単式蒸留器による蒸留酒こそ、原材料の風味や成分、そこに係わる微生物などを取り込み、食品としての蒸留酒(酒)を造ることができる。イギリスの伝統的な蒸留酒スコッチウィスキーが、ポット・スチルなる単式蒸留器で造られてきたとおりである。
それに反して連続式蒸留器は、ほとんどの成分を除去していってエチルアルコールだけを抽出していく・・・。前回も書いたように、エチルアルコールだけでは酒ではない。酒たるゆえんはエチルアルコールとともに残る原材料の風味成分によるのである。
焼酎でいうならば、単式蒸留器で造られる乙類焼酎こそ酒であり、連続式蒸留機で作られる甲類焼酎は酒ではない、と思っている。問題は、酒ではないものが「甲」と呼ばれ、本物が「乙」と呼ばれていることである。日本酒造組合の『本格焼酎&泡盛小百科』は、そのいきさつを次のように書いている。
「連続式蒸留機は明治の終わり頃西洋から導入され、これからできるピュアなアルコールを水で希釈したものが「新式焼酎」と呼ばれました。それに伴って在来の焼酎は「旧式焼酎」と呼ばれることになってしまったのです。舶来崇拝の明治の風潮の中で、日本伝来のものは古臭くみえたのでしょうか。
さらに昭和24年になって新式は甲類へ、旧式は乙類と改められ現在に至っています。新旧から甲乙へ、学校の成績ではあるまいし、これではいけないと奮起して、乙類焼酎を「本格焼酎」と呼ぶことが認められたのが昭和46年のことです」
日本伝来の食文化の一つ焼酎も、明治以来の外国崇拝思想の犠牲になってきたようだ。しかし、本物とはいえ乙と格付けされた焼酎を、本格焼酎と名づけた気概が、未だ日本民族に残っていたことに、せめてもの救いを感じた。
いつの日か、本格焼酎を甲類と呼ぶ日が来るであろうか・・・