旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

美しく、そして悲しい歌舞伎の世界

2013-01-28 13:12:18 | 文化(音楽、絵画、映画)

 

 26日、新橋演舞場の「初春大歌舞伎」に出かけ、久しぶりにたっぷりと歌舞伎の世界に浸かってきた。
 歌舞伎にしても芝居にしても、またテレビや映画にしても、日本の庶民が一番親しんできた演目は「源平盛衰記」であり中でも「義経・弁慶の安宅関」であり、四十七士の仇討つまり「忠臣蔵」などであった。その中で滅びる者を憐れみ、非情理な死に涙してきたのである。そして最後が、勧善懲悪で結ばれておれば、そこに心の救いを求めて、明日からの生きる糧にしてきたのだ。
 「初春大歌舞伎」の最初の出し物は『ひらがな盛衰記』、二番目が『仮名手本忠臣蔵』、三番目が常磐津連中『釣女』であったが、『ひらがな盛衰記』は素材を「源平盛衰記」に、『仮名手本忠臣蔵』は文字通り「忠臣蔵」に素材を求めている。
 前者の「ひらがな」という意味は、そもそも「源平盛衰記」を平易に書いたという意味合いが込められた言葉という。ところがどうして、とても平易とは言えず話は混み入っていた。

 場所はある漁師の家。漁師の娘は夫を亡くした上に、旅先で先夫の形見である子供を取り違えられる。しかし取り違え連れ帰った子供はなついてきたので、後添いで養子に来た夫や漁師ともども大事に育てる。そこにある女が現れ、旅先で取り違えた子の母だと名乗り、実はあなた方の子はある捕手に殺された。ついては取り違えた子を返してくれ、という。漁師と娘は悲しみ怒り、その挙句にその子を殺すと言い出す。。
 ところが、その子は
木曽義仲の遺児駒若丸であり、漁師の娘に養子に来た今の夫が木曽義仲の忠臣で、義仲を討った義経への復讐を企てている男となるからややこしい。その夫は、育ててきた子が駒若丸で、漁師たちの子が身代わりに殺されたことを察し、駒若丸を殺すという漁師を必死になだめる。
  ここからが、親子の心情と忠義心が絡み合っての見せどころ、泣かせどころである。いわゆる歌舞伎の山場で、江戸庶民は、その筋も結末も全部知ったうえで、毎回この場で思う存分泣くのである。
 歌舞伎を初めて見た娘も、「この歌舞伎には泣かされた」と言っていたので、幸四郎、福助、また子役をはじめ各役者の演技も大したものである。(続く) 


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