10/11(日) 11:30配信
AERA dot.
中野信子・脳科学者 (撮影/写真部・張溢文)
『サイコパス』や『毒親』など多数のベストセラーを刊行する美貌の脳科学者、中野信子さん。作家・林真理子さんとの対談では、出身校である東大トークを中心に、大盛り上がりでした。
【林真理子さんとのツーショットはこちら】
* * *
中野:私、つい最近になって、林さんの『野心のすすめ』を読んだんですよ。すごくいい本ですね。
林:ありがとうございます。でも、あれを書いたのは7年前で、ああやって「頑張るんだ。人間、努力しなきゃダメだ」と言ってもいい最後の時代だったんですよね。あれから時代が変わって、今は「野心なんて疲れるだけ。生きてるだけで素晴らしいんです」という、やすらぎと癒やしの時代になっていると思うんです。
中野:確かに今、論争をあおったりとか、優劣をつけるのはダメ、みたいな感じがありますよね。
林:それなのに、テレビを見ると「東大王」とか高学歴芸人ナントカというのばっかりやって、学歴がブランド化されていて、すごく矛盾してると思う。
中野:時代が変わってきましたね。われわれのころは東大生って“珍獣”だったんですよね。いま東大の子ってほんとにカワイイ子が増えたし、ミスコンに出られるレベルの子がいるんですよね。在学中からメディアを意識して、東大を卒業したあとの出口戦略になり得ているというのはすごいなと思います。われわれのころは法学部だったら官僚になるか、そうでなければ政治家か弁護士で、落ちこぼれが民間に行くみたいな感覚がありました。理系は約8割が大学院に行くようでしたし。
林:テレビに出て自分たちの能力の高さを見せつけようなんて、みんな思わなかったわけですね。
中野:メディアに出て何かするなんて、どちらかといえば底辺の扱いでした。そういう東大生の変化がある一方で、広く世間では、いま林さんがおっしゃったように「『ただ生きてるだけで価値がある』と言ってほしい」という欲求が異様なほど高まっている。これは、そう言わなければならないほど、人々が格差を感じてることの裏返しかなと思うんです。
林:ああ、なるほど。
中野:日々格差を感じてつぶれそうな気持ちを皆、抱えている。「上級国民」なんていう言葉がどこからともなく出てきて、多用されましたよね。池袋の暴走事故がきっかけでしたか。
林:元エリート官僚が運転していた車が暴走して、母子が死んで何人もが重軽傷を負った事故ですね。
中野:ええ。「特別扱いされている人たちと自分たちは違うんだ。自分たちの存在価値はあるのか」ということを毎日自問自答している人も少なくないのではと思います。
林:そういう人たちがテレビを見てるわけですね。
中野:「俺も勉強を頑張ったらああなれるのか」とか、逆に“珍獣”たちの失敗を見て溜飲を下げるとか。
林:でも、テレビをそうやって見てる人は「頑張って東大に行こう」なんて思ってなくて、「あの人たちとは頭の構造が違うんだ」と思ってるんじゃないですかね。
中野:生まれつきの要素は否定できませんが、生まれた後の要素もけっこう大きいんですけどね。後の要素には親の経済力なども確かに効いてきますが、本質は経済力そのものより、養育者の教養ではないかという議論があります。子の教育に関わる人の知的水準によって、子どもの成績が変わることも十分にあり得ます。また、後天的な要素は自分でも調整できる部分がありますから、そこはあきらめずに野心を持つべきだと私は思います。
林:中野さん、このところ立て続けに本を出してらっしゃいますけど、『空気を読む脳』(講談社+α新書)という本を読んだら、「子どもをほめなさいと言うけれども、実験するとけっこうそうでもないことがわかった」とおっしゃってますね。
中野:そうなんです。「能力をほめるのと、努力をほめるのとでは結果が違うよ」ということですね。能力をほめると、今ある能力以上のことに挑戦しなくなってしまったり、未知の問題に直面したときにそれを回避する性格になってしまったりということがわかっているんです。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力:一木俊雄)
中野信子(なかの・のぶこ)/1975年生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年までフランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。現在、東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授として教鞭を執るほか、脳科学、認知科学の最先端の研究業績を一般向けにわかりやすく紹介することで定評がある。著書多数。近著に『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『パンデミックの文明論』(文春新書、共著)などがある。
>>【脳科学者・中野信子が説く「毒親」の正体 理性を失わせる「親子の絆」がイヤだなと】へ続く
※週刊朝日 2020年10月16日号より抜粋
東大生で「メディアに出るのは底辺の扱い」 中野信子がかつての母校語る〈週刊朝日〉
10/11(日) 11:30配信
