最高裁判決で「差別」が拡大? 非正規差別訴訟の「争点」を考える

2020年10月27日 19時32分26秒 | 社会・文化・政治・経済

今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
10/18(日) 9:00

今週大きく報道されたように、日本郵便の契約社員たちが、手当や休暇が正社員だけに与えられているのは「不合理な格差」に当たると訴えた3つの裁判(日本郵便事件、全国三カ所で提訴されていた)で、最高裁は待遇格差を「不合理」だと認める判決を出した。

 一方で、その2日前に判決を言い渡した2つの訴訟では、原告の非正規労働者たちが逆転敗訴した(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件)。原告側は、正社員と同じ仕事なのに賞与や退職金がないのはおかしいと訴えたが、最高裁はいずれも「不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」と判断した。

 これらの判決は、今後の非正規雇用のあり方に大きな影響を与えるだろう。判決を踏まえ、今後、非正規労働者の処遇を改善するためにどのような取り組みが必要なのかを考えていきたい。

背景にある非正規雇用の変化

 改めて、多くの訴訟が提起された社会的背景を整理したい。背景には、近年の非正規雇用をめぐる二つの変化がある。

 一つは、職場における非正規労働者の位置づけの変化だ。商業・サービス業を中心に、いわゆる非正規雇用の基幹化が進み、以前は正社員が担っていたような基幹的な業務・役割を非正規労働者が担うようになっている。小売業や飲食業などでは店舗の運営の大半を非正規雇用が担っているということも少なくない。

 それにもかかわらず、正社員と非正規労働者の処遇に大きな格差があることが少なくない。原告が加盟する東京東部労組のブログによれば、メトロコマース事件の原告の1人の3年間の賃金が685万円であるのに対し、勤続年数などで同水準の正社員の賃金(退職金・賞与・諸手当含む)は1434万円である。非正規も正社員も同じ売店で同じように飲料や雑誌を販売しているというから、とても納得のできる格差ではない。

 基幹的な業務を担っているにもかかわらず、正社員との間に大きな待遇格差がある。こうしたことが認識されることによって是正を求める非正規労働者の声が高まり、法改正も後押しとなって多くの訴訟が提起されるようになった。

 二点目は、契約社員や派遣社員など、非正規雇用で自分の生活を成り立たせている者(「家計自立型非正規」)の増加だ。

 非正規雇用であっても、夫の収入が家計の中心を占める主婦パートや親に扶養されている学生アルバイトであれば、貧困になるとは限らない(とはいえ、もちろん「主婦だから」と差別が許されるものでは決してない)。しかし、「家計自立型非正規」の場合、多くが貧困状況にあると考えられる。

 10年ほど前には若者の貧困が社会問題として注目されたが、現在では、中高年層にも広く貧困が広がっている。

 正社員と同じようにフルタイムで働いているにもかかわらず、生活が苦しい。そうした状況が広がるなかで、当事者から処遇改善を求める動きが見られるようになってきたのだ。

様々な「事情」による格差は許される

 次に、日本における「同一労働同一賃金」のルールについて考えてみよう。

 「同一労働同一賃金」の原則とは、同一の労働に従事している場合には同一の賃金が支払われるべきという考え方だ。

 しかし、日本の賃金制度は「職務」の内容を基準としていない。賃金は、仕事で決まるわけではなく、その人の属性(年齢、性別、雇用形態、潜在能力、業績など)によって個別的に決定される。意欲や態度といった曖昧なものまでが評価の対象となり、「会社への貢献度」が賃金に反映される。

 そこで、日本における「同一労働同一賃金」は、こうした属人的な要素を加味した上で適用されるようになった。職務の内容だけでなく、人事異動の範囲や会社の経営判断をはじめ、様々な「事情」を加味した上で、待遇の格差が不合理であるか否か(どこまでの格差が許されるか)が問われる。それゆえ、本来の「同一労働同一賃金」の原則からは大きくかけ離れている。

 正社員と非正規労働者の間で、こうした広い意味での「事情」が同じということは通常ありえない。そのため、このようなルールで実効的に格差を是正できるのかは、当初から専門家の間では疑問視されていた。

心配は現実のものとなってしまった

 そして、このたび、最高裁は、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」目的から賞与や退職金を非正規労働者に支給しないことが不合理ではないと判断した(いわゆる「有為人材確保論」)。「仕事」ではなく、極めて属人的な「事情」を理由に格差を容認したわけである。

 仕事の内容や実際の配置転換など、「客観的な実態」だけでなく、有能な人材に定着して欲しいなど、企業側の「主観的な意図」までも格差を正当化する「事情」になるとすれば、あらゆる格差が許容されてしまうだろう。

(そもそも、有能人材を残したいのであれば、他社よりも高い水準の賃金にすべきであって、社内の非正規と格差をつける必要はない。「有為人材論」は理屈の上でも破綻していると言わざるを得ず、裁判所の判断には強い疑問が残ることを付言しておきたい)。

 また、仮にこの論理を認めるにしても、賞与・退職金を一切支給しなくてもよいという判断は、予想される中でも最悪の結果だった。労働契約法20条の趣旨は、賃金の性質やさまざまな「事情」を考慮することで、一定の格差は認めるにしても、「大きすぎる格差」を是正するところにあるからだ。

 政府が示す指針においても、下のように、この点を明確に求めている。

賞与 賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献 に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。 また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。
厚生労働省告示第 430 号

 個別事例での判断とはいえ、今回のようなケースでまったく是正措置が執られないならば、今後、ほとんどのケースで是正は必要ないということになりかねない。

判決の影響

 とはいえ、日本郵便の判決で見られたように、これまで明確な根拠がなく正社員にだけ支給されていたような個別の手当については、今後、その中身の精査が進み、一定の改善につながるだろう。

 それはそれで非正規差別の是正への「一歩前進」ではある。

 しかし、裁判所が賞与や退職金といった中核的労働条件の不合理性の認定に消極的な姿勢を示したため、当面、大幅な格差の是正は見込めない。判決の結果、様々な「事情」によって格差を許容する日本版「同一労働同一賃金」の限界が浮き彫りになってしまったのではないだろうか。

 そして、今回の判決を受けて、各種手当てについては改善が進む一方で、すでに賞与・退職金を非正規に部分的に支給している企業や、あるいは今後の支給を検討していた企業では、かえって格差是正の動きを逆行させることにもなりかねない。

 「負の影響」が非常に大きいことが懸念される。

「同一労働同一賃金」を実現するために

 以上を踏まえると、本当の意味で格差を是正するためには、「仕事」が基準の賃金制度を実現しなければならない。あるいは、少なくとも「仕事」の比重を賃金決定のうえで大きくすることは必須である。

 欧米では、企業を超えて組織された労働組合と業界団体との交渉により、産業や職業ごとに賃金が決定されている。「ある仕事のこの程度のスキルであれば、このくらいの賃金」というのが企業横断的に設定されているのだ。

 「仕事」という共通の基準を設けることにより、労働者間の競争によって賃金が下落するのを抑止するとともに雇用形態を超えた同一労働同一賃金を実現している。

 日本で深刻な格差が生じてしまうのは、このような共通の基準がないためだ。特に、正社員と非正規労働者では「賃金決定の論理」が異なるため、大きな格差が生じてしまう。賃金決定のシステムに共通の基準がなく、差別が可能になってしまうことが問題の根本にある。

 日本版「同一労働同一賃金」は、こうした賃金決定の論理が内包する差別をそのままに、格差を是正しようとするものであり、限界がある。賃金制度を改変しない限り、本当の意味で非正規労働者の処遇改善が進むことはないだろう。

