がんの再発を防ぐにはサプリよりも食事
丁宗鐵 / 日本薬科大学学長
毎日新聞2016年2月16日 配信 医療プレミア
手術でがんを切除してもう安心、と思っていたら「再発」。がん体験者から、このような話をよく聞きます。早期発見・早期治療でよくなっても、がんという病気には「再発」という不安がつきまといます。再発させないためには、どうしたらいいのか。がんと食べ物は関わりがあるのでしょうか。
■がんは、なぜ再発するのか
がんの再発には、転移する場合と新たにできる場合があります。たとえば、片側の乳房に乳がんが見つかって、手術でがんを切除したとしましょう。治ったと思っていたら、今度は反対側の乳房に再発することがあります。このような場合、転移とみなされることがありますが、それはありえないと私は思います。
がんの原発巣には、多数のがんの抗原が集まり、体の防御機能である免疫は、それを認識して抑え込もうと必死に闘っています。そのようなときに原発巣を取り除くと、他の場所にあるがん細胞は急に増殖して大きくなる性質があります。摘出手術後に再びがんが見つかると、原発巣から転移したかのように見えます。しかし、実はその前から同時多発的にがんができていたのではないか。手術ではその一つを取り除いただけで、その後にすでにあったがんが大きくなったとも考えられます。組織の大部分が残る場合、見えないがんの芽はそういうところにあって、再び増殖してくることがあります。ですから、治療後もこれまでと同じ生活を続けていたら、再発の可能性があり得ると考えられます。
■がん細胞が好む栄養に注意
がん細胞はふつうの細胞より栄養の要求性が高く、貪欲に栄養分を奪って増殖し、転移していきます。がんの画像診断に用いられるPET(陽電子放射断層撮影)検査では、検査前に放射線を出す元素を含むブドウ糖を注射します。するとブドウ糖をがん細胞が盛んに取り込むので、がんの部位が光って見えます。それによって、どこにがんがあるかわかります。
がん細胞のこのような性質から考えると、栄養の取り方で最も気をつけたいのは糖質です。甘い食べ物や飲み物の取り過ぎは、避けるべきでしょう。さらに、私の研究経験では油の取り過ぎもよくないと思います。
これは余談ですが、抗がん剤の治療をすると副作用で食欲がなくなることがあります。すると栄養が一時的に制限されるため、がん細胞は弱くなります。抗がん剤はそこを攻撃して、効いているのではないかという説があります。抗がん剤の副作用も悪いことばかりではないかもしれません。
■再発を防ぐ食事とは
では、がんの再発を防ぐには、なにを食べたらよいのか。私が患者さんに勧めているのは、ちょっとスパイシーな和食です。主食のごはんは、玄米だけでなく5分づきや7分づきのコメ、大麦(押し麦)入りの麦ごはんなどでも、白飯より食物繊維を多く取ることができます。これに魚料理や温野菜のおかず、みそ汁などを組み合わせます。味つけにスパイスを使うと塩分を減らすことができます。発酵食品もよいでしょう。ただし、肉は食べ過ぎない量、牛乳はヨーグルトにして1カップ(約200g)くらいがいいでしょう。このような食事を基本にして、週1回は好きな料理を楽しんでほしいと思います。
また、魚料理を食べている場合は、食事からDHAやEPAが摂取されます。サプリメントでさらに補うことは、しない方がいいでしょう。アミノ酸や核酸のサプリメントも控えた方がいいと思います。
■生まれ変わるつもりで生活習慣を改めよう
がんになる人は、ストレスがあってもがんばってしまう人が多いように思います。最近は介護によってストレスを抱え、不規則な生活を強いられる介護者のがんも増えています。夜更かしや不規則な生活は食生活が乱れやすく、睡眠の質も低下させます。このような生活は、がん細胞を元気にさせてしまいます。再発を阻止するには、がんになった原因は何だったのか自分でよく考えて、生まれ変わるつもりで生活習慣を改めていくことが大事です。
