世界の車いすの仲間たち-障害をもつ人たちを絵本の中にたずねて
おとうさんと一緒に絵本の世界をたずねる
障害を持つ人たちが様々なところに登場している。障害を持つ人たちの映画は大きな話題となったし、最近では知的障害を持つ人たちを主人公にしたトレンディ・ドラマが話題だ。小説、児童文学だってまけてはいない。小さい子どもたちの絵本の世界にも障害を持っている人たちが描かれてきている。
肢体障害のお父さんと一緒に幼稚園にいく『おとうさんといっしょ』は、電動車椅子にのるお父さんと息子の交流が描かれており、街にさりげなく作業所のポスターがはってあるところなんかすてきだった。障害を持つ人たちは、いろんな所でがんばっているんだなと感じさせてくれる。おとうさんといっしょに、電動車いすに乗って、おとうさんと同じような障害のある人たちをたずねてみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おとうさんは、ぼくに「『新ちゃんがないた』『野菊』がいい」と教えてくれるんだけど、字ばっかりで、まだ学校に行っていないぼくには、よめやしない。ぼくには絵本がちょうどあってるみたい。だけど、『わたしいややねん』は、車いすしかかいてなくって、どうも、おとうさんが読んでくれてもわかりゃしない。
『あつおのぼうけん』って本は、ぼくよりもおにいちゃんと車いすにのったもう一人のおにいちゃんが出てきて、冒険をする。ぼくも、あのおにいちゃんのように、大きくなったら車いすの友だちと冒険してみたいな。おとうさんは、僕と同じぐらいの年の子を紹介してくれた。『車いすのマティアス』っていう写真入りの絵本だ。
英語なんかこわくない!
マティアス君は、おとうさんといっしょの脳性マヒという病気だって教えてくれた。子どもだけど、おとうさんと一緒の電動車いすを動かしているなんてすごい。
それから、『やあすてきななかまたち』ていう写真の絵本も出してくれた。目が見えないお友達や歩行器にのったお友達の中に、「車いすにのっている子、そして車いすを押している子」の写真をみつけた。車いすを押している子は女の子だ。やさしいんだなぁ。外国のお友達の写真の絵本にも、車いすが出てくるけど。『アルプスの少女ハイジ』にも車いすの女の子が出てくるっておとうさんは教えてくれた。『アルプスの少女ハイジ』も外国のお話だ。外国には、いろんな車いすにのったお友達がいるのかもしれない。
外国のお話を聞かせてとたのんだら、おとうさんはちょっと考えこんだようだった。
「英語はにがてだから…」
でも、ちょっとしてから、ぼくの顔を見ながら、はじめは小さな声だったけど最後には大きな声でこういった。
「絵本ていうのは、怠け者のぼくでも見ているだけでいろんなことを感じさせてくれる。障害を持つ人たちを支える人だったり、家族だったり、ともに育っていこうとする人だったり、いろんな人がいるかもしれないが、いろんな感じ方を絵本の中で楽しんでみよう。すこし、よくばって、中学生までの英語で、絵本の中の障害を持っている姿にふれてみよう。英語なんかこわくない!」
外国のお友達の本は英語で書いてあるようだ。おとうさんは自分に言い聞かせているようだったけど、外国のお友達の絵本を読んでくれるんだから、ぼくはもうけたような気がした。
ぼくとおとうさんは、「外国の車いすのお友達」をさがして、外国旅行をした人に聞いたり、本屋さんにたずねたりした。本屋さんが、いろいろ探してくれて、注文してくれた。でも、遠い国から来る本だから、だいぶ日にちがかかるらしい。まちどおしいな。
おとうさんは、待ってるあいだ毎日、「英語の勉強だ」といいながら、厚い本をめくりながら、横書きの記号のようなものを読んでいる。「怠け者だ」といってたけど、おとうさんは勉強家じゃないか。
金髪のかわいいおねえさん
本屋さんに出かけてから、一ヶ月くらいたった頃だった。幼稚園から帰ってみると、おとうさんが大声でぼくをよんだ。ぼくの帰りをはやくはやくと、まっていたようだ。
おとうさんはぼくに、「アメリカの絵本で、かわいいきょうだいを見つけた」と、早口でいった。ぼくは、なにが起こったかしばらくはわからなかった。ようやく、おとうさんが本をもってやってきてようやくわかった。本屋さんから外国の絵本が届いたんだ。その中から、おとうさんは一冊取り出した。
おねえちゃんといもうとの絵本だ。エイミイねえちゃんは脳性マヒの重い障害を持っている。いもうとのミッチェルがおねえさん役になって、ブランコを揺すったり、時には、アルバムをひらいて、エイミイおねえちゃんとおしゃべりをする。車いすにのりながらブランコをしてるのって、すごい。アルバムを見ながら、一体なにをしゃべっているのかな?エイミイおねえちゃんは、いもうとの自転車につけた車輪つきの椅子で、サイクリングを楽しんだりする。
おとうさんは、英語みながら、説明してくれた。
「エイミイおねえちゃんの日々のようすを、いもうとのミッチェルが教えてくれる本なんだ。家族の中での介護の様子、訓練があること、その様子なんかを…。そして、最後のページには、お医者さんが脳性マヒについての解説してくれていて、脳性マヒについての理解を深めてくれる…」