権利主張することの意義

 最後に、こうしたなかで、非正規労働者の方々がどのように格差の是正を目指すことができるかを考えたい。

 賞与や退職金については非正規労働者にとって厳しい判決となり、原告の方たちにとっては残念な結果になったが、それでもこの訴訟がもたらした社会的な意義は大きい。というのは、最高裁が、非正規労働者に賞与や退職金を支払わないことが不合理な格差に当たる場合があると初めて言及したからだ。

 すでにこの判決はメディアで大きく取り上げられ、議論を呼び起こしている。非正規労働者に賞与や退職金が支払われないのが当たり前であったのが、当たり前ではなくなる。このことがもたらす影響ははかり知れない。

 判決を受けて、多くの企業で賃金制度の見直しが進むであろうし、格差に疑問を感じている契約社員やパート、アルバイトの方々が声を上げるきっかけにもなるだろう。

 このように、新しい判例の形成は、その瞬間、全ての労働契約の意味を変える。日本郵便の判決は、雇用形態によって扶養手当などに格差を設けることが違法になり得るという新しいルールを生み出した。

 「何が違法であるか」は、社会の変化や人々の認識の変化によっても影響を受け、そのつど「線引き」がなされる。こうした「線引き」は裁判を通じて争われ決まっていく。そうした闘いの積み重ねによって、社会の新しいルールが形成され、「正しさ」が形づくられていく。

 一連の訴訟は、私たちの社会が非正規労働者の処遇をめぐる「正しさ」を決めていく上で大きな意義のあるものであり、こうした闘いが繰り返されることによって、将来、賞与や退職金の支給に関しても新しいルールが生み出される可能性は高いのである。

団体交渉は法律を超える

 同時に、待遇格差を是正する方法は裁判だけではない点にも注目して欲しい。むしろ、裁判は例外的な方法であり、通常、労働条件の向上は労働組合による団体交渉によって図られる。とりわけ、裁判所が積極的な判断をしない状況において、本記事で問題にした「賃金決定の論理」に非正規労働者が介入していくためには団体交渉が重要な手段になる。

 上に述べたように、現在では、非正規労働者が中心を占める職場も少なくない。それは、職場において非正規労働者が強い交渉力を持つということでもある。労働組合があれば合法的にストライキを行うことができるため、強い交渉力を背景に、会社に対して待遇格差の是正を求めることができる。

 法律や権利を活用し、非正規労働者の処遇改善を図る当事者や労働組合の取り組みが待遇格差を是正する上で極めて重要になっていくだろう。

無料労働相談窓口
NPO法人POSSE 
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。非正規雇用労働者の差別解消問題に取り組んでいます。

総合サポートユニオン 
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。非正規雇用労働者の労使交渉に積極的に対応しています。

仙台けやきユニオン 
022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)
sendai@sougou-u.jp
*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 
03-3288-0112
*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

 
今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
NPO法人「POSSE」代表。年間3000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。著書に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」、東京新聞社・「新聞を読む」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。POSSEは若者の労働問題に加え、外国人やLGBT等の人権擁護に取り組んでいる。無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp。

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厚生労働省

非正規雇用の労働者の雇用の安定と待遇の改善に向けて

非正規雇用労働者の雇用の安定や待遇の改善を図り、「頑張る人が報われる社会」の実現を目指します。

正社員転換・待遇改善実現本部

「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6月30日閣議決定)に正社員転換等を加速させていくことが盛り込まれたこと等を踏まえ、非正規雇用労働者の正社員転換・待遇改善等の雇用対策を総合的に推進するため、平成27年9月24日、厚生労働大臣を本部長とする「正社員転換・待遇改善実現本部」を設置しました。
同本部では、平成28年1月28日(木)に開催された第2回会合において、今後5か年の非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善のための様々な取組を「正社員転換・待遇改善実現プラン」として決定し、当該プランを基に、平成28年3月までに各都道府県労働局においても、各都道府県の実情に応じた非正規雇用労働者の正社員転換や待遇改善のための様々な取組を「地域プラン」として策定しています。
正社員転換・待遇改善実現本部


食糧と人類 ―飢餓を克服した大増産の文明史

2020年10月27日 19時24分36秒 | 社会・文化・政治・経済

by ルース・ドフリース (著), 小川 敏子 (翻訳)

■食料生産から見た壮大な人類史
人間は生息数を何倍にも増やし、生息分布を拡大したという意味において、生物界における極端な成功例である。何十億人もの人々のための食料生産と住宅供給は、地球を変える巨大な力になっている。
数万年前までは他の動物と同様に野生動植物の狩猟と採取にだけ頼っていた人類が、なぜ食料生産に成功し、爆発的に生息数を増やすことができたのか?
本書は、コロンビア大学教授でマッカーサー・フェローでもある著者が、人類が自然をコントロールし、食料生産を増やしていった過程を歴史的観点から描くものである。

■窒素の化学合成、リン鉱石の採掘、灌漑、動力開発、殺虫剤、遺伝子改良……
本書では品種改良で味の良い穀物だけを残すために火を使った歴史や、土地改良のために大西洋を越えて鶏糞を運んだ歴史、ハーバー・ボッシュ法の成功で窒素化合物の合成が可能になった肥料革命、殺虫剤であり農薬であるDDTによる食料増産など、人類が増殖し、栄華を極めるに至った歴史を見ていく。
人類の食料生産は、緩やかな増産ペースが続いたのちに、踊り場にさしかかって停滞し、そこからブレークスルーによって新たな増産段階に入るという3つのプロセスを繰り返している。
20世紀の急激な増産ペースは過去にない記録的なものだった。その結果、人口の激増、肉食文化の横行、都市人口の増加、食料供給の世界的な不平等といった問題が起きている。
そしていま、食料増産は踊り場に差し掛かっている。気候変動、種の絶滅、水不足……21世紀の諸問題は、過去には見られなかったものばかりだ。この難問に対して、人類はどのような創意工夫ができるのか?

内容(「BOOK」データベースより)

科学力と創意工夫で生産力を飛躍的に向上させ、度重なる食糧危機を回避し、増加してきた人類。数百万年にわたる食糧大増産の軌跡を解明し、21世紀の食糧危機を見通す壮大なドラマ。地球誕生から現代まで、試行錯誤の軌跡を追う。

著者について

ルース・ドフリース(ルース・ドフリース)
コロンビア大学教授
地理学者として、地球表面が農業やそのほかの人間の土地利用によっていかに変化してきたかを衛星写真を用いて研究。研究は高く評価されており、2006年には米国科学アカデミー会員に、2007年にはマッカーサー・フェローシップに選出(各分野で年1名だけ選出される)。セントルイスのワシントン大学を優等学位で卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学で博士号を取得。コロンビア大学では持続可能な開発を教えている。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ドフリース,ルース
コロンビア大学、経済・進化・環境生物学部(E 3B)教授。「持続可能な開発」に関する研究に携わる。ニューヨーク在住

小川/敏子
翻訳家。東京生まれ。慶應義塾大学文学部英文学科卒業。小説からノンフィクションまで幅広いジャンルで活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 
 
 
農業生産の向上の歴史について、分かりやすく一冊にまとめている。
扱っている内容は、地球の誕生に始まり、農耕の開始、肥料分の確保、品種改良、殺虫剤の登場、遺伝子組換えまでと幅広い。それぞれの出来事や発明が、その時代のどのような問題を解決したのか、そしてその反作用でどのような問題を引き起こしたのかを明快に記している。
扱っている内容は広範だが、簡潔にまとめきっており、それでいて無機質な羅列ではなく興味深いストーリーとして読める点が素晴らしい。また、近代農業の失敗を見つめつつも、その近代農業の全否定や有機農業への盲信といった論理の飛躍もなく、冷静に農業生産の未来を論じるスタンスも素晴らしかった。
農学を学ぶ学生や、食糧生産と環境問題の関連に関心のある人間に広く勧めたい一冊。
 
