10/7(水) 10:04配信
サンデー毎日×週刊エコノミストOnline
株式会社Lamir 藤沢涼氏
(2016年に「週刊エコノミスト」に掲載した記事を再掲載しています)
◇記事もみ消しは当たり前の世界
――電通はマスコミに圧力をかけているのか。
藤沢 ある大きなクライアントの不祥事を、雑誌が嗅ぎつけて記事にしようとしていた。そうした記事が出そうになると、ねじ伏せることが頻繁にあった。
例えば、媒体に「向こう半年、出稿を約束するから、記事の一部を修正してほしい」と頼み込んで、急遽、記事を直前に差し替えることがあった。
私の在職中に痴漢事件を起こした社員がいた。
他の会社だったら記事に社名や名前が載るのに、その時は名前が伏せられた。「なぜ?」という思いはずっとあった。
事件後、週に1回の部会で、「〇〇室の室長が痴漢で逮捕され、減給・降格の処分を受けた。諸君も気を付けるように」との報告があった。
該当部署の室長は1人しかおらず、すぐに特定できたが、それを聞いた社員たちの反応は薄かった。
報道では室名も出なかったので、私が同僚に「なぜ、個人名がニュースに出ないのか」と疑問をぶつけると「それが電通の特権だろう」と当然のように答えた。
――媒体にどう働きかけるのか。
藤沢 電通の社員の中には、警視総監の子息もいた。そのほか、政財界との「ずぶずぶ」な関係もある。
すべてに網を張っておいて、どこかで問題が生じたら、それを封じるような策が常にどこかにある。
すごい世界だな、と思った。
悪い記事が出たら「もうこの雑誌には出稿しない」とクライアントのお偉いさんから一本電話がかかってきて、部長が凍り付くという場面もよく見た。
――広告を出さないと電通の売り上げは減る。
藤沢 そこで記事を封じるために、クライアントから口止め料として、さらに多くの広告を取ってきて自分の会社の売り上げにつなげる。
クライアントも媒体も喜ぶし、電通も利益が上がる構造だ。
「社会の不都合な真実がここにあるな」と感じていた。
私が電通を辞める前年に東日本大震災が起きた。東電を叩くべきはずのところをテレビも雑誌も沈黙を貫いた。
私は上司に掛け合った。「これは正しい仕事なのか」と。
しかし「東電の広告費はお前の給料の一部だから共犯だ」と釘を刺された。これが退社の大きなきっかけになった。
◇キックバックという名の「賄賂」で私腹を肥やす電通マン
――キックバックもあると聞く。
藤沢 テレビ制作会社が、「うちだったら、数十万円程度のポケットマネーを落としますよ」という話を普通にしていた。暗黙の了解で懐に収める社員もいたようだ。
しかし、私は理解に苦しんだ。モラルに反する行為だからだ。
制作会社としては、電通社員と強いパイプを作ることで他の番組も発注してほしい。「キックバックしてあげるから、他の番組でも声を掛けてよ」ということ。つまり賄賂だ。
入社当時は、「利権をむさぼるようなことはやめよう」と、互いに絆を強めていた同期も、5年たつと朱に交われば赤くなるで、「電通はこうでなきゃ」と態度を一変させた。
悲しかった。
彼らは「必要悪」を言い訳にしていたが、結局は私腹を肥やしているに過ぎない。
また、電通の部長が架空取引で大金をだまし取った事件もあった。電通が関与していないイベントなのに、関与を装い、知人の広告会社からイベント制作の業務委託料約1億5000万円をペーパー会社に振り込ませた。
――会社を利用する人が多いのか。
藤沢 入社時はそうではない。働いているうちに、みんな、上司の教えや周囲の環境に洗脳されていく。
私の入った部署は、新入社員は毎日、朝8時前には会社に行って、全員の机をぞうきん掛けする。帰りも、全員が帰るのを見届け、最後に消灯する役回りを担う。
「新入社員は派遣社員の下」という教えがあった。
飲み会では、先輩の革靴に注いだウイスキーやビールを混ぜ合わせたお酒を一気飲みさせられる、ということもあった。
私の同期が高級ブランドの白いシャツを着てくると、先輩が「よし、今夜は祝いだ」と言い、赤ワインをその真っ白なシャツにかけたことがあった。同期は一瞬、むかっとしたが、笑顔で「ありがとうございます」と。異常な縦社会が目の前にあった。