むずかしいことはわからないけど、淡い色の絵がぼくは気に入った。おとうさんは別の絵本を取り出して、ぼくにいった。
「肢体不自由の子だって、いろいろたのしみたいわけさ。シット・スキーって知ってるかい?。最近日本でも話題になっているようだけど、肢体不自由の子だって冬を楽しむ権利はあるんだ」
その本には、すわったままでスキーができるようになっていて、車いすの子がスキーをしているんだ。こんなスキーにのったらぼくだって、雪の中を転ばずにすべれるかもしれない。ぼくは、思わずつぶやいた。
「おとうさん、スキーにつれてってよ…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ぼくのつぶやきを聞いてかどうかはしらないけど、おとうさんはスポーツのことを話しはじめた。車いすの人の駅伝やマラソンもあるんだって。そういえば、テレビのニュースで見たことがあったっけ。すごい勢いで、車いすで走るんだ。自動車にも負けないぐらい。車いすの子も夢がいっぱいなんだね。絵本の中でも、車いすの子たちが空を飛ぶ夢を見ていた。そのうち、このおにいちゃんやおねいえちゃんの夢がかなって、車いすの宇宙飛行士も登場するに違いない。
車いすにのった動物たち
おとうさんは、本屋さんから届いた本を次々と出して、見せてくれた。
「この頃は、動物も家族の一員。動物たちの中にも、車いすユーザーはいるぞ。くまに、いぬさん、そしてネズミもだ。友だちに囲まれて、生活をエンジョイしている」
『ウィールチェアーコマンドウ』は、車いすにのったくまのおはなし。『アニイとあたらしい子ども』は車いすにのった犬が主人公。そういえば、日本でも、「花子」っていう犬が、車いすを作ってもらって、走り回るという話があったし、『エミの車いす』という小学校のおにいさんやおねえさんが読む本にも、そんな話があったって、おとうさんがつぶやいていた。外国では、ネズミさんが、車いすで、ウサギとかけっこをしているし、動物の国にも車いすを使うやつはけっこう広がっているようだ。
ぼくのうちでは、動物は飼っていないけど、ホントは飼いたいんだ。ぼくはホントに動物好きだから、こんな絵本は、なかなか楽しいと思う。でも、この動物たちの絵本は、どんなお話なんだろう?
「早くおとうさんよんでよ。早く。おねがい。」
☆ ☆ ☆ ☆
車いすの人を助ける人たち
おとうさんはまたちがう、うすっぺらい本を取りだした。また動物たちのお話だ。アーサー・メイヤーという人が描いた本らしい。こんどは、ウサギさんが車いすにのっている。学校のお話みたい。この学級の先生は、ネコさんで、クラスには、ブタさん、ワニさん、スカンクさん、そしてボクがいる。ボクはアライグマかなぁ。そのクラスにウサギの転入生が来るというお話だ。みんななかよしなんだね。みんなその仲間を助けてがんばってるよ。帰るときも、みんなで、車いすをおして、バス停まで行くんだ。クマの運転手さんも、ニコニコして待ってくれている。
車いすの人たちを助ける人たちってみんな生きいきしているね。
「はやく一年生になりたいな。このクラスみたいに車いすの子もいるかな?そしたら、ぼくはおとうさんから教えてもらって、いろいろお手伝いしちゃうんだ。車いすのお手伝いの方法がかいてある絵本てない?おとうさん…」
おとうさんは、前からうちにあった『わたしの家族はいぬのブルース』っていう本を引っぱり出してきていった。
「車いすの人を助けるのは、人だけじゃないんだ。犬だって、お手伝いをしてくれるんだ。どんなお手伝いをしているかこの本を見てごらん」
その本には、車いすのれい子さんを助けている人たちのことや、ブルースという名前の介助犬のことが描いてあった。介助犬のことをパートナードッグというんだって。
朝はブルースがカーテンを開けるし、買い物にもついていって、買いたいものを取る。家にもどると、電気もつけてくれる。れい子さんは、そのつど、英語でブルースに指示している。このブルース、生まれはアメリカで、アメリカで訓練を受けたんだって。だから、れい子さんもアメリカへいって、ブルースと一緒に生活をして、それからブルースと日本へきて、一緒に日本の生活することになったんだって。だから、れい子さんはいつもブルースには英語でおしゃべりをしている。れい子さんは、「英語が上手になりたい」と英会話も勉強しにいっている。もちろん。ブルースと一緒に…。
みなさまへ
絵本を紹介するのに「世界の」「外国の」というところがひっかかっている方もおられるのではないかと思いますん現場の教師の人たちに、「英文購読をやるよ」というと本当にいやな顔をされるのです。でも、ちょっと一歩を踏み出したら面白い世界が…。というわけで、障害者問題に関わる人たちも、もう少し冒険をしてみることがあってもいいのではないでしょうか。外国の絵本には、いろいろな障害のある人たちが描かれた絵本があります。それらを紹介すると、これまた面白い世界となるのではないでしょうか?