 
1900年には15億人だった人口が現在70億人です。一人一日の取得カロリーを単純に世界平均すると、1960年には2200キロカロリーだったものが2000年には2700キロカロリーだそうです。平等に行き渡れば、飢えはないはずですが、現在の人口の内10億人が飢えを抱えているそうです。

こうした人口増・取得カロリー増を支えたのが、肥料と品種改良による単位面積当たりの収量の増加です。肥料は、糞尿から化学合成にシフトし、品種改良も掛け合わせから遺伝子工学にシフトしつつあります。食糧の増産は、科学の発達が人類を豊かにした、最も明らかな例なのでしょう。一方、食糧の偏在の問題は、未だに人類が解決しえない問題です。アメリカでは2030年には成人の肥満率が86%以上を占めると予測されているそうです。

全般的に、小麦に偏りすぎているきらいはありますが、これ一冊で世界の食糧問題の全体像を概観できる本です。
 
 
2014年。以下に人類が人口爆発とそれに対する食糧の増産に対応してきたか。生命の誕生にまでさかのぼる。農薬問題なども、環境問題的な観点と、食糧の増産という実際的な面から論じており、わりと中立的に物事をみている。過去についてはかなり詳細に書かれていて、資料的な価値があるが、将来については多くは述べられていない。それぐらい将来の予測は難しいのだろうと思う。表紙が棚田の写真でオシャレ。
 
 
今日の世界の巨大人口を支えているのは、それをまかなう食糧の大量生産である。しかし、それは簡単に実現できた物ではない。歴史時代の大半で飢餓の問題は重要であり続けた。食糧問題のネックを解決すれば、解決策自体が新たな問題をもたらし、それをさらに解決すると言う段階をへて現在の安定した食糧生産は実現できた。

狩猟から定住農耕生活への転換は、維持できる人口を多大に増やしたが、デンプンでカロリーをまかなうことにより、むしろ人々の体格は低下した。その転換はメソポタミアや中国で同時に約1万1700年前から始まったが、その時期は氷河期の終わりと安定した温暖な気候の始まりと重なっているのは偶然ではない。植物生産にはリンと窒素が必須だが、その土壌における量は足りなかった。そのため、まだ規模の小さかった都市からの排泄物を農村に戻しリンと窒素を農村に循環させていた。しかし、都市が巨大化し、公衆衛生の観点から下水道によりその循環が絶たれた時、問題が発生した。運良く鳥の糞の堆積物グアノが新大陸から手に入った事で、問題は解決した。グアノは窒素とリンに富む。グアノが枯渇してくると、人類は科学により空中の窒素を固定するハーバー・ボッシュ法を開発し窒素の問題を解決した。リンはリン鉱石から化学的に得ることで解決した。これらの製法に必要なエネルギー供給問題は石炭・石油が解決した。古代の太陽エネルギーを現在利用している訳だ。しかし、リンや窒素を土壌に肥料として撒くことで、富栄養化という害を自然環境にもたらしてしまった。

さらに、遺伝学の進歩で栽培植物の品種改良が飛躍的に進み、機械化や灌漑の進展で途上国でも食糧大増産が可能になった。しかし同時に単一種を同じ場所で栽培することで病害虫の脅威に直面する。この問題は、DTTの殺虫剤としての利用で当初は解決できたかに見えた。しかし、ここでも問題が発生した、環境汚染と耐性発現の問題である。この問題は、環境を汚染し難い薬剤開発や新たな物質の開発でやり過ごしつつある。

食糧大増産で人口が維持できるようになったのだが、今は飢餓人口よりも肥満人口が多いくらいになってしまった。肥満は糖尿病などの病気を将来招き寄せてしまう。もうひとつの問題は、現在の農業システムが持続可能であるかどうかだ。都市が拡大している中で大量のエネルギーを使い、農地を拡大して行くと品種改良の元になる知られざる野生種も絶滅してしまうだろう。また、人類の活動による気候変動のリスクも憂慮されている。今が再び訪れた転換の時代で、それが解決できるかどうかは未定なのだ。

リンや窒素の地球化学的循環を説明し、その過程に人類が介入することで農業を維持している、さらにその全てにエネルギーが必要であるという視点を一貫して持つことで、現在の食糧生産に関する状況を理解することができることに気づかされた。
 
 
 

平和の文化という概念

2020年10月27日 19時16分49秒 | 社会・文化・政治・経済

家、地域、学校、職場・・・すべてのところで平和を!

私たちは、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならないというユネスコ憲章の理念を、全国、いや、地球上に普及していくため、NGO組織として2012.3.26に発足しました。まだまだ、会員もほとんどいない小さな小さな組織ですが、NPO法人化を目指しています。
UNESCO憲章
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」「政府の政治的及び経済的取極のみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない」

平和の文化……って?
 差別や偏見、貧困、家庭・職場・教育現場などでの暴力、あるいは環境破壊――私たちの周りにはどれだけの「暴力」がうごめき、社会の「構造」に潜んでいるのでしょう……。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」――ユネスコ憲章の理念が掲げる「平和」は、「戦争のない状態」だけではなく、そんな「構造的な暴力」のない世の中をめざしています。
ユネスコ(国連教育・科学・文化機関)は、1946年に誕生しました。
20世紀の2度の世界大戦を省み、「人類はもうこれ以上、戦争をしない」という堅い決意からでした。
1980~’90年代、単に「戦争がない状態」の「平和」のみでなく、「さまざまな構造的暴力」を否定する「平和の文化」が探求されました。’97年の国連総会で「平和の文化の宣言」が採択され、2000年は「平和の文化国際年」、2001~’10年は「平和の文化と教育のための国連の10年」でした。
「平和の文化」は、ユネスコ憲章の「平和の思想」の今日的な表現です。「人間が求める身近な平和、安心・安全」を、考え方の慣習、「文化」にしようということです。人類が探究してきた平和に別の理念を掲げているのではないのです。「平和の文化」に、一定の行動様式やモデルがあるわけでもありません。一人ひとりの行動、考えは多様です。だからこそ、個々人が「平和」と考える思いを、分かち合いたいと思います。
私たち「平和の文化東京ユネスコクラブ」は、ユネスコ憲章の理念のもと、「平和の文化」の輪を広げていこう、と創設されました。一人ひとりの「平和」は、「人の尊厳を尊ぶ」社会の根っこです。「人権の世紀」といわれる21世紀を、「平和の文化」あふれる社会にしたい……そう願っています。


文字・活字文化の日(10月27日 記念日)

2020年10月27日 19時04分04秒 | 社会・文化・政治・経済

2020年10月27日 公明新聞

【主張】文字・活字文化の日 本と“会話”し希望見いだす糧に

きょう10月27日は「文字・活字文化の日」。11月9日まで続く「読書週間」の初日である。

「ラストページまで駆け抜けて」との今年の標語の通り、最後まで心をつかんで離さない1冊に出合うことは、読書の魅力の一つだ。

読書は人生を豊かにする。ネット上の断片的な情報を拾うだけでは得にくい想像力や思考力を高めてくれる。とりわけコロナ禍という未曽有の困難の渦中にあって、読書の意義を改めて確認することは重要だ。

興味深いデータがある。近年は出版物の販売が低迷していたが、今年は本を手に取る人が増えているのだ。

日本出版販売株式会社の調査によると、9月期の出版物の店頭売上は2008年の集計開始以来、初めて5カ月連続で前年を超えた。特に、文芸書やビジネス書、児童書などの売れ行きが堅調だ。

