by ガエル ファイユ (著), 加藤 かおり (翻訳)
残酷な内戦を目の当たりにした主人公の少年は、本と出合うことで新しい地平が開かれる。
アフリカ・ブルンジ出身の作家ガエル・ファイユの自伝小説「小さな国」
奪っても奪っても足りないのは、消しても消しても消えないから。そんな確かな暮らしが、悲惨な争いの中でやっぱり輝いてる。」――尾崎世界観さん (クリープハイプ)推薦
アフリカにあるちいさな国、ブルンジ。仲間たちとマンゴーをくすねたり、家族でドライブしたり、少年ギャビーは幸せな日々を送っていた。しかし、初の大統領選挙をきっかけに民族対立が激化し、内戦が勃発する。親戚や知り合いが次々と消息を絶ち、平穏な生活は音を立てて崩れていく……。フランスで活躍するミュージシャンが、自らの生い立ちをもとにつづった感動作。高校生が選ぶゴンクール賞、Fnac小説賞、第24回日仏翻訳文学受賞作。解説/くぼたのぞみ
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ファイユ,ガエル
1982年、ブルンジ共和国でフランス人の父とルワンダ難民の母とのあいだに生まれる。1995年にフランスへ移住。2009年に音楽グループ“Milk Coffee and Sugar”を結成しデビュー。2016年、作家デビューとなる『ちいさな国で』で“高校生が選ぶゴンクール賞”、FNAC小説賞を受賞。ゴンクール賞でも最終候補作となり、エリック・バルビエ監督により映画化された。ルワンダに妻子と在住
加藤/かおり
国際基督教大学教養学部社会科学科卒、フランス語翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
ブルンジ/ルワンダやツチ/フツの過去の問題を描いているのはもちろんだが、それよりギャビーの
人間としての人生の悲哀を描いている。「得る」ということは「失う」ことでもある。ギャビーの現在の
平和(もっともそれは表面的なことだが)は過去の悲劇の上に成り立っている。いや、それどころではない。
彼が心の平和を得ることは決してないだろう。あまりに多くのことを失うという過去があるからだ。
少年としての無垢さ、そして祖国、仲間などあまりにも多くのことを失ったのだ。最後に彼は発狂して
生き残っていた母にブルンジで会うことになった。その母を面倒を見て行くのだ。その後は...??
文章が洒落ていて軽快で素晴らしい。最も加藤かおり氏の訳も素晴らしいのだと思う。
内戦は他人事だった。
難民として避難している親戚のことも。
大統領選後、状況が一変する。
子供から少年になり、選択を迫られる。
私たちがつい、アフリカと一括りにしてしまう地域の物語。
高校生向けと言われているが、大人も読んで欲しい。
そして世界に目を向けて欲しいと思う一冊。
アフリカの日常生活のことは我々はほとんどしらないわけだが、瑞々しく描かれており、夢中になってよみました。
その後、フランスに移住してからの続編も期待してます。
書名になっている「ちいさな国」とは、アフリカ大陸のブルンジ共和国。
巻頭のアフリカ大陸の地図を見れば、どのあたりに位置するのかが分かります。
国の「拡大図」に付いている「縮尺」によれば、
南北約200キロメートル、東西約150キロメートルのちいさな国です。
主人公の「ぼく」の名前は、ガブリエル(ギャビー)。
著者の名前は、ガエル。なんとなく似ています。
本書は、自伝的小説。
この「ちいさな国」で何が起こったのか、自分の生い立ちに並行して綴られた
歴史小説にもなっています。
「ぼく」はある夫人に出くわし、夫人の家の本棚に誘われます。(194頁)
「これ、ぜんぶ読んだんですか?」と驚く「ぼく」に、夫人は答えます。
「ええ、そうですよ。何度も読み返したものもありますわ。本はわたしの生涯の恋人なの。
笑いや涙や疑いや、考えるきっかけを授けてくれる存在なんです。いまいる場所とはべつの
ところに旅立たせてもくれますし。本はわたしを変えました。べつの人間にしてくれたんです」
「一冊の本には、あなたを変える力がある。あなたの人生さえも。そう、ひと目惚れのように。
運命の出会いはいつ起こるかわかりません。本をあなどってはだめ。本は眠れる精霊ですよ」
