AERA編集部 2016/01/05 13:00
かわいい格好で接客や散歩をするだけ、といううたい文句。だが、それは危険な性ビジネスへの誘い水だ。ハードルが下がるなか、被害者に「普通の子」が増えている。思春期の不安定な心のスキをつく犯罪行為の実態とは。
女子高生(JK)と散歩ができるという触れ込みで、実際はカラオケやレストランなどでデートする「JKお散歩」や、制服を着た女子高生が個室でマッサージ(リフレクソロジー)を行う「JKリフレ」、折り紙を折らせて下着をのぞく「JK折り紙」。ネーミングにお気軽感が漂うが、すべて未成年による売春の温床になっている。
児童買春や児童ポルノの被害者救済に取り組むNPO法人「ライトハウス」代表の藤原志帆子さんはこう警鐘を鳴らす。
「接客やマッサージといっても、実態は客の性的好奇心に応じるものがほとんど。たくさんの子どもたちが強姦や買春被害に遭っている」
2004年の活動開始以来、のべ4000件、電話やメールで相談を受けてきた。15年は売春やポルノを強要される人身取引被害者の支援を80件行ったが、これは前年の倍以上になる。被害者数など実態調査を国に求めているが、まだ動きはない。
ここ数年で目立つのは、「ごく普通の」高校生が被害に遭うケースだという。
「家庭環境に問題がある子が多いのは変わらないが、一方で何の問題もなさそうな家庭の子、進学校や有名私大の付属高校に通うような女子が、親に言えず相談してくるケースが目につくようになった。彼女たちにとって性的なビジネスへのハードルが下がっているのではないか」(藤原さん)
父はエリート 進学先に注文
その後、家出。キャバクラの寮に入って働いた。ひと月で50万円稼ぎ、一時は200万円ほど貯金できたが、あればあるだけホスト通いなどで使ってしまった。周囲には「15歳からキャバ嬢やってる」という子もいた。18、19歳は中堅クラス。22歳くらいで他のクラブに流れているようだった。
「数カ月経つと、地元の同級生は大学生活を満喫しているのにと不安になった。ずっとここにいちゃいけないと思い始めた」
ある日、客から「こんなところにずっといちゃいけないよ。お金出してあげるから、大学行けよ」と言われた。関係を求めてこず、50万円貸してくれた。キャバ嬢をしながら、塾に通い、都内の私立大学に合格した。借りたお金は利子をつけて返済した。
モデル勧誘 実はAV出演
大学入学のために上京。ネットカフェとラブホテルを渡り歩いた。お金に困り、再び夜の仕事を探した。「求人誌はウソばっかだけど、スカウトは大丈夫」という友人の情報を信じた。紹介された店をネットで調べると、募集広告にも「安全・安心。のらない・なめない・さわらない」と書いてあった。
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だが、嘘だった。売春させられそうになったため、ビルの裏口から走って逃げた。
「一度ハマると負の連鎖から抜け出せない。私が抜け出せたのは大学に通い始めて自分に自信がついたから。ずっと性的なビジネスにだまされるのは私が悪いからだと自分を責めていた。でも、大人になって、あれはハラスメントだったんだと気づいた。(JKビジネスの)罠にはまってしまう女の子たちが悪いんじゃない。子どもの性の搾取を許している社会を見直さなきゃって思う」
この女性のように立ち直ったり、しかるべき機関に相談しサポートを受けたりできる被害者はほんの一握りに過ぎない。
「日本は他の先進国と比べて、子どもを性犯罪から守る法の整備が遅れているので、新手のビジネスが次々と生まれやすい」
そう嘆く藤原さんが新たに相談を受けたのが「相席居酒屋」だ。“婚活応援”などとうたい、「おしゃべりしてごはんを食べるだけでいい」と言われて女子高生が座っていると、目の前の男性客が数十分ごとに席替えする。値踏みされ、売春に応じてしまった未成年もいる。