大型書店が営業を自粛していた春ごろは、テレワークで働く人が自宅近くの小規模店で哲学書などを買い求める光景も見られたという。

危機を乗り越える知恵を書物に求めている人もいるのではないか。

ICT(情報通信技術)の発達により、スマートフォンやタブレット端末などで電子書籍を読む人が増えていることにも注目したい。

電子書籍の売り上げが伸びているのに加え、電子書籍を貸し出す「電子図書館」を持つ自治体数と電子図書の貸出件数が、共に急増している。活字離れが指摘される中で歓迎すべき動きである。

「良き書物を読むことは、過去の最も優れた人々と会話を交わすようなものである」とは、フランスの哲学者、デカルトの箴言である。

人と直接会って会話することが制約される今ではなおのこと、本との“会話”は歴史に学び、未来に希望を見いだす糧となろう。

読書週間は、敗戦の影響が色濃く残る1947年に「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもとに始まったとされる。

一人一人がコロナ禍を克服し、わが国が新しい時代を開いていく上で、読書が果たす役割が大きいことを重ねて強調しておきたい。

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2005年(平成17年)7月に成立した「文字・活字文化振興法」により制定。

2005年7月に議員立法として、文字・活字文化振興法が施行された。

この法律は、日本における文字・活字文化の振興に関する施策の推進を図り、知的で心豊かな国民生活及び活力のある社会の実現に寄与することを目的としている。
この文字・活字文化振興法の第十一条により10月27日を「文字・活字文化の日」とすることが定められた。なお、10月27日は読書週間(11月3日の文化の日を中心とした2週間)の最初の日でもある。
この期間、さまざまなイベントが、図書館や出版社、書店などで開催される。

日付は「読書週間」(10月27日~11月9日)の一日目の日にちなむ。文字・活字文化が人類の知識および知恵の継承や、豊かな人間性の涵養(かんよう:水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てること)、健全な民主主義の発達に欠くことができないものであり、国民の間に広く文字・活字文化についての関心と理解を深めることが目的。

また、知的で心豊かな国民生活の実現に寄与する日として、出版活動への支援などが行われる。

 

文部科学省は、「文字・活字文化振興法」の制定を受けて、図書館の充実・読書活動の推進・学校図書館の充実等の施策の一層の推進などの「文字・活字文化」の普及・啓発に取り組んでいくとしている。


コロナ禍 如何にリスクと向き合うか

2020年10月27日 18時56分11秒 | 伝えたい言葉・受けとめる力

▽コロナ禍では、人と人とのつながりが、ますます重要になる。
多く人が目に見えないストレスを抱えている。
だからこそ、そっと寄り添い、じっくり耳を傾けことが大切だ。
▽経済的な悪影響は、健康格差にも影響を及ぼすだろう。
コロナ禍の長期化によって、さらに、その格差を広げてしまう恐れがある。
中でも、社会的弱い立場に置かれている人ほど、経済的なリスクが高まる。
そして経済的なリスクは、社会的孤立のリスクを高める。
▽そこで、<何が課題の本質なのか>
<価値とはなにか>
<生きる意味とは何か>
という議論が必要だ。
▽コロナ禍の長期化は、感染リスクだけでなく、あらゆるリスクを浮き彫りにしている。
私たちが充実した日々を送るためにも、今後は「リスクとの向き合い方」が重要だ。


知的障害の長女に「しばけ」「殴れ」 【上】3歳児を死なせた8人家族に起きたこと

2020年10月27日 18時38分55秒 | 事件・事故

10/27(火) 11:02配信

47NEWS

8人家族が住んでいた住宅前に置かれた2台の自転車=大阪市平野区、9月下旬撮影

 幼児4人を含む子ども6人と両親の8人家族。41歳の母親のほか、23歳の長女と1歳下の長男には知的障害があった。長男は問題行動で近隣トラブルが絶えない。母親と長女は、いつも2台の自転車で幼児らを連れてふらっと外出する。誰もが気になっていた家族にある朝、異変が起きた。三男(3)が腹痛を訴えて救急車で搬送され、そのまま亡くなったのだ。家の中は散らかり放題で、ごみ屋敷だった。家庭内で何が起きていたのか。捜査に乗り出した警察は3日後、長女を殺人容疑で逮捕した。(共同通信=真下周、斉藤彩)

 ▽3人が知的障害

 「どないしたん!」。2019年4月2日昼ごろ、大阪市平野区内の一軒家で事件は起きた。近所に住む高齢女性は、玄関先で顔色を無くしてぐったりした三男を抱き、ぼうぜんと突っ立っている長女の金城ゆり被告に気付いて声を掛けた。ゆり被告は「腹が痛いって泣いてるねん。救急車を呼んでもなかなかこーへん」と答えた。自宅内からは「はよして!」と母親らしき人物が切羽詰まった様子で、どこかに電話をかける声が響いていた。


(写真:47NEWS)

 三男の雷斗ちゃんは、腹を強く圧迫されたことによる内臓破裂が原因の失血死だった。大阪府警捜査1課の幹部は、報道各社の担当記者に「司法解剖の結果は他殺だけど、あそこの家庭は複雑。父親以外の成人は知的障害があり、そういう人たちから(予断を与えない状況で)よく話を聞かないといけないので、報道をしばらく控えてほしい」と願い出た。事件当時、仕事で不在だった父親を除く母親、ゆり被告、そして長男の3人に疑いがかけられたが、いずれも知的障害があった。

 公判で明らかになったゆり被告の捜査段階の供述調書によると、雷斗ちゃんが亡くなったと知らされた時「自分が腹を踏んだせいで亡くなったと思ったが、両親から怒られると思い、事実を誰にも言えなかった」。2日後に警察官から「うそ発見器をやる」と言われて「もう隠してもばれると思い、話を聞いてくれる警察官もやさしそうだったので『この人なら大丈夫』という気持ちで全て本当のことを話した」という。

逮捕時に容疑者の言い分を尋ねる「弁解録取」では「風呂場のところであおむけのライコ(雷斗ちゃんの普段の呼び名)の腹の上に片足で乗り、その後両足で乗った。死んでしまうとは思わなかった。やりすぎた」と述べている。長女が逮捕される事態に、近隣住民らは「子供の面倒もよう見てたからなあ。あんなことするとは思わへんかった」と驚きを隠せなかった。

 事件当時の状況は次のようだった。朝起きていつも世話を任されている雷斗ちゃんを着替えさせ、抱いて2階に下りると、次女(5)から「こっち」と言われて風呂場に移動した。次女がおもむろに雷斗ちゃんの胸を押して倒した。その上に体重58キロのゆり被告が乗った。「気持ちに任せてずっと」踏み続けている間、雷斗ちゃんは口を閉じて泣いていたという。次女はその様子を見て笑っていた。

 ゆり被告は「普段からおかんにライコの面倒を見させられ嫌気が差していた。3日前から腹を踏んだりしていた。ライコには、泣いたらうるさいから口をつぐむように言っていた」と当時の心情を打ち明けた。雷斗ちゃんはこの出来事の後、しばらくしてぐったりした状態になったという。母親の指示で、ゆり被告がジュースや風邪薬を飲ませるなどしたが、吐いて受け付けなかった。その後、手がだらんと垂れ下がり、目はずっと天井を見ながら「あーあー」と苦しそうな声を出していた。


ゆり被告が書いた手紙

 ▽母への怒りがうっせき 

 捜査当局はゆり被告の当時の精神状態を調べた。精神鑑定の結果、刑事責任能力は問えるとしたが殺意は認められなかったとして、殺人罪ではなく傷害致死罪で起訴した。鑑定をした医師によると、心理検査の結果、ゆり被告の知的程度はIQ50だった。一般的にIQ50~69は、軽度の知的障害とされる。本人が検査に集中していなかったため、本来はもう少し高い数値が出た可能性があるという。

