行きつけの飲み屋の一つに『かわしまや』という店がある。八幡山駅の近くで、わが家から3百メートルぐらいの距離にあるのでよく利用する。もう亡くなった先代のころは寿司屋で、これまたよく出向いたり出前を取ったりしてきた仲だ。
いまは若夫婦が、和食が中心であるが若者向き洋風料理も取りそろえ、酒も日本酒、焼酎、ワインなどが並ぶ。日本酒も各地のいい酒が置いてあるので私の好みにもぴったりだ。
昨夜、カウンターで「野菜たっぷり湯豆腐」をつつきながら「早瀬浦」の燗酒などを傾けていると、隣の席にご高齢のご夫婦が食事に来た。前から見かける常連客であるが隣り合わせは初めてだ。
しばらくして言葉を交わすと、ご主人は96歳、奥様は81才とのこと。「今日は体の加減でお酒は飲めないが、この店の料理はおいしいから…」と、数品の料理を注文して二人でシェアーしながら食べている。
お二人の健啖ぶりにも驚いたが、何といっても96歳になって美味しいものを求めて外食に訪れる姿に、私は感動すら覚えた。元気のもとは「元海軍主計中尉(中曽根元首相の一つ後輩)として第二次大戦を戦ってきたこと」と言っていたが、78歳の私など子ども扱いという風格があった。
自分は、96歳まで生きること自体ありえないだろうが、もし生きたとしても「美味しい酒と食を求めて」外食に向かう余力と風格を残しているだろうか?