モデル勧誘に見せかけたAV出演の強要も後を絶たない。ライトハウスがサポートした被害でAVは最も多い。
首都圏在住の40代の主婦は以前、渋谷に買い物に出かけた高校1年の長女から泣いて打ち明けられた。
「読者モデルにならない?って言われてついていったら、登録料は50万円って。怖くなって逃げてきたけど、住所とか携帯の番号を書いちゃった」
その後実害はないが、一抹の不安は残る。
「あのまま娘が逃げなかったら、AVに出ろと言われたかもと思うとゾッとする」(主婦)
読モ以外にも、ヘアモデル、手先や脚のみのパーツモデルにならないかと誘い、「君、可愛いよ」「スタイルがいいからやってみない?」などとほめちぎりその気にさせる。契約書を書かせ、後で断ると「違約金300万だよ」と脅す、といった手口もよく見られる。サインをしてしまうと、被害届を出せないケースが多いという。
被害者は女子だけではない。
「君、カッコイイね。モデルにならない?」
そんな言葉で誘われたのは名門私大に通う男子学生だった。
「シャツ脱いで上半身だけ見せてくれるかな」などと要求はどんどんエスカレートし、気がついたときには学生証のコピーをとられていた。男子は女子以上にひとりで悩みを抱え込む傾向があるという。誰かに相談するまでに時間がかかるため、傷はより深くなる。
一度撮影されてしまうと、取り返しがつかない。近年AVはDVDではなくネット配信される。一度配信されたら、完全に削除することはまず不可能だ。海外にサーバーがあれば太刀打ちできない。そうやって簡単に大量生産され、子どもたちの性は搾取されていく。
自尊心が低い 評価と錯覚
スカウトがきっかけでモデルになったり芸能界入りしたりする話が多いだけに、「もしかしたら私も」と思わされる。前出の高1女子のように素直に誘いを受け入れてしまうのだ。子どもたち自身に警戒してほしいところだが、甘い誘いが不安定な思春期の心のスキをついてくる。
心療内科「ポレポレクリニック」(東京都武蔵野市)院長の辻内優子さんが解説してくれた。
「私が出会った性ビジネスに走った子どもたちは、親から何らかの虐待を受けたことのあるケースが多かった。虐待を受けなかったとしても、自尊感情が低く、頑張っても褒められない、評価されない体験を重ねるなか、性ビジネスの世界では若いというだけで、認められ、褒められ、かわいがられる。そのため、自分が評価されていると錯覚してしまう。そのうえ、自分の力でお金を稼げると、嫌いな親がいなくても生きていけるという歪んだ自信をつけることにもなる」
「ブルー・ハート」は、1冊300円で購入できる。台湾のロータリークラブが「同じ問題がある」と中国語版も発行。台北市教育局に1万冊寄贈した(撮影/写真部・長谷川唯)
ライトハウスは、さまざまな性被害の実例をもとにした啓発漫画「ブルー・ハート」を昨年制作した。JKビジネスやリベンジポルノなどの危険性を説く。関係施設や学校などに5千部、配布した。
冒頭に登場した20代の女性は今後も、自身の消せない過去の重さを伝えていきたいと言う。
「傷が残らない子はいない。親はもちろん、将来のパートナーや子どもに対し、自分の過去の傷は隠せても、完全に消すことはできない。性犯罪の被害に遭ったのだからあなたは悪くないと言われるけれど、ずっと罪悪感を持ち続けている自分がいる。だから、自分の性をビジネスになんてしないでほしい」
(ライター・島沢優子)
※AERA 2016年1月11日号
2016年1月11日号
都内に住む20代の女性は、地方の進学高校に通ういわゆる優等生だった。3年生の時、「おしゃれな服を着て稼げるなら、いいかな」と軽い気持ちでガールズバーを訪れた。すぐに風俗と気づき帰ろうとしたら、「今日だけ仕事して。お客さんがいるから」と言われた。嫌がると、バッグの校章を指さした店員から「学校、わかってんだよ」と脅された。わいせつな行為をさせられたが、3回くらい行ってしまった。
