平成17年改正前商法時代の「新株発行」の手続は,取締役会の決議によって行い,(1)株式譲渡制限規定がある株式会社が第三者割当てを行う場合,又は(2)有利発行の場合には,株主総会の承認を要するという設計であった。
そして,(1)の場合,「割当てを受ける特定の第三者」についても,発行事項の一として取締役会の決議事項とされていた(平成17年改正前商法第280条ノ2第1項第9号但書)。
しかし,頻繁に資金需要があり,増資を行うベンチャー企業等においては,取締役会による発行の決議の時点では,引受人が決定していないことも多かったことから,引受人の決定後に改めて取締役会を開催し,「割当てを受ける特定の第三者」を別途決議するという手法が採られるようになった(私もしばしば経験している。)。
「会社法」は,おそらくこのような実態に鑑み,発行の決議(会社法第199条第1項)と割当ての決議(会社法第202条)とに手続を分けたのであろう。当時は,なるほどと思ったものである。
さて,しかしながら,手続開始の時点から引受人が決定しているケースでは,逆に煩雑感があるようであり,一つの決議で済ませることはできないのか,という話が出てくる。
そこで,発行の決議機関と割当ての決議機関が同じ場合には,発行の決議の段階で,「割当てを受ける特定の第三者」から申込みを受けることを条件として当該者についても決議しておく,という手法が用いられるようになった。
この点に関する記事がこれ。
cf. 法務局の業務に関するQ&A
http://blog.livedoor.jp/houmu4180/archives/52228418.html
この記事は,金子さんのコメント(6月24日及び27日付け)を受けた反論(?)のようである。
http://esg-hp.com/
金子さんの論は,おそらく「最初から引受人が決まっているケースでは,昔のやり方でよいでしょう」であり,登記官の論は,「会社法の原則に沿うように」ということであろう。
平成17年改正前商法下においては,条文の定めがあいまいなところが多く,手順の先後については,それほど厳しくチェックされなかった感があるが,会社法下においては,条文が整理され過ぎた嫌いがあり,手順前後について,細かいチェックが入るようになった感がある。
また,上記のとおりの沿革で,因数分解(?)により,発行の決議(会社法第199条第1項)と割当ての決議(会社法第202条)とに手続を分けたという点も好感である。
というわけで,私は,「会社法の原則に沿うように」の方にシンパシーを感じる次第。