犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
犬のこと、人の心身のこと、音楽や自作のいろいろなものについて

復喪

2017年09月26日 | 日々
全国で秋の交通安全運動が展開されるのに合わせて、
私も秋の交通身の安全運動を十日間書こうという企てを持っている。
しかし今年はこの期間に入った日に、旧知の友人が他界して、
私の脳みそはそのことを最優先する。

人の読むところでこんなふうに書くことはふさわしいことではないようにも思う。
ただ彼女の目に届かないことをこっそり願う。

[あらすじ] サックス奏者の高木がこの世を去った。


折り畳み式の簡易ベッドの上で浅い眠りから覚める。
すぐに、ベッドの様子を見に起き上がる。
夜中にいつも目を覚まして、ベッドの上で長い手足を曲げたり伸ばしたり、
探すように顔を少し横に向ける。
名前を呼び、手を握る。
自由に動ければ抱き返してくれたはず。
指が曲がるのは、重力のせいじゃなくて、手を握り返してくれているのだ。
声を聞いて手が触れると、ニヤリとする。
独特の表情は確かに顔に表れている。
気のせいだなんて誰にも言われたくない。
よく知っている表情だもの。

ベッドの上でじっと寝続けているのは苦しいようで、
体の向きを少しでも変えようと動く。
起き上がったりましてや立つこともできない状態で、
じゃあ寝ていれば大丈夫かと言って、
寝ながら動くだけでもきっと気持ちの悪いめまいが起きている。
時々吐息をつく。
少しでも楽に、少しでもおさまるようにと、
頭を撫で、肩をさすり、全身に触れる。

この朝はなんだかいつもよりも穏やかで、
あまりじたばたとしない。
誰も来る気兼ねの無い時間、隣に横になる。
一緒に金沢へ行ったときの話をしたり、
何がおいしかったとか、失敗談でくすくす笑ったり、
一昨日お見舞いに来てくれた人は実は苦手だったよねとか、
いろんな話。
全部返事してくれる。
時々うははははとのけぞって笑ったり、
相談すれば前のめりになって真剣に聞いてくれる。

聞いてる?

機械が警告音を立てる。
起き上がって、ナースコールを押す。
看護師さんが来る。
看護師さんが先生を呼ぶ。
先生が時刻を確認する。
点滴が外される。
機械が片付けられる。
ストレッチャーに移される。
病棟の中を地下へ移動する。

ひとりで病室へ戻る。
片付けるというほどの荷物も無い。
ずっとジャズを流していたノートパソコンを、最後に鞄に入れる。
椅子に座って待つ。
もう一度パソコンを出して、Facebookに投稿する。
手続きの書類が届く。

電車の中では周りの人に顔を見られないようにうつむいていた。
アパートの部屋に戻ると、5週間前に出た時のままで、当たり前だけど。
電車ではいつの間にか眠っていたのに、
寝心地良い自分の布団で寝付けない。
少しでも寝なくてはいけない。
今日は一日忙しい。
そのまま朝が来る。
カーテンを開ける。
窓を開ける。
秋の朝の空気が流れ込む。
鳥の声が耳に届く。
空はもう高い。
けれど何の感覚も呼び起こさない。
まるで写真を見るように、景色はそこにある。
窓の外は変わらないのに、なぜひとりなのだろう。

食べなくてはいけない。
味がしない。
でも食べなくては。
今日も明日も大勢の人が来る。
それに、早く仕事に戻らなければいけない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 脱喪 | トップ | バイク修理 あっ、秋の交通... »

コメントを投稿

日々」カテゴリの最新記事