【聞き手=医療ライター・阿部厚香】
丁宗鐵 / 日本薬科大学学長
毎日新聞2016年2月16日 配信 医療プレミア
手術でがんを切除してもう安心、と思っていたら「再発」。がん体験者から、このような話をよく聞きます。早期発見・早期治療でよくなっても、がんという病気には「再発」という不安がつきまといます。再発させないためには、どうしたらいいのか。がんと食べ物は関わりがあるのでしょうか。
■がんは、なぜ再発するのか
がんの再発には、転移する場合と新たにできる場合があります。たとえば、片側の乳房に乳がんが見つかって、手術でがんを切除したとしましょう。治ったと思っていたら、今度は反対側の乳房に再発することがあります。このような場合、転移とみなされることがありますが、それはありえないと私は思います。
がんの原発巣には、多数のがんの抗原が集まり、体の防御機能である免疫は、それを認識して抑え込もうと必死に闘っています。そのようなときに原発巣を取り除くと、他の場所にあるがん細胞は急に増殖して大きくなる性質があります。摘出手術後に再びがんが見つかると、原発巣から転移したかのように見えます。しかし、実はその前から同時多発的にがんができていたのではないか。手術ではその一つを取り除いただけで、その後にすでにあったがんが大きくなったとも考えられます。組織の大部分が残る場合、見えないがんの芽はそういうところにあって、再び増殖してくることがあります。ですから、治療後もこれまでと同じ生活を続けていたら、再発の可能性があり得ると考えられます。
■がん細胞が好む栄養に注意
がん細胞はふつうの細胞より栄養の要求性が高く、貪欲に栄養分を奪って増殖し、転移していきます。がんの画像診断に用いられるPET(陽電子放射断層撮影)検査では、検査前に放射線を出す元素を含むブドウ糖を注射します。するとブドウ糖をがん細胞が盛んに取り込むので、がんの部位が光って見えます。それによって、どこにがんがあるかわかります。
がん細胞のこのような性質から考えると、栄養の取り方で最も気をつけたいのは糖質です。甘い食べ物や飲み物の取り過ぎは、避けるべきでしょう。さらに、私の研究経験では油の取り過ぎもよくないと思います。
これは余談ですが、抗がん剤の治療をすると副作用で食欲がなくなることがあります。すると栄養が一時的に制限されるため、がん細胞は弱くなります。抗がん剤はそこを攻撃して、効いているのではないかという説があります。抗がん剤の副作用も悪いことばかりではないかもしれません。
■再発を防ぐ食事とは
では、がんの再発を防ぐには、なにを食べたらよいのか。私が患者さんに勧めているのは、ちょっとスパイシーな和食です。主食のごはんは、玄米だけでなく5分づきや7分づきのコメ、大麦(押し麦)入りの麦ごはんなどでも、白飯より食物繊維を多く取ることができます。これに魚料理や温野菜のおかず、みそ汁などを組み合わせます。味つけにスパイスを使うと塩分を減らすことができます。発酵食品もよいでしょう。ただし、肉は食べ過ぎない量、牛乳はヨーグルトにして1カップ(約200g)くらいがいいでしょう。このような食事を基本にして、週1回は好きな料理を楽しんでほしいと思います。
また、魚料理を食べている場合は、食事からDHAやEPAが摂取されます。サプリメントでさらに補うことは、しない方がいいでしょう。アミノ酸や核酸のサプリメントも控えた方がいいと思います。
■生まれ変わるつもりで生活習慣を改めよう
がんになる人は、ストレスがあってもがんばってしまう人が多いように思います。最近は介護によってストレスを抱え、不規則な生活を強いられる介護者のがんも増えています。夜更かしや不規則な生活は食生活が乱れやすく、睡眠の質も低下させます。このような生活は、がん細胞を元気にさせてしまいます。再発を阻止するには、がんになった原因は何だったのか自分でよく考えて、生まれ変わるつもりで生活習慣を改めていくことが大事です。
【聞き手=医療ライター・阿部厚香】