精神障害の一種であり、社会に適応することが難しい恒常的なパーソナリティ障害、または、精神病と健常との中間状態。精神病質を持つ者は精神病質者、サイコパス(英: psychopath)と言う。
犯罪社会学者の赤羽由起夫が言うには「精神病質とは,性格の極端さのために自分や他人が悩む症状につけられた病名」であり、教育心理学者の加戸陽子・眞田敏らによると「精神病質とは、成人において非社会性または反社会性を常況として社会生活上の困難をしめすパーソナリティ障害と解釈されることが多い」。
精神病質という用語は、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われている。
精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)や疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)においては、反社会性パーソナリティ障害(Antisocial personality disorder/ASPD, dissocial personality disorder/sociopath)として分類されている。サイコパスはその定義上、悪人とされる[5]。そして彼らが悪事に手を染める理由にはありとあらゆるものがあるとイェール大学の心理学専門家ポール・ブルームは断定している[5]。
類似語
類似する用語として、社会病質(しゃかいびょうしつ、(英: sociopathy、ソシオパシー)がある。行動遺伝学者デヴィッド・リッケン (David T. Lykken) は反社会的人格を「ソシオパス的人格」「サイコパス的人格」「性格神経症」の三つに大別し、
ソシオパス的人格は、親の育て方などによる後天的なもの
サイコパス的人格は元来の性格、気質などの先天的なもの
として位置付けている[6]。しかし一般には、ソシオパスとサイコパスはほぼ同義なものとして扱われることが多い[* 1]。研究では、原因は遺伝的要因と非遺伝的要因が挙げられている。
「サイコパシー」は「マキャヴェリズム」「ナルシシズム」と共に、ダークトライアド[7]を構成する3要素の1つである。
注意点
「精神病質(サイコパシー)」という言葉はかつては(主にヨーロッパにおいて)精神医学用語の1つとして、比較的広い意味で用いられていた。現在ではそうした用法は廃れているが、今日の用法と混同しないよう注意が必要である。またサイコパスは俗にサイコと略されることがあるが、この言葉には「精神病的(英: psychotic、サイコチック)」という意味も含まれることもあるので「サイコパス的(英: psychopathic、サイコパシック)」とは必ずしも同義ではない。
特徴[編集]
行動・情動面での特徴
オックスフォード大学の心理学専門家ケヴィン・ダットンによるとサイコパスの主な特徴を以下の様に定義している[8]。
極端な冷酷さ・無慈悲
エゴイズム
感情の欠如
結果至上主義
中でも、最大の特徴は「良心の欠如」であり、他人の痛みに対する共感が全く無く、自己中心的な行動をして相手を苦しめても快楽は感じるが、罪悪感は微塵も感じない[9]。
「人の心や人権、尊厳を平気で踏みにじる行動をしながら、そのことに心が動かない」という特徴があり、良心の呵責なく他者を傷つけることができる[10]。
サイコパスの人間の大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者(=マイルド・サイコパス(※後述))であるとされている。このようなマイルド・サイコパスは、社会的成功を収めることも多いとされている。
犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義している。
良心が異常に欠如している
他者に冷淡で共感しない
慢性的に平然と嘘をつく
行動に対する責任が全く取れない
罪悪感が皆無
自尊心が過大で自己中心的
口が達者で表面は魅力的
中野信子により以下のような具体的な特徴が挙げられている[11][要ページ番号]。
「良心の欠如」「表面的な愛想の良さ」「言葉の巧みさ」「節操のなさ」「長期的な人間関係の欠如」という特徴がある。
ありえないようなウソをつき、常人には考えられない不正を働いても、平然としている。
ウソが完全に暴かれ、衆目に晒されても、全く恥じるそぶりさえ見せず、堂々としている。それどころか、「自分は不当に非難されている被害者」「悲劇の渦中にあるヒロイン」であるかのように振る舞いさえする。
外見は魅力的で社交的。トークやプレゼンテーションも立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人はみな騙され、不幸のどん底に突き落とされる。性的に奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。
長期的なビジョンを持つことが困難なので、発言に責任を取ることができない。過去に語った内容とまるで違うことを平気で主張する。矛盾を指摘されても「断じてそんなことは言っていません」と、涼しい顔で言い張る。経歴を詐称する。
残虐な殺人や悪辣な詐欺事件をおかしたにもかかわらず、まったく反省の色を見せない。そればかりか、自己の正当性を主張する手記などを世間に公表する。
ネット上で「荒らし」行為をよくする。
愛情の細やかな人の良心をくすぐり、餌食にしていく。自己犠牲を美徳としている人ほどサイコパスに目をつけられやすい。
脳の一部の領域の活動・反応が著しく低く「不安や恐怖を感じにくい」「モラルを感じない」「痛々しい画像を見ても反応しない」などの特徴がある。
他者への共感は欠如しているが、国語の試験問題を解くかのように、相手の目から感情を読み取るのは得意である。しかし他人の恐怖や悲しみを察する能力には欠ける。
脳の構造・機能面での特徴
『扁桃体』領域が不具合を起こしているという説が主流である。また前部帯状回の活動も健常者に比べ低い[12]。
ジェームス・ファロンによる分析では、健常な人の脳と比べた場合に、前頭前皮質の「腹側システム(扁桃体・眼窩前頭皮質)および側頭葉前部)」の活動が異常に低い。一方で、前頭前皮質の「背側システム」の活動は活発なままであった[13]。
