「こんなこと、繰り返されてはならないです…」終わらないSNSの誹謗中傷、“パワハラ認定”報道も〈兵庫県政大混乱〉
竹内前県議の妻が涙ながらに語る。
彼は一人で懸命に県政の問題に取り組んでいたが、SNSで攻撃され家族を守るため県議を辞職せざるを得なかった。
無力感に苦しみ、「おれは負けた」と後ろ向きな言葉しか言わなくなった。
斎藤知事は竹内氏の功績を認めたが、SNSでの攻撃を止めるよう求めることはなく、批判を受けた。
一方、百条委のパワハラ認定報道も誤報と判明するなど、兵庫県政は混乱状態が続いている。
公正な選挙を求める県選管の要望に重みが感じられるが、一連の疑惑は未解決のまま。
竹内氏の願いは叶うのか、県民の期待は高まるばかりだ。
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斎藤元彦兵庫県知事の疑惑を調べる県議会特別調査委員会(百条委)の元委員で1月18日に亡くなった竹内英明前県議(50)は、SNSなどでの攻撃から家族を守るため県議を辞職した後、無力感と知人から聞かされるデマにさいなまれていた。
「嘘で斎藤知事をハメた」と竹内氏を攻撃したSNS上の言葉は、兵庫県警が疑惑の捜査に入ったことで覆されたが、失われた命は戻らない。
■政治活動を支えてきた妻は、嗚咽しながら声を振り絞った
「私たちは所属(政党)もなく、スタッフも、力もありません。そこを彼は一人でやっていました。なすすべがなかったんです…」
竹内氏の事務所を守り、二人三脚で政治活動を支えてきた妻は、嗚咽しながら声を振り絞った。
学生時代から秘書として政治に関わり、姫路市議を経て県議5期目だった竹内氏は、明るく豪放磊落な性格で、多くの人から相談事を持ち込まれる存在だった。
「竹内さんの独自の情報は委員会を引っ張ったといっても過言ではありません。昨年3月に疑惑を外部に告発した元西播磨県民局長・Aさん(60)に対し、公益通報者保護法違反の疑いがある調査を行なった片山安孝副知事(昨年7月に辞職)らが、Aさん以外にも5人の県職員のメールを1年分、本人に無断で見ていた事実をつかみました。それを百条委で突きつけられた片山氏は否定できませんでした。
さらに、斎藤知事が片山副知事に対しても激怒して目の前で付箋を投げたという、知る人が極めて限られる事実も暴露しました。多くの県職員が竹内氏を信じて情報を寄せていました」(在阪記者)
告発者のAさんは昨年7月に自死とみられる死を遂げてしまい、告発文書に登場する県課長・Bさん(53)も昨年4月に同様に亡くなっている。ふたりと高校の同窓で交流があった竹内氏は、生前、ふたりの死の背景にあるものを必ず明るみに出したいと口にしていた。
だが昨年9月に県議会の不信任決議を受け失職した斎藤氏が出馬した11月の出直し選挙で、「疑惑は全部うそで、斎藤氏はハメられた」として竹内氏らを攻撃する誹謗中傷がSNSで広がった。
「NHK党党首の立花孝志氏が、Aさんが複数の女性に不同意性交をしていたなどと演説し、動画でその主張が出回りました。さらにAさんと交友があった竹内さんは、『斎藤を貶めた主犯格』というデマ交じりの動画のサムネイルに顔写真が使われるなど標的にされました。こうした動画に影響されたと思われる人たちが竹内さんの事務所に非難や脅迫の電話をかけてきたんです」(県関係者)
■デマを見た支持者が「本当のとこ、どうなん?」
竹内氏は立憲民主党とともに「ひょうご県民連合」という会派を構成していたが、政党には属さずスタッフもいなかった。
「そのため攻撃は事務所をひとりで守っていた奥さんがまず一身に受けることになりました。立花氏が百条委委員長の奥谷謙一県議の自宅前で街頭演説を行ない、竹内さんのところにも行くなどと宣言したため、奥さんや家族は恐怖にかられ、知事選中から事務所を閉め、家から出られないほど追い詰められたんです」(県関係者)
電話やメール、SNSでの誹謗中傷の他にも竹内さんや家族には嫌がらせがあったとの見方があるが、竹内氏は親しい人にも何が起きたのか、生前ほとんど口にしていない。
「結局、斎藤さんが当選した翌日の11月18日に竹内さんは、『家族を守りたい』として県議の辞職届を出し、その後、奥さんは少し回復されました。しかし政治家であることが人生の柱であった竹内さんは、それが崩れたことで希望を失ったようなんです」(ひょうご県民連合の上野英一県議)
