今週の月曜日(7月9日)、『永井由里 武久源造 デュオリサイタル』という演奏会を聞いた。永井さんはヴァイオリニスト、武久さんはチェンバロ演奏者である。この珍しい組み合わせのデュオリサイタルは、かつてない印象を残してくれた。
永井さんの体全体を使ったダイナミックな演奏は、男性を思わせる力強さの中に伸びやかな音色をひびかせ、一方、武久さんのチェンバロは控えめな音色で、その演奏姿勢ともども、どちらかといえば静謐な感じさえ受けた。その合奏が何ともいえない、これまでにあまり聞いたことのない音楽の世界へ誘ってくれた。
武久源造さんは目が不自由である。子供のときに目の病に受け今や全盲と聞いた。これも聞いた話であるが、祖先にドイツ系の血を持つそうで、そのいでたち、演奏姿勢は、まさにゲルマン民族の威厳と日本民族の静謐を併せ持つようであった。チェンバロを演奏しながら指揮する指の動きは、ゲルギェフの指揮を彷彿させるものがあった。
それよりも驚いたことがある。武久氏は、目が不自由でも、演台に立って自己の楽器の音を発した響き具合で、その会場の広さや人の集まり具合(会場に何人ぐらいいるかなど)が分かるという。また、常人にはとても聞き取れない音を聞くことができるようで、ある演奏中に、二階の部屋の水道の水が漏れている音が気になる、と指摘したことがあるという。
どのような感覚を持っているのだろうか? 想像を絶する世界に住んでいる人の演奏が、冒頭に書いた「かってない印象を残してくれた」のであろう。