東京にも雪が降っている。朝から降り始めた雪はずーっと降り続き、今日は10センチは積もると報じられている。またたく間に真っ白になった庭を私は眺め続け、この歌を思い出している。
雪の降るまちを 雪の降るまちを
想い出だけが 通りすぎて行く
雪の降るまちを
遠いくにから 落ちてくる
この想い出を この想い出を
いつの日か包まん
あたたかき幸せのほほえみ
(講談社文庫『日本の唱歌(中)より)』
「想い出だけが通りすぎて行く…」という言葉が、言い知れぬ寂しさを伴って若き日の心に残っている。それは、二番の「足音だけが 追いかけてゆく」、三番の「息吹とともに こみあげてくる」とつづく言葉と響きあって、私を深いセンチメンタルな世界へ導いていった。
そして、一番で「思い出をあたたかく包むほほえみ」を望み、二番で「哀しみをほぐす春のそよ風」に期待し、三番では「空しさを超えるために光降る鐘の音に祈る」のである。
作詞は劇作家の内村直也。作詞は数少ないようだが、その一つが空前のヒットとなった。作曲は中田喜直、私の大好きな作曲家の一人だ。最初は昭和27年、NHKの放送劇「えり子とともに」の挿入歌として登場したが、昭和28年、ラジオ歌謡として高英男が歌ってヒット。
戦後、諸外国の様々な歌が日本に入ってきた。ジャズ、ポップス、タンゴ、ルンバ……、その中の一つにシャンソンがある。フランス人と日本人の気質は、それほど合致しないように思うが、シャンソンは日本人の心のどこかに共通点を持っているのではないか? シャンソン歌手高英男の歌唱力が、見事に日本人の心をとらえたと言えよう。
2013年1月14日 東京の雪