 文章をつづることが好きで、文字は丁寧で内容もまとまっているが、口頭で質問された時に内容を頭の中で整理して考えることは苦手、とした。被告人質問ではこうした弱みに配慮し、主任弁護人の荒木晋之介弁護士は少しでも緊張を解くため、できるだけ近くに座って友達に語り掛けるようなスタイルでゆっくり質問していった。

 「被告は双子が生まれるまでは子どもの世話をせずに済み、比較的自由に過ごしていた。生活が一変してからは朝から晩まで弟の世話を押しつけられ、母親への怒りがうっせきし、追い詰められていた。家から出たい気持ちがあったが、(障害ゆえに)具体的手段を考えることはできず、怒りが幼い弟に向いた」。鑑定医は事件の動機をこう解説した。

 鑑定医によると、知能レベルが低い場合でも、親や周囲の人が模範的であれば、情緒面や社会的な部分も時間をかけて成熟していけるが、この家では逆に暴力が肯定されており、ゆり被告は未熟なまま。母親からは、言うことを聞かない弟らの見張り役を命じられ、「しばけ」「殴れ」と指示されるなど、行動を思いとどまる能力は著しく損なわれていた。

 また、ゆり被告がこの生活から逃げ出せなかった理由の一つに、幼少期に受けた父親からの身体的虐待の影響も指摘された。母親には心理的に支配されていた。経済的にも逃げ出せない状況だった。自分の通帳に振り込まれる2カ月で約13万円の障害年金は、すべて母親に管理されていた。「おかんに逆らうとお金がもらえない。何も買ってもらえない。だから何も言えなかった」と供述した。長きにわたる虐待―被虐待の関係性を自力で打ち破ることは難しく、頼りにできる第三者の存在もなかった。

 公判でゆり被告は、犯行の場面や当時の気持ちについて「分からん」「覚えてない」を連発し、関係者を当惑させている。こうした姿勢は一見、罪に向き合えていないように受け取られやすい。鑑定医は「本人にとってつらい経験だった。前後のことを心理的に忘れたいというのが無意識に働く。記憶の痕跡が残っていないわけではなく、もやもやしている。出来事の保存メモリーにロックがかかっている可能性がある」と解説した。

 「ライコに朝と夜、『ごめんなさい』と手を合わせてるよ。ごめんな、って」と公判で話したゆり被告。支援者によると、後悔で寝られなかったり、拘置所の中で泣いたりしたこともあったようだ。鑑定医は「とりかえしのつかないことをした罪悪感は持ち合わせているものの、23歳の人の説明ではない」と指摘する。「ゆりが(ライコを)ふんじゃった。あんなこと起きなきゃよかった」と語り、かわいがっていた亡き犬に対するのと同じように手を合わせる。弟の死を自分が招いたことへの受け止めとしては深みがなく、鑑定医は「小学生ぐらいの女の子が『自分の大切なものをなくした』というレベル」と表現した。

 ▽拘置所の生活は「100点満点」

 大阪地裁は9月18日、ゆり被告に懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。検察側は「動機は幼い弟への八つ当たりで、責められるべきだ」と主張。一方の弁護側は、ストレスがたまった衝動的な犯行で、家庭環境の過酷さも考慮されるべきだとして執行猶予付きの判決を求めた。

ゆり被告は特に表情を変えず、うつむいて判決内容を聞いていた。長瀬敬昭裁判長は、被告が暴力に肯定的な家庭に育ち、母親から家事や育児を押しつけられ不満を募らせていたと認定。知的障害の影響で劣悪な家庭環境から自力で逃れることができなかった、と鑑定医の見立てどおりの見解を示した。

 そして当時60キロ近い体重のゆり被告が幼い弟を踏み付ける行為は、両者の体格差を考慮すれば危険であると指摘し、知的障害により被告の発達年齢が9~10歳程度で「危険性を十分に認識していたとは認められない」とした。子どもが命を落とし実刑でもおかしくない事案だったが、こうした事情が考慮され、傷害致死罪の同種事件でも軽い部類に属する、と導いた。

 執行猶予の背景として、手厚い支援体制が約束されていたことも大きい。ゆり被告は事件後、一貫して両親を拒絶する意思を明確にし、公判でも「二度と会いたくない」と繰り返した。両親の支配から逃れ自立した生活をサポートするため、女性弁護士が金銭管理や生活の困りごとに寄り添う成年後見人として付いた。「ゆりの近くにしんらいできる人ができました。一緒に居てると心強くて安心できます。顔をみると元気がでます。こんな人ははじめてです。大好きです。今までゆりのみかたは犬だけでしたが、強いみかたができました」と、後見人が付いた喜びを手紙につづった。

 ゆり被告は法廷などで、事件後の拘束された生活を「100点満点」と表現し、関係者を驚かせている。拘置所の生活を「楽しいよ?言ったら怒られるかもしれないけど、楽しむ場所じゃないけど、他の人とおしゃべりできる。3食、おやつも好きなときに食べられる」と無邪気に説明したが、裁判員の一人は公判後に、この件を最も印象的だった場面に挙げ、「どんな家庭環境で育ったか、少し分かった気がした」と語った。

 周囲が「元々おとなしくて優しい性格」と口をそろえるゆり被告。鑑定医は「家庭環境が良ければ事件が起きる可能性は極めて低かった」と断言した。社会復帰する被告に必要な支援を連ねた「更生支援計画書」を手がけた地域生活定着支援センターの男性担当者も「特殊な環境での特殊な事件。もともと犯罪傾向が全くない人で、支援にも拒否的にならず、素直に受け入れる関係をつくることができる」と、再犯リスクが大きくないことを説明。刑務作業のような刑罰を科さなくても社会復帰できる、と太鼓判を押した。

 世話人の下で数人の障害ある女性らが共同生活するグループホームへの入居手続きも進められた。グループホームに移ったら何がしたいか、被告人質問で聞かれたゆり被告。雷斗ちゃんに「毎日手を合わせて、お供え物もしたい」と話した後、「ゆりのために、自分のために何かしたい。犬を飼いたい。朝ご飯食べたい。あと仕事したい」と、次々と普通の暮らしへの憧れを挙げていった。動物が大好きで、ペット関係の仕事に就きたいという思いを抱いていた。裁判員らは判決後、「新しい環境でがんばってほしい」とエールを送った。

 続編【中】では、ゆり被告が置かれていた過酷な日常をつぶさに追う。

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47NEWS

茨城の住宅で親子切りつけ父死亡 自称従業員を緊急逮捕

2020年10月27日 18時36分04秒 | 事件・事故

10/27(火) 11:37配信

朝日新聞デジタル

事件のあった根本さん宅では鑑識作業が続けられていた=2020年10月27日午後0時14分、茨城県常陸太田市町屋町、佐々木凌撮影

 27日午前8時前、茨城県常陸太田市町屋町の根本昇さん(89)宅から「男に切りつけられた」と消防に通報があった。昇さんと息子の邦雄さん(59)に刃物で切りつけられた複数の傷があり、昇さんの死亡が確認された。

【写真】現場地図

 県警太田署は、根本さんの会社の従業員を名乗り、「自分がやった」と出頭してきた会社員、関根幸司容疑者(48)=同県日立市大みか町1丁目=を邦雄さんに対する殺人未遂容疑で緊急逮捕し、発表した。

