ザ・禁句ス 当たり前。

一昨日の「決め付ける」、昨日の「決まってる」に引き続き、
今日の言葉も、人はそれぞれ感じ方も考え方も判断も異なるということを
忘れた時に遣う言葉だ。

自分にとっての「当たり前」と、ひとにとっての「当たり前」は、
ずいぶん異なる。
ひとりひとりの経験や、生まれ育った環境、今の立場、考え方の指向、
あらゆるものが、そのひとを形作る。
「そんなの常識でしょ」と言ったところで、今いる生活環境から
一歩出れば、そんな常識は通用しない。

家に初めて来たひとが「すみませんトイレはどちらでしょうか」と聞いたら、
「トイレはそこの戸を開けて左の正面なんて当たり前でしょ」とは
言わないだろう。

私を例にあげれば、「女性の体なんだから女性でしょ」と
一見至極当たり前のような見方が、通じない。
本人は本気で「体は女性だけど、性別は女性でも男性でもない」と
感じているのだ。

当たり前のことを当たり前と思い、当たり前と言いきっていたら、
なかなか他者の思いを受けとめることはできないだろう。

逆に、もし私が「私は女性の体だけど女性じゃないのは当たり前」と
言い放っても、通用しない。
それがどんな感覚なのか、よく説明したり、実際に会って話したりする中で
感じ取ってもらうということも必要だろう。

「そんなの当たり前」と言いたいときは、自分にとっての当たり前が
他のひとにも適用できると思ってしまっている危険がある。
また、当たり前と思い込んでいる事柄について、他者に説明することや、
他の当たり前を持つ人と対話することを放棄しているという危険もある。

ひとの中に生きるために、「当たり前」と言いたくなったら、
立ち止まるようにしたい。