[あらすじ] 母87歳パーキンソン病ヤール4要介護5認知症状少々、
数日前に特別養護老人ホームに入居した。
後から時計を見たら、12時半頃のことだった。
自室で寝ていたら、階下の玄関から物音が聞こえる。
母の意外に明朗な「ありがとうございました。」という声も続いた。
一体どういうことだ。
何か有ったのか。
何が有ったのか。
ホームのスタッフに送って来てもらったのか。
ならば、携帯に着信が有ったのに私は気付かずに寝ていたということだろうか。
私は慌てて起きた。
※
母は、変形性股関節症で片側を人工関節に置換している。
その後、術側の脚が15㎜長くなってしまった。
手術していない側の脚にいつも重心をかけていて、
骨盤が歪み、その癖が付いてしまったのだろうか。
その差を補正するために、右の底を15㎜補った靴をいつも履いている。
脚長差とパーキンソン病が入り混じった歩きにくさと
靴を履いていることで、室内での足音が大きい。
歩き回れば転倒の危険も有る。
私はこの足音が聞こえるだけで、神経がそばだつようになってしまった。
※
その足音がより不規則になり、しかも近付いている。
階段を昇っているのだ。
※
寝込みに跳び起きたので、私もふらつく。
自分が転んでいる場合ではない。
母があんまり階段を昇らないうちに止めなければ。
壁につかまりながら、急いだ。
※
階段に出てみると、音から推測した通り、やはり母が階段を昇ってきている。
何か言っている。
私は母の肩に手を置き、「まあまあ、あまり上がると危ないから、一旦降りましょう、
降りましょう?降りましょう!」
本当は自分が下に回ったほうが支えやすく安全だが、
腰が曲がって、脚の動きの悪い、全身が固い母がいると、
回り込めない。
上から肩を支えて方向転換させる。とても危ない。
しかも、肩を強く支えられるのをいやがって、肘で払いのけようとしてくる。
もう、勝手にしろ、と
蹴落としてしまいたくなる。
ほんの3段ほどだったが、大汗をかいて、なんとか一番下まで来る。
ほっとしたところで思い出す、と同時に目に入る。
送って来てくれた職員さんは、勝手に家に上るわけにもいかないのか、
玄関の土間に立ってオロオロしている。
※
職員さんからわけを聞きたい。
しかし、母の目の前であまり話すでもない。
では母を家の奥へやるかと言うと、それは家に戻ることを認めたようになってしまうからしたくない。
そんな考えが一瞬のうちに巡っていたとき、都合良く母が言った。
「お手洗い。」
※
トイレは玄関のわきに在るので、壁一枚だから、話声は聞こえる。
しかし、内容までは聞こえないだろう。
私は職員さんに事の次第を聞いた。
「いちおう確認のためにお電話したのですが、お出にならなかったので、
こちらで判断してお連れしました。
11時にコールが有って、介護スタッフがお部屋に行ったところ、
たいへん混乱しているご様子で」
混乱してはいるけれど、コールは押せたのか。
コールすれば職員が来てくれる、ということは分かっている状態だったのだな。
「ここはどこなのか、家に戻るとおっしゃって。
こちらでも繰り返しご説明したのですが、
ご自分でお部屋を出て、他の部屋の扉を開け始めてしまって。
外への扉とお思いになったんでしょうね。」
ひえええ。
それはご迷惑をおかけしました。
「こういう場合、まあ、お薬をのんでいただいて落ち着いていただくケースも有るのですが、
まだ入居後間も無くて前例も無かったので、服薬での対応はやめておきました。」
なるほど。
で、この後ですが、どうしましょうか。
もう介護ベッドも無いので、今までのようには過ごせませんし。
うーん、説明して納得してもらえたら私がホームに送って行くか…。
「お茶か何か、お好きなものでも出していただいて、
少し落ち着いてしばらくお話しして、ホームに戻っていただくというのはいかがでしょうか。
私もご一緒におりますので。」
ええー、お時間取らせてすみませんが、そうしていただけると助かります。
それから「しばらくお話し」したのだが、
どれくらい「しばらく」だったか、どのような「お話」だったのか、
つづきはまた明日。