 署によると、関根容疑者は、同日午前7時40分ごろ、工具で邦雄さんの頭を殴り、包丁で背中を切りつけて重傷を負わせた疑いがある。邦雄さんは搬送時は意識があったという。隣家の住民女性によると、事件の発生直後、邦雄さんが血だらけで助けを求めに来た。背中を数カ所切られていたといい、「職場の従業員にやられた」と話していたという。

 現場は市中心部にある市役所から約8キロ北に位置する山あいの農村地帯。根本さん方は集落から少し離れた道路沿いにある。

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NHK、総務省提案の受信料義務化に慎重姿勢 「支払いは視聴者理解のもと」

2020年10月27日 18時33分18秒 | 社会・文化・政治・経済

10/21(水) 19:27配信

毎日新聞

NHK放送センター=東京都渋谷区

 NHKの正籬(まさがき)聡・放送総局長(兼副会長)は21日の定例記者会見で、総務省が有識者会議に対し、テレビ所有者のNHK受信料の支払いを法律で義務化することの検討を求めたことについて、「NHKから要望したものではない。受信料は、視聴者の納得や理解のもとで支払われるべきものだ」と述べ、義務化に慎重姿勢を示した。

【図説】受信契約の成立時期と支払期間

 現行制度は、受信契約や支払いはテレビ所有者の同意の上で行われることを基本にしており、正籬氏は「視聴者との契約というやり取りの中で、NHKが自らの役割や受信料制度の意味を丁寧に説明し、関係を構築するプロセスが重要」と語った。

 一方、同会議でNHK側が求めたテレビを設置した場合の届け出義務化と、未契約者の居住情報を公益事業者などに照会できるようにする法改正については「営業経費での多額の人件費を大幅に削減することが可能になる」と理解を求めた。【大沢瑞季】

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ネット中傷、裁判手続きを創設へ 総務省が骨子案、被害者負担軽く

2020年10月27日 18時28分36秒 | 事件・事故

10/26(月) 18:41配信

共同通信
 総務省は26日、インターネット上で誹謗中傷を受けた被害者の救済策を議論する有識者会議を開き、年内の最終とりまとめに向けた骨子案を提示した。悪質な投稿をした加害者を迅速に特定するため新たな裁判手続きを創設し、現在の情報開示訴訟より被害者の負担を軽くする。加害者が会員制交流サイト(SNS)にログインした際の通信記録を開示対象に含めることも盛り込んだ。

 この日の会議では、新たな裁判手続きを設ける方針について大筋で了承された。今後、制度の詳細を詰め、悪質化している中傷の抑止を図る。

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ヘルマン・ヘッセの言葉

2020年10月27日 17時59分28秒 | 伝えたい言葉・受けとめる力

ヘルマン・ヘッセの名言には「しがみつくことで強くなれると考える者もいる。しかし時には手放すことで強くなれるのだ」、「ものごとは口に出した瞬間、少し違ったものになる」などがあります。


代表作は『車輪の下』『デミアン』『荒野のおおかみ』など。ノーベル文学賞を受賞したヘルマン・ヘッセ(1877~1962)の言葉を紹介する。

人生の義務はただひとつしかない。
それは幸福になることだ。


君自身であれ!
そうすれば世界は豊かで美しい!

恋とは私たちを幸せにするためにあるのではありません。
恋は私達が苦悩と忍従の中で、どれほど強くありえるか、ということを自分に示すためにあるものです。

人生が生きるに値するということこそ、すべての芸術の究極の内容であり、慰めである。

学問とは相違を発見することに没頭することにほかならない。
学問とは識別の術である。

詩は音楽にならなかった言葉であり、音楽は言葉にならなかった詩である。

自ら考えたり責任を取れない人間は、指導者を必要とし、それを強く要求するものだ。
 

はかなさがなければ、美しいものはない。
美と死、歓喜と無常とは、互いに求め合い、制約し合っている。

地上には多くの道がある。
けれど、最後の一歩は自分一人で歩かねばならない。

おそらくすべての芸術の根本は、そしてまたおそらくすべての精神の根本は、死滅に対する恐怖だ。

君がどんなに遠い夢を見ても、君自身が可能性を信じる限り、それは手の届くところにある。
 
書物そのものは、君に幸福をもたらすわけではない。
ただ書物は、君が君自身の中へ帰るのを助けてくれる。

 

 

 


ヘルマン・ヘッセの生涯

1877年7月2日、ドイツ南部のヴュルテンベルク王国のカルフに生まれる。

父はスイスの宣教師であり、ヘルマンは4人兄弟の2人目の子どもであった。

ヘルマンは14歳のときに難関とされる試験に合格し、マウルブロン神学校に入学。

しかし、半年で学校から脱走。ヘルマンは悪魔払いを受けるが効果はなく、自殺未遂を図ったため神経科病院に入院した。

退院後ヘルマンは中等教育機関のギムナジウムに入学するも退学。本屋の見習い店員となるが3日で脱走した。これらの経験は『車輪の下』の原体験になったといわれる。

その後、ヘッセはさまざまな職に就きながら作品を発表。

1904年、ヘッセは27歳のときに結婚。3人の子どもをもうける。

1912年にスイスのベルンに移る。第一次世界大戦中(1914~1918)にはドイツの捕虜救援機関やベルンにあるドイツ人捕虜救援局で働く。

1919年、42歳のヘッセは『デミアン』を執筆。この頃、ヘッセは第一次世界大戦の影響などで精神的危機を経験。ヘッセの深い精神世界を描いた作品が『デミアン』であった。

それ以降の作品には、現代文明への強烈な批判と洞察、精神的な問題点などが描かれ、ヘッセはドイツ文学を代表する作家となった。

1924年、47歳のヘッセはスイスに帰化。

ドイツにナチス政権が誕生すると平和主義を唱えていたヘッセの作品はドイツ国内で紙の割り当てを禁止される。

1946年、69歳のヘッセはノーベル文学賞とゲーテ賞を受賞。

1962年8月9日、ヘッセは43年間を過ごしたスイス・モンタニョーラの自宅で死去。85年の生涯を閉じた。


《高崎・不倫トラブル刺殺事件》被害女性の露骨なSNSでの“匂わせ”と意外な素顔

2020年10月27日 17時30分35秒 | 事件・事故

10/27(火) 11:01配信

週刊女性PRIME

マスク姿で訴えかけるような目の佳那子さん(本人のインスタグラムより)

「もう去年からわかっていました。ずっと、そういう(不倫)話はしていて、向こうとここまでのトラブルになっていると思わず……」(テレビ局の取材に対して)

【写真】インスタでは物憂げな表情、フェイスブックではピースサインで笑顔の大沢さん

 自殺した容疑者(36)の妻は、殺害された女性との不貞関係を知っていたという──。

愛想もよく優しいイケメンだったと評判
 10月18日夜、群馬県高崎市で刺殺されたのは、新潟市に住む大沢佳那子さん(享年30)だ。

 容疑者のSは殺害後に現場を逃走し、1度自宅に戻ったが、すぐに外出。その後、千葉市内にあるホテルで自殺した。

「被害者の胸には刃物による傷が7つあり、2つが心臓を貫通していた」(捜査関係者)

 深い怨恨(えんこん)の感じられる犯行だが、2人は会社の同僚という間柄。Sには妻がおり、不倫関係だった。不貞のあげく、不倫相手を殺し自殺した身勝手なSの素顔とは。

 Sの自宅は千葉県松戸市の新興住宅街にある築3年、2階建ての一戸建て賃貸で、妻、2人の子どもと暮らしていた。

 Sの近所での評判は悪くなかったようで、

「旦那さんは背が高くほっそりしたイケメンです。愛想もよく優しい人」(近所の住民)