社会におけるサイコパス・影響力[編集]
統計・割合
サイコパス(※ マイルド・サイコパスも含む)は、人口に対し決して少なくない一定数(1%から数%)で存在し続けていると見積もられており「学校のクラスに一人くらい」「会社にも必ず何人もの」サイコパスがいると考えられる。一般の人々と異なるさまざまな特徴があるが、サイコパスは人を騙すことを得意としてため、それを専門家でない者が見分けることは、非常に困難である[14]。
日本にもおよそ120万人いると推定される[15][要ページ番号]。下記の様に統計的見積もりに、バラつきがあるのは、後述する「マイルド・サイコパス」を含めるか、含めないかによる相違である[16][要ページ番号]。
反社会性パーソナリティ障害の一般人口における有病率は、男性3%、女性1%ほど[17]
マーサ・スタウトによれば、アメリカでは25人に1人(約4%)とされる。東アジアの国々では、反社会性人格障害者の割合は極めて低くおよそ0.1%前後としているが、これは、アメリカよりも犯罪率が極めて低く、あくまでも定義上犯罪歴に関する項目に当てはまらない場合が多い為である[18]。
「その多くが犯罪者でなく身近にひそむ異常人格者である」という「マイルド・サイコパス」の実態は反映していない(#診断を参照)。
米国には少なくとも300万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると、ロバート・ヘアは統計的に見積っている[要出典]。J・ブレアはアメリカでは反社会性人格障害のうち4分の1がサイコパスであるとしておりその率は全体の0.25%である。[19]
マイルド・サイコパス[20]
サイコパスの症状はグレーゾーン的であり「サイコパス的な脳のつくりを持ちながら、反社会性傾向はなく、攻撃性が社会的に許容される程度(重犯罪を犯さない[21])」のサイコパス(→#原因)も存在しており、身近な日常に紛れ込んでいる可能性も高い。このような、社会的に適合・成功しているケースを「マイルド・サイコパス(または成功したサイコパス)」と呼ぶこともある。
「情動面でのサイコパスの特徴」(良心の欠如・冷淡・自己中心的など)を持ちながらも「犯罪行為」は行わない(=低い反社会性)。
前述したような「社会的成功を収めているサイコパス」は「反社会性が低い」のが特徴である[22][要ページ番号]。
マイルド・サイコパスであっても、ほぼ間違いなく何らかのハラスメント行為に及ぶと言われている。
マイルド・サイコパスの上司がいる会社の場合「部下の離職率、精神疾患の発症、モチベーションの低下」などが際立っていることも報告されており、会社によっては、その社会的損失が莫大ともなり得る[23]。
影響力
人がサイコパスに騙されやすい理由として、人間の脳には以下3つの特性があるため、もともと自身で意思決定を行わず、何かを信じ、信じたことに従っていた方が、脳に負担がかからず楽という習性がある為である[24][要ページ番号][25]。
認知的負荷(自分で判断することが負担で、それを苦痛に感じる)
公正世界誤謬(人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものである、と考える思い込みである)
認知的不協和(自身の中で矛盾する認知を同時に抱えて不快感(葛藤)をおぼえると、その矛盾を解消しようと、都合のいい理屈をつくりだす)
なぜサイコパスは魅力を有するのかという疑問のひとつの答えとして、南カリフォルニア大学における神経学的研究結果が挙げられる[26]。それによると、犯罪的な嘘つきは、通常の人と違い、脱抑制状態になることなく嘘をつけるようにできているという。
女性の心理学者が診断していた男性のサイコパスに恋して彼の逃亡を幇助したという話が知られている(『診断名サイコパス』,p.213-214)。
ロバート・ヘアは「世の中の全ての本を読んでも、サイコパスの破壊的影響力から守られるということはない。専門家も含めて、誰もが騙され、操られ、ペテンにかけられ、当惑の果てに取り残される。優秀なサイコパスは、どんな相手の心の琴線でも協奏曲を奏でることができる。」と述べている(『Without Conscience』,Ch.13 A Survival Guide, p.207)。
サイコパスと結婚した経験があり、『Just Like His Father? (父親と同じ?)』の著者でもあるリアン・リーダム精神科医は、「サイコパスと一緒に住むと、サイコパスと同じ視点で世の中を見るほどに変わりうるものなのでしょうか?」という問いに対して、「答えは確実にイエスです。それは、あなたが如何にサイコパスを知っていようとも、サイコパスと一緒に生活をする、しないに関わらず、サイコパスといかなる関係をもつときにも起こることです。」と述べている[27]。
サイコパスと職業
ケヴィン・ダットンの調査による、サイコパスの多い職業の上位10位は次のとおり[8]。
CEO
弁護士
テレビやラジオのジャーナリスト
小売業者
外科医
新聞記者
警察官
聖職者
コック
軍人
また、ヘアは、次のような職業の者に多いと推測している[28]。
金融商品関係者(金融商品仲介業者) (stock promoter)[28]
政治家[28]
警察関係者[28]
中古車営業[28]
傭兵 (mercenary)[28]
弁護士[28]
また、他にも次のような者にも多いとしている[28]。
連続殺人犯[28]
レイプ犯[28]
泥棒[28]
詐欺師[28]
暴力亭主[28]
ホワイトカラー犯罪者[28]
株の悪徳ブローカー[28]
幼児虐待者[28]
非行少年グループ[28]
資格を剥奪された弁護士や医師[28]
麻薬王[28]
プロギャンブラー[28]
犯罪組織構成員(マフィアのメンバーや暴力団員などのこと)[28]
テロリスト[28]
カルト教祖[28]
金のためならなんでもやる人たち[28]
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