犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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わたしはみとめない

2020年01月21日 | 国語真偽会
年に一度くらいはカラオケに行くだろうか。
十八番の一つに、井上陽水さんの「心もよう」が有る。

一人称は「私(わたし)」で、相手は「あなた」だが、
全体を読み通しても、語っている主人公の性別も相手の性別も分からない。

本題とはずれるけれども、私はこういう、性別の分からない歌詞が好きだ。
それは、自分が自分の性別がよくわかんないXジェンダーだから、
そして今まで主に異性愛者を自覚する女性と恋愛してきたから、
ということが理由だと言って構わない。

「俺」が「お前」に愛を叫んだり、
「あたし」が「あんた」を恨んだりする歌詞は、
どうも歌いにくい。
ただし!中島みゆきは除外、例外、特例、治外法権、あんたはあんた。

「心もよう」の話に戻る。
主人公はあなたに宛てて手紙を書こうとしているのだけれど、
複雑な思いはうまく言葉にならず、といって何も書かないわけではない。
言い尽くせない思いを抱えながら、ただ時間だけが経っていく。

いやー。実に鬱陶しい。
レコードジャケットの陽水のチリチリパーマヘアと伏し目も鬱陶しい。

うたいだし
「さみしさのつれづれに 手紙をしたためています あなたに」
ねちっこい倒置だよまったく。



テレビドラマを見逃し配信サイトで時々見る。

主人公の弁護士と確執の有る検事が、被告を追い詰めようとして言う。
自殺に見せかけた他殺だという証拠を掴んだようである。
「これでもあなたはこの遺書は亡くなったご主人がみとめたものだと言うのですか。」

遺書をみとめた?
自分が書いたものだとみとめた、ということか?
いつ?
自殺した人が、「それは私が書いた遺書です。」と、
いつみとめると言うのだ。未遂ではないのだ。



さては。
台本には「認めた」と書いてあったのだろう。
それを、俳優さんが「みとめた」と読んだ。
読み合わせでも、リハーサルでも、読んだだろうけれど、
誰も指摘しなかったのか。



同字違訓の中でも、困ったものの代表格だと思う。
何がいけないって、送りがなも同じなのがいけない。
「認めた」とだけ書いてあったら、それが
「みとめた」なのか
「したためた」なのか
判別はつかない。

ただ、文脈によるしかない。
幸い、意味は随分異なるから、文脈から考えたら間違えないだろう。

とは言え、紛らわしいことこの上ないので、
読み上げることが前提の台本などでは、使わないかルビを振るかしたほうが良いと
私は思う。
ここで、「やーい読み間違えた」とか「だーれも指摘しなかったー」とか
言うつもりは無い。
「認める」は、こういうことが起こるから厄介よね。と言いたい。



じゃあ、音声読み上げソフトはどう判断するだろう。
上の台詞を、ソフトに読ませたら、「したためる」と言うだろうか。



ああでもないこうでもない、
こう書いても思いをそのまま伝えられている気はしない、
そうは言ってもこう書くしかない、
でも
でも

といった、うねうねした気持ちの時間が掛かりながら書くのが
「したためる」という音に感じられる。
陽水さんの声とともに、文字に書き表せない思いが、絡みつく。
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