初めての黒人大統領就任という世界史的セレモニーの興奮もようやく収まってきた。そこで、改めて「新しいアメリカ」の出発に期待し、アメリカがよい国になってほしい、という願いを新たにする。
オバマ大統領の就任演説については様々な意見があり、中には名文句もなく物足りなかったという意見すらある。しかし選挙中でもあるまいし、スローガンを連呼し扇動的な言辞ばかりを振り回す場ではあるまい。むしろそのような、独り歩きするかもしれない言葉を避けて、アメリが直面している事態と進むべき道を、分かりやすく正確に語りかけた大統領の頭のよさに敬服した。
私としては、たくさんの学ぶべき点があったが、次の2点が明確にされただけでも十分なものを感じた。
先ず第一点は経済問題について。
「家は失われ、仕事は奪われ、企業は破綻した。健康保険はコストがかかりすぎ、多くの学校は荒廃している。これらは危機の指標だ」と現実に触れ、その根源である経済について、「経済は一部の人々の強欲と無責任の結果として、ひどくぜい弱になった。それは、国家を新しい時代に準備してこなかった集団的な失敗でもある」と、これまで進められてきた新自由主義を断罪している。
そして後半において、「市場に対する監視の目がなければ、市場が制御不能に陥ることを思い出させた」と新自由主義からの方向転換を指し示した。
第二点は、新しい外交指針について。
「われわれは責任を持ってイラクを同国民に返し、アフガニスタンの平和のために努力する。旧友やかつての敵と手を携え、核の脅威削減、地球温暖化問題に取り組んでいきたい。」とイラク撤退、核兵器の削減、温暖化問題取り組みなどを明確に述べて、これまでのブッシュ政権がとった単独覇権主義からの方向転換を示した。
アメリカが力の政策から対話路線に転じて全世界の問題に対応していくならば、困難が多いことは当然であるが、長期的には、世界は必ず良い方向に向かうと信じる。(以上引用は、1月21日付日経新聞夕刊2面「就任演説の内容」より)
わずか20分の演説で、この2点だけを明確にしただけでも私は十分だと思っている。そして最後に、「われわれがこの困難から逃げることなく立ち向かい、建国以来育ててきた自由という偉大な贈り物を前進させ、次世代に安全に送り届けた、と後世の人々に語り継がれるよう努力をしよう」と、格調高く呼びかけるあたりは、まさに名演説というにふさわしいと思う。