竹内氏の妻も「(夫は)おかしいと思ったことは言わずにはいられない人で、政治活動でしか票のお返しはできない、といつも言っていました。それが、議員を辞めたことで一番大事なものを失くしたと思い苦しんでいました。『おれは負けた』と、後ろ向きのことしか言わなくなって…」と、竹内氏の最後の姿について、つらい記憶を話す。
公の場から姿を消した竹内氏に対しては、今度は「斎藤氏の疑惑をでっち上げた容疑で警察の事情聴取を受けている」とデマが流され、本人の耳にも入り込んできた。
「本人はSNSを見ないようにしていたんですが、デマを見た支持者が『本当のとこ、どうなん?』と聞いたりしました。疑ったり悪気を持ったりとかはないと思うのですが、本人は悪い風にしか受け取らない。これが一番キツかったようです」(上野県議)
竹内氏を心配した元同僚議員は、竹内夫妻と1月に会うことを約束していたという。しかし竹内氏から「やっぱり会えない」と断りの連絡が届き、直後に竹内氏は亡くなった。竹内氏は会う約束を、妻には伝えていなかったという。
「こんなこと、繰り返されてはならないです…」
竹内氏の妻は、憔悴しながらも、同じ目に遭う人が出ないことを願っていた。
■荒れに荒れた1月22日の定例知事会見
竹内氏が亡くなった後、最初に行なわれた1月22日の定例知事会見で、斎藤知事は竹内氏について、
「県財政への造詣が大変深い方で、地域開発や森林関係事業を県財政の観点から対策を是正すべきだという質問が非常に強く印象に残っています。そのご指摘も踏まえ、今回県政改革の取り組みの中でなかなか着手できなかった面に取り組むことができたのは、竹内議員のご功績のひとつだと考えてます」
と評価を口にした。だが知事としてSNSでの攻撃をやめるよう求めたりポストの削除要請をしたりしないのか、との質問には、
「知事としては心ない誹謗中傷とか誹謗中傷につながりかねない真偽不明の情報の発信というものはやはり人を傷つけるということになりますので、そういったことは行うべきではないということはこれまでも申し上げてきた」
という一般論を繰り返すのみだった。
「会見の最後にはこの態度に業を煮やしたフリーランス記者が、『人間の血が流れてるんですか。殺人鬼と呼ばれてもしょうがないんじゃないですか』と強い言葉で斎藤氏を非難し、Xにはこの発言を問題視する書き込みが続きました。一方で、斎藤氏は知事としてSNSにおける攻撃をやめるようもっと強く訴えるべきだと批判する声も出ており、SNS空間ではバトル状態です」(地元記者)
斎藤氏を取り巻く場外乱闘はこれだけではない。同じ1月22日、大阪のテレビ局MBSは、百条委が斎藤氏のパワハラを認める方向で調整を始めたと特ダネ扱いで報じた。
これに奥谷委員長は「協議はこれからで何も決まっていない」と表明。報道は誤報だとして訂正と謝罪を求めたが、MBSは「複数の関係者から百条委がパワハラ認定の方向で動いているとの証言を得た」として訂正を拒否した。
「百条委は1月27日の次回会合から結論の検討が始まります。取りまとめの土台である委員長素案がまだ全委員に配布されておらず、調整ができるわけがない」と話す県関係者は、「MBSの報道は百条委の意見集約の障害になるとの憂慮が出ています。メディアはSNSで出回るデマを批判しているのに、こうした誤りは正さなくていいんでしょうか」と嘆く。
Aさんの告発に絡んでは、2023年11月の阪神・オリックスの優勝祝賀パレードに絡む公金不正支出疑惑についての市民団体からの告発を、兵庫県警が1月21日に正式に受理。(♯24)Aさんの申し立てを「誹謗中傷性が高い」として一蹴してきた斎藤氏の主張は崩れ始めたが、捜査の行方は不透明だ。
兵庫県庁を覆うすさんだ空気が去り、渦中で亡くなった人の遺族が安らかな心を取り戻せる日は来るのか。百条委と捜査当局を見る県職員と市民の目は切実さを増している。
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〈画像〉斎藤知事の支持者らから“主犯格”として拡散されていた竹内県議の動画のスクリーンショット
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