山中益川対談『「大発見」の思考法』その２

抜き書き続き


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益川　今の学生さんは、予想外の実験結果に敏感に反応する人ももちろん
いるだろうけど、結果が仮説と違ったらガッカリして動けなくなってしまう人も多い。
後者のタイプは、おそらく研究を続けても、つらいだけでしょう。

山中　実験なんて予想通りにいかないことのほうが多いですから。
私は学生にこう言っているんです。
「野球では打率三割は大打者だけど、研究では仮説の一割が的中すれば
たいしたもんや。二割打者なら、すごい研究者。三割打者だったら、逆に、
ちょっとおかしいんちゃうかなと心配になってくる。『実験データをごまかして
ないか？』と言いたくなるくらいや」と。
　仮設の的中率が三割を超えるというのは、本当に稀なことです。普通は
そんなにうまいこといくわけがない。
　むしろ、予想通りではないところに、とても面白いことが潜んでいるのが
科学です。それを素直に「あ、すごい！」と感じ取れることが大切だと
思います。

※

益川　でも、年取ってからわかることもあるの。若い頃、僕の先生が、
「寝ているうちに考え方が進む」ということをおっしゃった。
坂田先生ではなく、別の先生ですよ。その時、僕は反発したんです。
「寝ていて考え方が進むんだったら、俺はもう一日中でも寝てるわ」と(笑)。
だけど40歳を過ぎて、先生のおっしゃっていたことが本当だとわかりました。
　寝ていると、睡眠が深くなったり浅くなったりするでしょ？前日に
何か深く考えごとをすると、眠りが浅くなったその瞬間に、その続きを
考えているんです。若い頃は、「そんな都合のいいことがあるか」と
思っていたんだけど、年をとると眠りが浅くなるのかな。実際に
寝ている間に考えが進むのを実感しますね。

※

山中　益川先生は、ノーベル賞の授賞式で初めて海外にいらしたことが
話題になりましたが、物理の研究においては、常に世界を競争相手として
意識されていたのでしょうか？

益川　いや、僕は他人と競争するという意識はほとんどないです。
「この謎が面白いな」と目の前にある面白いことでただ遊んでいるだけです。
いわば、自然と話をしているんですね。自然が僕の興味の対象で、
人間にはたいして興味はないですから、競争を意識することはほとんど
ありません。

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観察した事実をそのまま受けとめて面白がること、
寝ながら考えごとをすること、
他人と競争しないこと。

どれも私が持っているものだった。
ノーベル賞は持ってないけどね。