 子どもはまだ幼く、

「上が小学校1年生くらいの男の子で、下が1歳くらいの女の子。上の子は明るく元気で、縄跳びをしていると、“できる?”と話しかけてきて、愛嬌があって。顔立ちもお父さんと瓜二つ」(別の近所の住民)

《#墓場まで持っていく》と投稿
 一方、佳那子さんは生前、SNSで男性の影をチラつかせる“匂わせ”投稿を何度も行っていた。

 インスタグラムを見ると、

《大好きなイケメンさんとデート》という文言のあと《#いつまで続くかな》《#墓場まで持っていく》というタグが添えられており(2018年4月)不倫を想起させる。

 その後、《最近ある方とバッサリ縁を私から切りました!モヤモヤしてたことがこれでスッキリしました!》(2019年10月)と報告し、複雑な交際だったことがうかがえる。

 ほかに写真の隅に男性を少しだけ写して一緒にいることをほのめかす投稿も目立った。

 それらの男性はSを指すのか、別人なのかは不明……。

 新潟市内にある佳那子さんの実家周辺で取材をすると、SNSとは違った意外な「素顔」も見えてきた。

「大沢さんのお宅は3人暮らしで佳那子さんはひとり娘。お父さんは仕事のかたわら少林寺拳法の師範もしていて、奥さんと佳那子さんも一緒に習っていた格闘家一家なんですよ」(近所の住民)

 中学に入ってからは吹奏楽部に所属していた佳那子さんだが、幼いころは格闘家の父親のもとで鍛錬したようだ。

 少林寺拳法では敵の攻撃を防ぎ、戦意を喪失させる護身術が得られるという。

 しかし父親仕込みの“技”でも、別れ話などに激高していたのか、Sの狂気から身を守ることはできなかった。

 本誌が取材したのは通夜当日で、やつれた顔で葬儀会社とやりとりする父親の姿が。

 道ならぬ恋で若いひとり娘を失ってしまった実家の両親はさぞかし無念だろう。

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都の重症者数は4人増え33人 新規の感染確認は158人

2020年10月27日 17時28分53秒 | 社会・文化・政治・経済

10/27(火) 15:02配信

ABEMA TIMES

都の重症者数は4人増え33人 新規の感染確認は158人

 東京都によると、27日に都が確認した新型コロナウイルスの感染者は158人だった。8日連続で100人を上回った。

【映像】麻生大臣“10万円給付”効果を疑問視

 感染が確認されたのは10歳未満から90代までの男女158人。年代別にみると、20代が最も多い41人、次いで50代が31人、30代が24人、40代が17人。重症化リスクの高い65歳以上の高齢者は合わせて34人だった。これで都の感染者は3万286人となっている。

 重症の患者は、前の日から4人増えて33人となった。30人台となるのは先月25日以来となる。
(ANNニュース)

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<エール>栄冠は君に輝く… 第96回視聴率19.5% 貿易会社に就職した智彦は?

2020年10月27日 16時13分05秒 | 社会・文化・政治・経済

10/27(火) 12:02配信

MANTANWEB

NHK連続テレビ小説「エール」主演の窪田正孝さん

 俳優の窪田正孝さんが主演を務めるNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」の第96回が10月26日に放送され、平均視聴率(世帯)は19.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。ドラマは同回から第20週「栄冠は君に輝く」がスタートしている。

【写真特集】やさぐれモード全開の久志! 華ちゃんに新たな恋の予感?

 同期の松川(木原勝利さん)に声をかけてもらった智彦(奥野瑛太さん)は、ラーメン屋の仕事を辞めて、貿易会社に就職するが……。音(二階堂ふみさん)はベルトーマス(広岡由里子さん)から、「ラ・ボエーム」のオーディションを受けてみないかと勧められる。一方、「長崎の鐘」を書き上げ、音楽への情熱を取り戻した裕一(窪田さん)の元に、戦時中に出会った新聞記者の大倉(片桐仁さん)が、「全国高等学校野球選手権大会」の歌の作曲を依頼しにやってくる……という展開だった。

 「エール」は、昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲を数々生み出した作曲家・古山裕一と、裕一の妻で、自らも歌手になる夢を追い続ける音の、音楽と共に生きる夫婦の物語。

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「親の愛情に恵まれなかった人」は、どんな人間関係を築くか?

2020年10月27日 16時08分22秒 | 社会・文化・政治・経済

10/27(火) 11:01配信

幻冬舎ゴールドオンライン

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着のアプローチで人は変われる」』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

過去の体験から来る「縛り」や「とらわれ」
人はそれぞれ過去の体験から来る縛りやとらわれを抱えている。ことに、幼いころの愛され方や親との関係は、強力にその人の人生を縛り、左右する。

しかし、同時に、人は大きな可塑性や成長する力をもっている。抱えている課題や制約と、そこから自由になり可能性を広げていこうとする力との戦いが、その人の生き様、人生が描く軌跡だともいえる。

それでは、その人が抱えている限界や制約を、どうすれば押し広げ、新たな地平へと飛躍させることができるのか。愛着障害の克服は、まさにそうした課題だといえる。

愛着アプローチは、本人の安全基地を強化することで、本人の中に備わっている回復しようとする力を活性化させる方法だともいえる。生きる意味さえ見失い、投げやりだった人も、何事にも自信がもてず、挑戦することから逃げていた人も、自分の中の問題を周囲の人に責任転嫁することで自分を紛らわしていた人も、愛着が安定するにつれ、自分の問題に向き合い、自分なりの答えを見出そうとし始める。

大それたものでなくても、どんなにささやかでも、自分の手と力で見出した、自分なりの生き方を進んでいこうとし始める。そこから先は、本人を信じて、本人の進んでいく後をついていくように、一緒に進んでいけばいい。もしも本人が駆け込んでくるようなことがあれば、いつでも相談できるように待ちかまえてはいるが、本人の力で何とかなる間は、ただそっと見守り、ときどき報告してくれることに耳を傾ければいい。

ここから先は、本人が主役であり、本人の主体的な取り組みと努力によってしか進んでいくことのできない領域だ。もちろん、困ったときや迷ったときには、安全基地となる存在のところにやってきて、その存在と対話をする中で、自分の答えを見つけようとするかもしれない。しかし、最後の決断は本人が下すのであり、安全基地となる存在は、彼の悩みや迷いに付き合うだけである。

ここでは、愛着の課題を克服しようと決意し、自分からその問題に取り組み始めたとき、そこにおいて課題となることや、目指すべき方向について述べたい。また具体的な取り組みについて、ヒントになることや使える方法についても考えたい。

拙著『生きるための哲学』(河出文庫)では、実際に愛着の課題と向かい合った人々の例を通して、彼らを救うのに役立った思想や考え方を紹介している。そちらも参考にしていただければと思う。

「親」という安全基地に代わる存在

(※写真はイメージです/PIXTA)

愛着が安定化するかどうかは、安全基地となる存在に恵まれ、それがうまく機能しているかどうかだということを、これまでくり返し見てきた。

そもそも愛着障害とは、親の愛情に恵まれなかった人に起きた、愛着の傷に起因する問題である。そのことに気がついて、それを取り戻そうと必死にかかわろうとする親もいるが、本心からその人に対して愛情を感じることができない場合には、結局かかわることを面倒がってしまったり、かかわり方を変えようと努力してみても、つい地金が出て、その人を責めたり拒否したりしてしまうことも少なくない。

幼い子どものころであれば、何事も許してあげて、献身的に愛情を注ぐ気になれたかもしれないが、大きく成長した今となっては、つい常識的な考えになり、「いい加減にしろ」と思ってしまう。育て直しは、赤ん坊を育てるよりも、ずっと大変なのである。