数日前に特別養護老人ホームに入居した。
後から時計を見たら、12時半頃のことだった。
自室で寝ていたら、階下の玄関から物音が聞こえる。
母の意外に明朗な「ありがとうございました。」という声も続いた。
一体どういうことだ。
何か有ったのか。
何が有ったのか。
ホームのスタッフに送って来てもらったのか。
ならば、携帯に着信が有ったのに私は気付かずに寝ていたということだろうか。
私は慌てて起きた。
※
母は、変形性股関節症で片側を人工関節に置換している。
その後、術側の脚が15㎜長くなってしまった。
手術していない側の脚にいつも重心をかけていて、
骨盤が歪み、その癖が付いてしまったのだろうか。
その差を補正するために、右の底を15㎜補った靴をいつも履いている。
脚長差とパーキンソン病が入り混じった歩きにくさと
靴を履いていることで、室内での足音が大きい。
歩き回れば転倒の危険も有る。
私はこの足音が聞こえるだけで、神経がそばだつようになってしまった。
※
その足音がより不規則になり、しかも近付いている。
階段を昇っているのだ。
※
寝込みに跳び起きたので、私もふらつく。
自分が転んでいる場合ではない。
母があんまり階段を昇らないうちに止めなければ。
壁につかまりながら、急いだ。
※
階段に出てみると、音から推測した通り、やはり母が階段を昇ってきている。
何か言っている。
私は母の肩に手を置き、「まあまあ、あまり上がると危ないから、一旦降りましょう、
降りましょう?降りましょう!」
本当は自分が下に回ったほうが支えやすく安全だが、
腰が曲がって、脚の動きの悪い、全身が固い母がいると、
回り込めない。
上から肩を支えて方向転換させる。とても危ない。
しかも、肩を強く支えられるのをいやがって、肘で払いのけようとしてくる。
もう、勝手にしろ、と
蹴落としてしまいたくなる。
ほんの3段ほどだったが、大汗をかいて、なんとか一番下まで来る。
ほっとしたところで思い出す、と同時に目に入る。
送って来てくれた職員さんは、勝手に家に上るわけにもいかないのか、
玄関の土間に立ってオロオロしている。
※
職員さんからわけを聞きたい。
しかし、母の目の前であまり話すでもない。
では母を家の奥へやるかと言うと、それは家に戻ることを認めたようになってしまうからしたくない。
そんな考えが一瞬のうちに巡っていたとき、都合良く母が言った。
「お手洗い。」
※
トイレは玄関のわきに在るので、壁一枚だから、話声は聞こえる。
しかし、内容までは聞こえないだろう。
私は職員さんに事の次第を聞いた。
「いちおう確認のためにお電話したのですが、お出にならなかったので、
こちらで判断してお連れしました。
11時にコールが有って、介護スタッフがお部屋に行ったところ、
たいへん混乱しているご様子で」
混乱してはいるけれど、コールは押せたのか。
コールすれば職員が来てくれる、ということは分かっている状態だったのだな。
「ここはどこなのか、家に戻るとおっしゃって。
こちらでも繰り返しご説明したのですが、
ご自分でお部屋を出て、他の部屋の扉を開け始めてしまって。
外への扉とお思いになったんでしょうね。」
ひえええ。
それはご迷惑をおかけしました。
「こういう場合、まあ、お薬をのんでいただいて落ち着いていただくケースも有るのですが、
まだ入居後間も無くて前例も無かったので、服薬での対応はやめておきました。」
なるほど。
で、この後ですが、どうしましょうか。
もう介護ベッドも無いので、今までのようには過ごせませんし。
うーん、説明して納得してもらえたら私がホームに送って行くか…。
「お茶か何か、お好きなものでも出していただいて、
少し落ち着いてしばらくお話しして、ホームに戻っていただくというのはいかがでしょうか。
私もご一緒におりますので。」
ええー、お時間取らせてすみませんが、そうしていただけると助かります。
それから「しばらくお話し」したのだが、
どれくらい「しばらく」だったか、どのような「お話」だったのか、
つづきはまた明日。
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