そして、内戦の戦闘が激しさを増したため、「ぼく」と妹は急遽フランスへ逃れることになり、
夫人は別れのとき、「ぼく」の背中に
「ぼく」を気遣い「ぼく」をみちびく言葉をかけつづけます。
「本を読み、人と出会い、恋をして豊かになるんですよ。
自分が生まれ育った場所を、忘れてはなりませんよ……」
大人になったある日、夫人が遺してくれた本の詰まったトランクを引きとるために
二十年ぶりに故郷を訪れます。
そして、酒場の奥のすみの暗がりの地べたにうずくまる老女、
「母さん」と再会します。
著者の母親も、隣国ルワンダからの難民だったのです。
ノンフィクション作品よりも、こころにしみる物語でした。
本は、笑いも涙も疑いも、考えるきっかけも読者に授けてくれます。
二作目の小説がたのしみです。
先ず、文章が独特で美しい。歌の歌詞の如き言葉が織り重なり、そのおかげで、行ったこともないアフリカの国の美しい風景が鮮明に浮かび上がる。少年達の無邪気な青春群像と相まって、読者はある種の旅に出た気分になると思います。その美しい表現ゆえに、旅の結末は、否が応でも強烈に心に響くことになります。帯に書かれているように、多くのフランスの高校生がこれを読んでいると思うと、驚きです。日本でも、ぜひ、多くの人に読んで欲しいと思う一冊です。
今、読まれるべき素晴らしい小説。
主人公の少年は、フランス人を父に、ルワンダ難民を母に持ち、アフリカの小国ブルンジで生まれ育つ。
ブルンジは旧ドイツ領、ベルギー領を経て独立した国で、主人公の周囲の人々は民族的にも文化的にも実に多様だ。
袋道の同級生たちと川遊び、マンゴー採りなど、主人公はアフリカの極彩色の大自然の下、おおらかにのびのびと育っていく。
だが、内戦が勃発。虐殺が始まり、主人公の多数の親戚が犠牲になってしまう。
突然の圧倒的暴力で、主人公の少年時代は強制的に終了となるのである。
友人が敵と味方を単純化し、仕返しを是とするのに対し、主人公が読書により、袋道の窮屈さから自由になり、広い世界観を得るのが印象的だった。「本は人生を変える力がある」というのは著者の実感だろう。(だが、心身とも極限状態で厳しい選択を迫られることになるのだが。)
「幸せはバックミラーにしか映らない」という言葉が出てくるが、穏やかな子どもらしい幸せな時代が二度と戻ってこないという哀しみがそこにある。
本書は、著者の体験を基にした一部フィクションだが、著者は、ブルンジでは白人、フランスでは黒人と感じさせられたそうだ。が、本書を著すことは、みずからのアイデンティティの確率に有益だったことだろう。その点、西加奈子の作品に通じるものがあると感じた。
フランスや英国の場合、旧植民地と言葉が同じでもあり、従来から人の行き来があり、社会に多様性がある。本書はその多様性を垣間見ることができる書でもある。(島国)日本で育つ(若)者に是非、読んでもらいたい書だ。星5に十分値する本だと思う。
作家がもつバッグラウンド(中央アフリカのブルンジ出身、ミュージシャン、フランス人の父)が存分に生かされた物語であり、かつ、今後いつの時代に読んでも感銘を受けると感じる名作。
民族対立を親の教育もあり遠景に感じながらも青春期特有の成長過程を順調に経ていた主人公が、やがて、暴力的に大事に思っていた人や生活をはぎとられる過程、さらに、そのような対立が人間をも変容させていくところが生々しく描かれている。一方、主人公がどうにか現実からの浮揚感や中立を保つための武器として、暴力や銃ではなく、本や知性を選択しているところが唯一の救いであり、それがゆえに本の終盤で起こる出来事のむなしさや絶望感をより強調している。
テーマが重いが、物語そのものは青春物語としての汎用性もあり、さらに作家の言葉がみずみずしくリズム感があることから最後まで一気に読み通せる。特に現在の世界の動きに興味が薄れてしまっているといわれている日本の青少年に、このような知性のフィルターがかかった青少年文学をぜひ読んでもらいたいと感じた。
ところどころに歌が民族を一体化させるというシーンや言葉があり、アフリカ民族土着の感性を感じる。この稀有な新人作家は、音楽や、映像や、においが生々しく感じられる映画的な表現法を1作目にしてすでに体得しているため、訳者あとがきに記載の通り、著者が今後どんな作品を届けてくれるのか、これからの活躍に期待したい。