SNSは直接顔を合わせずに匿名で発言できるため、誹謗中傷が起こりやすいといわれています。
この記事では、自分や家族が誹謗中傷されたらどうしようと不安な人に向けて、SNSの誹謗中傷について説明します。
この記事を読めば、SNSの誹謗中傷の状況や、どのようにして誹謗中傷が起きるのかがわかるでしょう。各SNSの特徴なども解説します。
誹謗中傷とは
ここでは、誹謗中傷の定義や、誹謗中傷が法律上でどのように扱われるかについて解説します。
誹謗中傷の意味
誹謗中傷とは特定の人に対して、言葉で侮辱や嫌がらせをしたりデマや嘘を触れ回ったりすることです。誹謗中傷は対象者の名誉権を侵害するものであり、言葉の暴力とも呼ばれます。
なぜネット社会で誹謗中傷が起きるのか。専門家に聞くコメントマナーと、Yahoo!ニュースのAI活用最前線
IT&みらいトラブル防止 解説 AI
ネット社会の誹謗中傷事情とは。専門家に聞くコメントマナーと、Yahoo!ニュースのAI活用最前線
ニュースサイトやSNSなど、皆さんは日々、ネットでどんな文章を読み、どんな言葉を書き込んでいますか?
時には誹謗中傷など、人の心を傷つける「不適切コメント」を目にすることもあるかもしれません。もしくは、あなた自身もそのようなコメントを書き込んでしまった経験はないでしょうか?
それらを少しでも減らしていくことで、誰にとっても心地よいネット社会を実現できれば素敵ですよね。
そこでこの記事では専門家への取材を元に、これからのネットリテラシーの基礎を解説します。また記事の後半では、Yahoo!ニュースが取り組んでいるAI(人工知能)を活用した不適切コメントへの対策も紹介しています。
目次
ネットは「極端な意見を持つ人」が集まりやすい空間。「誹謗中傷」が生まれる背景から学んでみる
加害者にならないために。これだけは押さえておきたいコメントマナー
誰にとっても心地よいネット社会を目指して。ヤフコメ健全化のための新たな取り組み
山口真一さん
ネットでの誹謗中傷研究の専門家 山口 真一(やまぐち・しんいち)先生
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。博士(経済学)。1986年生まれ。専門は計量経済学。研究分野はネットメディア論、情報経済論など。
「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとし、メディアにも多数出演・掲載。主な著書に『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)などがある。他に、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事などを務める。
山口 真一プロフィール(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)
※取材はオンラインで実施しました。
ネットは「極端な意見を持つ人」が集まりやすい空間。「誹謗中傷」が生まれた背景から学んでみる
まずは「不適切コメント」とは何なのかを確認しましょう。ネットでの不適切行為にはさまざまなものがありますが、昨今もっとも数が多く問題になっているのは「誹謗中傷」です。
誹謗中傷とは
人格を否定して他人を傷つけることや、根拠のないデマ・フェイクニュースによって、人や企業の社会的評価を低下させること。
この問題の重要なポイントは、「投稿した本人は、書いた時点ではそれを誹謗中傷と認識していない可能性がある」ということ。
社会心理学の研究では、インターネットなど非対面のコミュニケーションにおいて、人はつい攻撃的になりやすいことが実証されています。
また、こうした投稿のほとんどが「許せない」などの正義感に駆られて行われていることも分かっているそうです。
このような誹謗中傷が社会問題化しているのはどうしてなのでしょうか? 山口先生は「ネットが社会全体に普及したことが第一に挙げられる」と言います。
山口真一さん 「一昔前のネット炎上の主戦場は狭くアンダーグラウンドな世界で、一部の人にしか情報は伝わっていませんでした。しかしこれだけ裾野が広がり、誰もがSNSをやる時代になると、多くの人が情報に触れ、書き込むことができるようになります。
そうなれば、自然と誹謗中傷などの不適切な投稿は増えてしまいます」
批判的な思いを持った人ほどレビューを積極的に書き込む
この問題には、インターネットの根源的な特徴が関係しているとも指摘します。
山口真一さん 「インターネットの普及によって、有史以降初めて、能動的な言論しかない空間が生まれました。というのも、リアルでの会話は自分が語り手にも聞き手にもなる、言葉のキャッチボールですよね。
しかしネット上では能動的な発信しかない上、それを止める人はほぼいませんから。最近の研究では、こうしたネット環境においては、極端でネガティブな意見が表出しやすいことがわかってきました。商品のレビューなどでも、批判的な思いを持った人ほどレビューを積極的に書き込むことが実証されています」
確かに、そもそも強い思いを持っていなければ発信する必要がありませんし、極端な意見の人に反論された場合、「対抗するメリットが少ないし、議論から降りた方が安全だな」と考える人も多いのではないでしょうか。結果として、極端な意見を持っている人ばかりがインターネット上に残りやすいのです。
