海を隔てているとはいえ国境を接する中国とロシアとの領土問題が急浮上してきた。どちらも、冷静に歴史的経過に立ち戻れば、境界線などは明瞭だと思うのだが……。
尖閣諸島は、近世まで無主の島であったが1884年日本人が最初に探検し、1895年1月14日の閣議決定で日本が領有を宣言した経緯にある。以来、1972年まで中国は一度も異議を唱えたことはない。ところが海底資源に気が付いたのか、1972年になって突如として「中国のものだ」と言い出した。理由は尖閣諸島が台湾に帰属するというものらしいが、台湾などの処理を決めた日清戦争後の下関条約などを見ても、尖閣諸島は台湾に帰属する諸島の中から完全に切り離されており、交渉の対象にもなっていない。
一方、北方領土については、1855年の「日魯通好条約」と1875年の「樺太・千島交換条約」で、南北千島全体が日本の領土と取り決められた。それを旧ソ連が、第二次大戦終結の際に占拠したことは記憶も新しく、世界の人が知っている。この、平和条約も結ばず占拠した経緯は、戦争による「領土不拡大」という大原則を踏みにじるものであった。しかもその時、千島だけでなく北海道に帰属する歯舞、色丹まで持って行ったのだ。
このような冷厳な事実にもかかわらず、それらを通り越した領土の主張だけが飛び交えば、民族意識だけが前面に出てくる。それが高じれば武力闘争に発展することは多くの歴史が教えている。事実に基づかない理不尽な民族意識は、時として理性を失う。私も国を愛する気持ちは人後に落ちないつもりでいるが、これだけは避けたいと思っている。
力のある者が欲しいものを手に入れるということになれば、強盗植民地主義時代に返ることになり、平和共存、領土不拡大など、人類の生んできた大原則が失われる。
日本も含めてであるが、ここは、ロシアと中国という大国(?)の品格が問われることになろう。