琴欧洲が引退した。なぜか私はホッとしている。
私はこの力士が好きであった。心の中でいつも応援してきた。しかし、なかなか思うように勝てなかった。そこに一層惹かれるものがあったようだ。
2メートルを超す長身、見事な骨格、レスリングで鍛えた上半身の強さ…、これらを活かして強い時には本当に強さを発揮する。反面、いとも簡単に敗れて悲しい表情を浮かべて退場する。その土俵に何とも言えない愁いがただよう。
レスリング元欧州ジュニア王者、サッカーのスター…、国に帰れば英雄ではないのか? 「なぜ日本などに来たのだろうか? 早く母の国に帰りたい」と思っているのではないかと気になっていた。しかも身を置く大相撲の世界は日本でも特異な社会だ。封建的で、「土俵の怪我は土俵の土で治せ」というような非合理な世界は、怪我に泣き続けた琴欧洲には辛かっただろう。彼はどう思っていたのだろう?
ところが彼は日本が好きだったのだ。日本国籍を取り、親方として後輩の指導に当たるという。横綱への夢より指導者になる夢が強かったとも報じられている。彼は引退記者会見の涙とともに勝負師の夢を洗い流して、晴れ晴れと指導者の道を進むのかもしれない。
日本名「安藤カロヤン」という響きに、言い知れぬ愁いを残すが……。