ネット社会の誹謗中傷事情とは。専門家に聞くコメントマナーと、Yahoo!ニュースのAI活用最前線
2つのグラフは、リアルとネット上での意見分布の違いを示したもの。「憲法改正」について、リアルでは「賛成とも反対とも言えない」など中庸の回答を選んだ人が多いのに対し、SNSには「非常に賛成」「絶対に反対」といった極端な意見が多く書き込まれていることが見てとれる〈山口真一(2018)『炎上とクチコミの経済学』朝日新聞出版〉
しかし実は、こうした「極端な意見を持つ人」の割合は、山口先生の研究によると非常に少ないことが分かっています。例えば、炎上1件に対して書き込みをしている人は、ネットユーザのたった0.0015%(7万人に1人)に過ぎません。
それくらい少数の強い意見が表に出ているのがネット空間であるということを理解しておけば、過度にネットを危険な場所と見なしたり、人間不信になる必要はないでしょう。
なお、誹謗中傷と批判は一般的に別物とされています。誹謗中傷は、相手の人格や外見・性格・特徴など「その人そのもの」について否定的な発言をすることです。それに対し、批判は相手の行動や発言に対して異なる意見を主張することを意味します。
法律で処置できる誹謗中傷
SNSにおける発言の多くは匿名でなされるため、発言の責任を追及されるおそれはないと思い込んでいる人も少なくありません。しかし、被害者が個人を特定するために民事訴訟を起こしてSNS管理者やプロバイダに発信者情報の開示請求を行うなど、SNSの誹謗中傷に対する取り組みも始まっています。
SNSでの誹謗中傷については法的責任が問われ、刑事罰になる場合もあります。罪名は名誉棄損や侮辱罪、脅迫罪や強要罪、信用棄損罪や業務妨害罪、著作権違法などです。たとえ犯罪にはならないとしても、民事で訴えられて、損害賠償や名誉回復措置などを要求される可能性もあります。
なぜSNSでは誹謗中傷が起きやすいのか
ここでは、SNSで誹謗中傷が起こりやすい主な理由として、「SNSの利用時間増加」「匿名性」について説明します。
SNSの利用時間増加
総務省が2020年に実施した調査によると、SNSの利用時間は2012年から2018年までの7年間で4倍まで増加しています。それに伴って「違法・有害情報相談センター」への相談件数も高まるばかりです。
特に、10代後半の若者は大半がSNSを利用しているだけに、誹謗中傷の被害者になりやすいといえます。つまり、利用者の多いSNSで誹謗中傷されることは、若者にとって「みんなに見られる場所で自分を否定された」という深刻な事態です。
参考:
SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について|総務省
匿名性
Facebookのように実名制を原則とするSNSもありますが、多くのSNSは本名の代わりにハンドルネームやアカウントネームでの発言・発信が可能です。
匿名では実名のときよりも気持ちが大きくなり、ふだんの自分にはできないような過激で無礼な発言もしやすくなります。自覚しないまま、誹謗中傷の加害者になってしまうケースもあるでしょう。
また、匿名での投稿も、技術的に発信者を特定することは可能となっています。SNSで発信を行う際は、安易に投稿せず、その投稿によって傷付ける相手がいないか立ち止まって考えるようにしましょう。
SNSにおける誹謗中傷の数は増加傾向にある
法務省の支援事業「違法・有害情報相談センター」とはインターネット上で誹謗中傷や名誉棄損などのトラブルが発生したときに被害者が相談できる機関です。違法・有害情報相談センターに寄せられた相談件数は年々、増加する傾向にあります。
2019年の相談件数は平成22年(2010年)の4倍となる5,198件に及びました。
相談件数が増加傾向にある要因の1つに、誹謗中傷への認識の相違があると言えます。誹謗中傷のコメントをすることだけでなく、そのコメントに対して「イイね」をすることも、誹謗中傷を助長していることになる可能性があるということを忘れないようにしましょう。
参考:令和元年度インターネット上の違法・有害情報対応相談業務等請負業務|違法・有害情報相談センター
SNSの特徴と誹謗中傷
ここでは、主要SNSそれぞれの特徴と、どのような誹謗中傷が起こっているのかについて解説します。
LINE
LINEは単なるSNSではなく、電話やメールに変わる連絡手段として幅広い世代に普及しています。スマートフォンを持っている人のほとんどがLINEを使用しているといってよく、誹謗中傷の被害にあう可能性も高くなります。
実際に付き合いのある人とのやり取りが主な使途である点が、LINEと他のSNSとの大きな違いです。LINEの誹謗中傷は知っている人から受けるものだけに、精神的なダメージがより大きいと考えられます。特定のメンバー間だけのやり取りのため、誹謗中傷があっても発覚しにくいことも特徴的です。LINEグループでのいじめや疎外などの問題もよく起こります。
Instagram
2010年にサービスが開始されたInstagramは写真や動画を投稿するSNSで、ビジュアル要素の強さが特徴です。若い女性がメインユーザーで、中高生である10代にも多くのユーザーがいます。
