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サンスクリットの韻律

2021年02月12日 | 梵語入門

[こころざし] カーリダーサの詩を読めるようになりたい。

読めるとは、色んな意味が有る。
デーヴァナーガリーは読める。
意味を読み解くのが、まだ難しい。

詩は韻律のために、語の省略が有ったり、
語順があっちゃこっちゃになっていたりする。
倒置法というのはいろんな言語の詩に有るけれど、
サンスクリットはさらに自由に単語の位置が適当に移動する。

日本語は、修飾語ー被修飾語という順番に並べるというルールが有る。
サンスクリットの場合、関連の有る複数の単語は、中心になる語(被修飾語)の
性・数・格に合わせた形に曲用する。
だから、たとえ語と語が離れていても、性・数・格が同じなら
繋がりの有る語だと分かる。
分かるから、平気で離して置く。
そして、韻律を整える。

こういう仕掛けを見て解くのが、
面白くてたまらない。
けれど、まだ慣れないので、「読める」とまでは言えない。
たくさん読んで慣れて、
「詩を味わう」と言えるところまでいきたい。



語の配置を変えて、韻律を整えた詩は、
「完成」していて美しい。
まさに、サンスクリット、洗練された言葉、だと感じる。

その世界を読み解くために、
基礎知識を入れたり、簡単な構造の詩を読んでみたり。
する中で、また新しい知識に出くわして、
美しさに驚く。

4年前だったか、東大仏教青年会の「サンスクリット初級講座」に参加した。
一年間20回のコースの最後の授業で解説の有った課題文が
カーリダーサの詩の一節だった。
その詩の完璧さに私は惚れてしまった。

その詩を紹介したいところだけれど、
それがいかに完璧かということを理解してもらうためにも、
基礎知識が必要なので、ちょいとお付き合い願う。



サンスクリットの母音には、短いのと長いのが有る。
a,i,u,ṛ,ḷ が短く、
ā,ī,ū,ṝ,e,o が長い。
短い「エ」や「オ」は、無い。

短いのは1拍分で、軽いと呼び、サンスクリットでlaghu(ラグ)、
長いのは2拍分で、重いと呼び、サンスクリットでguru(グル)。
長いというのは2拍分であり、長く伸ばしゃいいってもんではない、
ということが重要である。

日本語も長い短いで語の意味が変わってしまうことは有る。
なのに、長さはあまり気にしない。
「5」は「ご」だが、
「1,2,3,4,5,6,7,8」と数えるとき、
「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」と言う人は少ない。
「ごー、ろく、しち、はち」と言う。

また、歌のメロディの中で、短い音の部分が長い音符で伸びても、
気にならない。
「すーごくーーすごーーくー」と歌ってもいい。
誰も「数獄?菅生食う?」などと音の長さどおりに聞き取ったりはしない。

サンスクリットにおいては、音の長い短いは厳密なのだ。
なぜなら、それが詩のリズムにとても重要な役割を果たすからだ。



例えばこんな詩節が有る。
軽重をただただ淡々と交互に「たたんたたん」と繰り返している。
それだけで、楽しいリズムになる。

जटाटवीगलज्जलप्रवाहपावितस्थले
jaṭāṭavīgalajjalapravāhapāvitasthale
巻髪の森より落ちる水の流れによって清められた土地である喉頸に、
गलेऽबलम्ब्यलम्बितां भुजङ्गतुङ्गमालिकाम्।
gale’balambyalambitāṁ bhujaṅgatuṅgamālikām/
垂れ下がった大きな花輪のようなコブラを懸けて、
डमड्डमड्डमड्डमन्निनादवड्डमर्वयं
ḍamaḍ ḍamaḍ ḍamaḍ ḍaman ninādavaḍ ḍamarvayam
「ダマッド、ダマッド、ダマッド」という音のする太鼓を伴う、
चकार चण्डताण्डवं तनोतु नः शिव शिवम्॥
cakāra caṇḍatāṇḍavaṁ tanotu naḥ śivaḥ śivam//
猛々しい 舞踊(tāṇḍava)をかの方は行った。 [その]シヴァ神は我々に
幸せ(śiva)を恵みたまえ。(畝部俊也 訳)

こういうのも探せば聞ける、便利な世の中じゃ。
https://youtu.be/nIhZSYq8nI0?t=9



サンスクリットの韻律は、一行の音の数や、軽重のリズムの違いで、
それはそれは多数のパターンが有る。
そのパターンにいちいち名前が付いている。

上の「たたんたたんたたんたたんたたんたたんたたんたたん」
という16音4行の詩は、「パンチャチャーマラ」という名前だ。
「五つの払子」という意味だろう。
坊さんが持っているハタキと筆のあいの子みたいなヤツだ。

しかも、韻律の名前と形を憶えるための詩節も有る。

ってな話はまた今度。
つづく

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