつて海外に留学していたことを意味します。健三にはお住という妻がいて,この夫婦の日々の生活が語られます。ですから基本的にダイナミックなドラマはほとんどありません。強いていえばかつて健三の養父であった島田という男が現れ,金の無心をするようになったということが,この物語の中では最も大きな出来事といえるでしょう。このための金策に健三夫婦は悩まされるのですが,最終的に健三が島田に100円を渡すことで,絶縁することになります。これが物語の最後の方で,プロットとしては最も大きなものといえるかもしれません。
 イギリスという国名が出てくるわけではありませんが,明らかにそれと分かる仕方で海外留学を経験した後で大学教授を務めていたこと,そして実際に養子に出されていた経験があり,かつての養父から半ば恐喝のような仕方で金を無心されていたということからして,健三にははっきりとしたモデルがいるといえ,それは漱石自身です。ただし,『道草』は『こころ』の後,未完のまま終了してしまった『明暗』の前に書かれた小説ですから,『道草』を書いている当時の漱石がモデルになっているというわけではなく,それよりも前の漱石がモデルとなっているというべきでしょう。つまり年齢を重ねた漱石が,まだ若かった頃の自分自身をモデルとして小説を書いたということになります。
 漱石がどういう意図で若かりし頃の自分自身をモデルとして小説を書こうと決意したのかは,僕にはよく分かりません。ただこのような事情があるので『道草』というのはほかの漱石の小説と比べて異質なところがあります。実生活ではそれほどドラマティックな出来事というのは起こらないわけで,それはストーリーの内容についてもいえることです。

 もうひとつ,『エチカ』で直接的に言及されていることとの関係でいうと,第二部定理四〇備考一で,スピノザが超越的名辞termini transcendentalesおよび一般的概念notiones universalesについて語っている部分を指摘しておく必要があるでしょう。スピノザはそこで超越的名辞として有esse,物,ある物の3種類,一般的概念として人間,馬,犬の3種類をあげていますので,吉田による実体substantiaの考察に関しては,一般的概念がより関係するのですが,スピノザは超越的名辞も一般的概念も,僕たちの知性intellectusのうちに生じる原因causaは同一とみていますので,ここではどちらも,あるいは同じことですがその両方が実体と関係しているし,もっといえばイデアideaとも関係しているということができるでしょう。つまりこの部分では,イデア論がなぜ発生してくるかということの説明もされていると解して,そう大きな間違いはないだろうと僕は考えています。
 スピノザの説明はごく単純なものです。
 「人間身体は限定されたものであるから自らのうちに一定数の表象像しか同時に判然と形成することができないということから生ずる」。
 人間の身体humanum corpusは,そしてその観念ideaである人間の精神mens humanaは,有限finitumであるがゆえに,無限に多くのinfinita表象像imaginesを形成することはできません。そこでその限界を超過してしまうと,事物を明瞭判然と認識するcognoscereことができなくなるので,いくつかの表象像のうちに一致点を見出し,その一致点を有するものについて,あるものを人間といい,またあるものを馬といい,またあるものを犬というような仕方で,これらの概念が発生してくることになるのです。
 なおスピノザはこれが原因のすべてであるといっているわけではありません。原因のひとつです。ただ重要なのは,これらが表象像という混乱した観念idea inadaequataを基礎としている上に,いくつかの混乱した観念をさらにまとめているがゆえに,ますます混乱したものとなっているということです。したがってもし実体がこのような仕方で規定されるなら,そうした実体はきわめて混乱したものとして僕たちには認識されているといわなければならないのです。これは,事物は一般的に認識されるほど混乱し,個別に認識されるほど明瞭判然とすることの理由でもあります。

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