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中野信子・脳科学者 (撮影/写真部・張溢文)
『サイコパス』や『毒親』など多数のベストセラーを刊行する美貌の脳科学者、中野信子さん。作家・林真理子さんとの対談では、出身校である東大トークを中心に、大盛り上がりでした。
【林真理子さんとのツーショットはこちら】
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中野:私、つい最近になって、林さんの『野心のすすめ』を読んだんですよ。すごくいい本ですね。
林:ありがとうございます。でも、あれを書いたのは7年前で、ああやって「頑張るんだ。人間、努力しなきゃダメだ」と言ってもいい最後の時代だったんですよね。あれから時代が変わって、今は「野心なんて疲れるだけ。生きてるだけで素晴らしいんです」という、やすらぎと癒やしの時代になっていると思うんです。
中野:確かに今、論争をあおったりとか、優劣をつけるのはダメ、みたいな感じがありますよね。
林:それなのに、テレビを見ると「東大王」とか高学歴芸人ナントカというのばっかりやって、学歴がブランド化されていて、すごく矛盾してると思う。
中野:時代が変わってきましたね。われわれのころは東大生って“珍獣”だったんですよね。いま東大の子ってほんとにカワイイ子が増えたし、ミスコンに出られるレベルの子がいるんですよね。在学中からメディアを意識して、東大を卒業したあとの出口戦略になり得ているというのはすごいなと思います。われわれのころは法学部だったら官僚になるか、そうでなければ政治家か弁護士で、落ちこぼれが民間に行くみたいな感覚がありました。理系は約8割が大学院に行くようでしたし。
林:テレビに出て自分たちの能力の高さを見せつけようなんて、みんな思わなかったわけですね。
中野:メディアに出て何かするなんて、どちらかといえば底辺の扱いでした。そういう東大生の変化がある一方で、広く世間では、いま林さんがおっしゃったように「『ただ生きてるだけで価値がある』と言ってほしい」という欲求が異様なほど高まっている。これは、そう言わなければならないほど、人々が格差を感じてることの裏返しかなと思うんです。
林:ああ、なるほど。
中野:日々格差を感じてつぶれそうな気持ちを皆、抱えている。「上級国民」なんていう言葉がどこからともなく出てきて、多用されましたよね。池袋の暴走事故がきっかけでしたか。
林:元エリート官僚が運転していた車が暴走して、母子が死んで何人もが重軽傷を負った事故ですね。
中野:ええ。「特別扱いされている人たちと自分たちは違うんだ。自分たちの存在価値はあるのか」ということを毎日自問自答している人も少なくないのではと思います。
林:そういう人たちがテレビを見てるわけですね。
中野:「俺も勉強を頑張ったらああなれるのか」とか、逆に“珍獣”たちの失敗を見て溜飲を下げるとか。
林:でも、テレビをそうやって見てる人は「頑張って東大に行こう」なんて思ってなくて、「あの人たちとは頭の構造が違うんだ」と思ってるんじゃないですかね。
中野:生まれつきの要素は否定できませんが、生まれた後の要素もけっこう大きいんですけどね。後の要素には親の経済力なども確かに効いてきますが、本質は経済力そのものより、養育者の教養ではないかという議論があります。子の教育に関わる人の知的水準によって、子どもの成績が変わることも十分にあり得ます。また、後天的な要素は自分でも調整できる部分がありますから、そこはあきらめずに野心を持つべきだと私は思います。
林:中野さん、このところ立て続けに本を出してらっしゃいますけど、『空気を読む脳』(講談社+α新書)という本を読んだら、「子どもをほめなさいと言うけれども、実験するとけっこうそうでもないことがわかった」とおっしゃってますね。
中野:そうなんです。「能力をほめるのと、努力をほめるのとでは結果が違うよ」ということですね。能力をほめると、今ある能力以上のことに挑戦しなくなってしまったり、未知の問題に直面したときにそれを回避する性格になってしまったりということがわかっているんです。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力:一木俊雄)
中野信子(なかの・のぶこ)/1975年生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年までフランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。現在、東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授として教鞭を執るほか、脳科学、認知科学の最先端の研究業績を一般向けにわかりやすく紹介することで定評がある。著書多数。近著に『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『パンデミックの文明論』(文春新書、共著)などがある。
>>【脳科学者・中野信子が説く「毒親」の正体 理性を失わせる「親子の絆」がイヤだなと】へ続く
※週刊朝日 2020年10月16日号より抜粋