それゆえ年齢が上がるほど、難しさが増す。さらに親自身が極度に不安定だったり、共感性が欠如していたり、本人に対して愛情がもてなかったりする場合には、かかわるとかえって本人が不安定になってしまうという場合もある。無理に関係修復を図るよりも、親とは距離をとっている方が安全が確保される場合もある。

しかしそうした場合も、愛着の課題を克服するためには、安全基地となる存在の媒介が、通常は不可欠である。親という本来の安全基地に代わる存在として、困ったときに駆け込める避難場所や、安心の拠り所を提供することで、本人の安定を図るとともに、本人が自分自身の課題に向き合うことを可能にする。

身近な他者──先輩や上司、恋人や友人、知人などが安全基地となって、その人の悩みや相談を受け止め、回復と安定に寄与していく場合もある。しかし、そこにはしばしば落とし穴もひそんでいる。最初のうちは親身に相談に乗ってくれていても、次第に負担になってきて態度が冷たくなり、最後には拒否されてしまうということも起きがちなことだからだ。そうすると本人はかえって傷ついてしまい、「信頼できる存在などいない」という思いを強くしてしまうこともある。

また、恋愛や交接が絡む場合には、性的に引きつけ合っている間は、優しくされることで関係が安定するが、その時期を過ぎてしまうと、とたんに関心が薄れ、関係もギクシャクし始めるということも多い。じつは愛着の課題は何ら乗り越えられないままに、ただ交接という麻薬によって、それを忘れていただけだったことが、後で明らかとなる。

カリスマ的な存在にマインドコントロールされる場合も、これによく似ている。幻の安全基地をそこに見て、自分を捧げることで、苦しさを麻痺させようとするのだが、主体性のない依存に陥るだけで、もっと危険である。

「信頼できる専門家」の見分け方は?
課題を抱えている人が真剣に向き合おうと思ったときには、せっかくのチャンスを無駄にしないためにも、信頼できる専門家に助力を求めることをお勧めする。費用がかかったとしても、長い目で見ると、もっと大きな損失や危険を避けることにつながる。専門家を選ぶ場合も、変にカリスマ性の高い人や、安請け合いをする人は、用心した方がいい。

まず大事なことは、その人自身が安定型の人であるということだ。かつて不安定な愛着を抱えていたとしても、その部分を克服していることが必要である。愛着が安定した人を見分けるための特徴をいくつか記しておこう。

(1)接していて、怖さや危険な感じがなく、安心できる。

(2)穏やかで、気分や態度がいつも一定している。

(3)目線が対等で、見下したような態度やおもねりすぎる態度をとらない。

(4)優しく親切だが、必要なときには、言いづらいことも言う。

(5)相手の意思や気持ちを尊重し、決めつけや押し付けがない。

これらは、言うまでもなく、安全基地になるための条件でもある。魅力的で、惹きつけられる人ではあるものの、こうした条件から外れる場合には、その人自身が不安定な愛着を抱えた、演技性や自己愛性といったパーソナリティの持ち主かもしれない。安定した安全基地となってもらうには、あまり適さない。

もちろん、心理カウンセリングに熟練していて、愛着に課題を抱えたケースの回復を実際にサポートした経験をもっていることが望ましい。

「認知」が変化すれば、物事の受け止め方も肯定的に
愛着が安定しているときの認知(物事の受け止め方)と、愛着が不安定になったときの認知は、同じ人であっても大きな違いを見せる。愛着が安定している人の認知の特徴は、不快なことがあっても、それを過大視せず、むしろ、いい面や背景に思いを巡らせ、嘆いたり攻撃したりするのではなく、理解し受容しようとする。

不安定型の愛着に苦しんでいた人が、安定型に変わったときも、物事の悪い部分にとらわれすぎず、「そういうことがあったにしろ、良いところもあるのだし、また悪い点さえも、何かプラスになる面ももつ」と、肯定的に考えるようになる。そして、自分がされた不快なことは許し、自分がしてもらった良かったことに、感謝の気持ちを抱くようになる。

体験した事実が同じであっても、その人の認知が変わることによって、事実を肯定的に考えられるようになる。愛着の安定性は、体験した事実そのものよりも、それをどう受け止めるかという姿勢に左右されるのである。

同じような悲惨な体験をしても、その傷から人間不信に陥り、悲観的な考えから抜け出せない人もいるが、一方で、そうした悲観的な考えにとらわれることを免れたり、一時的にそうなっても、再び見方を変え、希望と信頼を取り戻す人もいる。

そこから、次のような希望的観測が生まれる。身に受けた事実が同じであっても、受け止め方を変えることによって、愛着が安定したものに変わるのではないのか。一言でいえば、「認知が変わることで、愛着を安定したものに変えることができる」のではないのか。その可能性を否定するつもりはない。しかし、そうしたことが起きたと断言できるケースは、実際には稀である。まず愛着の安定化が起き、そこから認知が変わったというケースの方が圧倒的に多い。

支援者が熱心にかかわることで、愛着が安定し、絶対許せないと思っていた気持ちが次第に薄らいでいき、物事の受け止め方が変わり、ぎくしゃくしていた家族との関係も改善していく──というのが、最も自然な流れである。
極限的な体験で「認知」が変化・改善することもある
つまり、最初の変化は、いきなり認知の変化から起きているというよりも、何らかの体験、多くは支え手との出会いによって、愛着の安定化が先に起きていることが多いのである。例外的に、認知の変化の方が先行して起きるケースとしては、自分が死にそうな目にあったことがきっかけとか、愛する存在の死や命にかかわる事態に直面して、という場合が多い。つまり、何らかの極限的体験が引き金となっている。

ただ、これらは運命の偶然によって引き起こされる事態であり、克服法として実践できるものではない。もちろん、そうしたことがきっかけになり、ピンチがチャンスを生むということは、知っておいて損はない。

話を戻すと、愛着の安定化が十分でない段階で、認知を修正しようとすると、逆効果になることが多いということだ。よくあることだが、「その受け止め方はダメだ」と言われたことで、自分を否定されたと思い、落ち込んでしまったり、「自分の受け止め方はダメなんだ」と思うことで、人に対してかかわる自信が余計なくなり、改善しようという取り組み自体が行き詰まってしまう。

むしろ、そうした修正を施さず、愛着の安定化だけにエネルギーを傾注した方が、認知もバランスの良いものに変化するということを、しばしば経験する。通常の認知療法なども、それがうまくいくのは、愛着が比較的安定した人である。

岡田 尊司

精神科医、作家

 

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携帯“乗り換えやすく” 総務省がアクションプランで値下げ促進

2020年10月27日 15時00分46秒 | 社会・文化・政治・経済

10/27(火) 11:47配信

TBS系(JNN)

 菅政権が掲げる“携帯電話料金の値下げ”を進めるため、総務省は新たな改革案をまとめた「アクションプラン」を公表しました。

 「アクションプラン」は携帯電話の利用者が契約する会社を乗り換えやすくするために総務省がまとめた改革案です。
 
 第1の柱として「分かりやすい料金やサービスの実現」。第2の柱として「公正な競争促進」。そして、第3の柱として「乗り換えの円滑化」を掲げ、具体的には契約者情報が記録されたSIMカードのかわりに「eSIM」という機能を普及させることや、乗り換え後でもメールアドレスを継続して利用できる仕組み作りなどを求めています。
 
 「事業者間の競争を促進し、結果として主要国と比較して遜色のない料金サービスを早期に実現をしてまいりたい」(武田良太 総務相)
 
 携帯大手3社が検討する「携帯料金の値下げ」に加え、総務省は、このアクションプランで携帯事業者間のさらなる競争を促したい考えです。(27日11:22)

最終更新:10/27(火) 11:47
TBS系(JNN)