「やけになっていた。自分を大切にできなかった」
女性の心が荒れた原因は、父親からのストレスだった。父は旧帝大卒で大手企業に勤務するいわばエリート。進学先には常にハードルの高い注文をつけられた。その父に愛人がいるのを知って以来、家を避けるように。日記には「死にたい。死にたい」と書き連ねた。
「ヘルスかソープかな」女性を売買する男たち 言葉巧みに夜の街へ 性ビジネスの実態
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2018/2/9 14:48 (2019/9/18 15:41 更新)
西日本新聞
セックスワーカーたち<1>
クリスマスのイルミネーションがともり始めた福岡市・天神。商業施設の前でじっと待ち、一人歩きの女性を見定めるスーツ姿の男たちがいる。「空いた時間で稼ぎませんか」。さっと並んで数メートル歩き、諦めては同じ行動を繰り返す。
【関連】「売春の温床になる」JKビジネスの実態 消費され続ける少女たち
夜の街の仕事を仲介するスカウトたちだ。近くには九州最大の歓楽街・中洲がある。店側が勧誘するケースもあるが、店に紹介した女性の売り上げ分から数%を手にする「スカウトバック」の仕組みがここ数年で定着し、専門業者もいる。
「声を掛けてカフェでの面接につながるのが100人に1人やね。そこで話せば大抵は落とせる」。15年以上のスカウト経験がある男性(33)が中洲で取材に応じた。あっせんした女性は5千人を超え、紹介先の1割は性的サービスを提供する風俗店という。
性交を伴わない店舗型や派遣型のヘルスのほか、ソープランドのように「あくまで浴場の提供。個室内の行為までは知りようがない」との建前で、売春が常態化している店もある。「そういうところは客の単価が高いからもうかるんだよ」。男性の場合、高級ソープへの紹介料だけで2千万円を稼いだ年もあるという。
若者が集う華やかな街がスカウトたちの「狩り場」となっている。
ある日のカフェ-。
「留学したいんやね。親に頼るより、自分で稼いだ方がよくない?」
「キャバクラだと収入はこれくらい。足りんよね」
「上半身だけ裸になるパブもあるけど、大勢の前で脱ぐのは平気?」
「嫌なら個室のヘルスかソープかな。セックスのスキルアップにつながるし、彼氏も喜ぶと思わん?」
世間話から始まり、自分で選ぶように誘導される。天神でスカウトされた福岡市の女子大学生も「その日のうちに契約書みたいな紙にサインしてしまった」と振り返る。嫌になって無断欠勤すると多額の罰金を科され、余計に辞められなくなる人もいる。
「モデルやアイドルにならないか」と誘われて契約した10~30代の女性197人中、53人(27%)が契約外の性的行為の撮影を求められた-。2月に公表された内閣府の調査で、性ビジネスにおける人権侵害の一端が表面化した。アダルトビデオ(AV)への出演を強要された人もいた。
スカウト歴15年の男性も「基準は顔とスタイル。良ければキャバ、そうでもなければソープやヘルス。AVのプロダクションに売ったこともあるよ」と淡々と語る。スカウトバックを元手にトイチ(10日で利息1割)のヤミ金融も営み、収入源の女性にさえ貸していたという。
女性を商品として売買する現実がすぐそこにある。
◇ ◇
違法と合法が重なるグレーゾーン。それでもなお、性的行為を職業とするセックスワーカーは絶えない。風営法で届け出のある性風俗店だけで全国に約2万2千あり、年々増えている。中には自ら飛び込む女性もいる。なぜか。性差別意識が深層に広がる灰色の街に彼女たちの姿を追った。
この記事は2017年12月13日付で、内容は当時のものです。