自分の顔やメイク、ファッションの写真を投稿する人も少なくありません。そのようななかで、投稿画像に対してだれでもコメントができるため、投稿者の見た目について誹謗中傷が起こりやすいプラットフォームといえるでしょう。
ダイレクトメール機能では個人間のクローズドなやり取りも可能なため、わいせつ画像を投稿する人がいることも問題となっています。
Twitter
Twitterは文章でのやり取りが主なSNSで、140字以内の投稿が可能です。年齢や性別を問わず、幅広い層に利用されています。Twitter内だけでのフォロー・フォロワーだけでなく、実生活での知人や友人とつながっているケースも珍しくありません。
Twitterでは実名とは異なるアカウント名で運用している人も多く、匿名性が高いといえます。実名の場よりも気軽に発信ができるため、深く考えず、感情的に誹謗中傷をする人もいる点に注意が必要です。
Facebook
実名での登録を原則として、画像や動画付きで近況などを投稿できるSNSです。実生活で付き合いのある人と交流したり、情報をやり取りしたりする人が多くいます。さまざまなコミュニティもあるため、知らない人とつながる機会もあります。
基本的に実名で発信する場のため、Twitterに比べれば悪質な誹謗中傷は多くありません。とはいえ、知らない人や友人・知人から悪意の含まれるコメントが投稿されるケースもあります。
TikTok
TikTokは中国発のSNSで、2018年に日本の女子中高生に大流行しました。音楽に合わせてオリジナルダンスや口パクなどを投稿できます。中高生のなかには学校で制服を着て撮影した動画をアップする子も多いです。
投稿された映像に映る制服や校舎周りの風景などの情報から、学校や学区、個人が特定されるリスクがあります。ストーカー被害につながる危険性もあるので、使い方について、注意をしたほうがよいでしょう。
SNSによる誹謗中傷に関する相談窓口
SNS による誹謗中傷被害が増加傾向にある昨今、国やサポート団体などによる相談窓口が多く設立されています。ここでは、被害状況や相談内容に合わせた相談先をご紹介していきます。
まもろうよ こころ(厚生労働省)
悩みや不安を抱えて困っている方が、より気軽に相談できる窓口の紹介を行なっています。電話やメール、チャット、SNSなど様々な方法で相談することができます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro
違法・有害情報相談センター(総務省)
相談者自身でおこなう削除依頼の方法など、より迅速なアドバイスを受けることができる機関です。インターネットに関する専門的な知識や経験のある相談員が対応しています。人権侵害に関することだけでなく、SNSに関する問題に関して幅広いアドバイスを受けることができるのが特徴です。相談は主にインターネット上で行います。
参考:https://www.ihaho.jp
人権相談(法務省)
相談者自身による削除依頼の方法などのアドバイスだけでなく、法務局によるプロバイダなどに対する削除要請を行うことができます。
この、削除要請は専門的な知見から法務局が違法性を判断した上で行なっています。そのため、違法性の判断に時間を要する場合があります。相談は、全国の法務局での面談や電話、インターネットで行います。
参考:https://www.jinken.go.jp
誹謗中傷ホットライン(セーファーインターネット協会)
民間のインターネット企業の有志によって運営されています。誹謗中傷の相談を受け付け、一定の基準に該当すると判断されたものは、国内外のプロバイダに対して各社の利用規約などに沿った対応を促す要請を行います。相談はインターネット上で行い、その後のやりとりはメールで行います。
参考:https://www.saferinternet.or.jp/bullying
書き込んだ人に賠償などを求めたい場合には弁護士に相談したり、身の危険を感じる時や犯人への処罰を希望する場合には、最寄りの警察省やサイバー犯罪相談窓口(https://www.npa.go.jp/cyber/soudan.html)に相談すると良いでしょう。
SNSによる誹謗中傷を行なっている人間はごく一部に過ぎません。それでも、実際に被害に遭ってしまうと傷付きますし、やり返したいと思うでしょう。しかし、SNS上で争ってしまうと、状況がさらに悪化してしまうかもしれません。
そのような時こそ、慌てることなく設定の見直しや国や企業が運営している相談窓口に問い合わせするなど、冷静に対処するように心がけましょう。
SNSにおける誹謗中傷は世界的に問題となっている
SNSにおける誹謗中傷は、日本だけでなく、世界各国で問題となっています。ここではアメリカ、フランス、ドイツ、韓国の例をみてみましょう。それぞれの国でSNSの誹謗中傷発信に対してどのような対策をとっているかについて解説します。
アメリカ
SNSによる誹謗中傷被害や様々なデマの拡散が、大きな問題になっています。こうした中、2020年5月28日、当時のトランプ大統領はオンラインの検閲防止やSNSの規制強化に関する大統領令に署名しました。
この大統領令は、SNSなどによる表現も、民主主義の根幹である表現の自由として保護されるべきとした上で、誹謗中傷などの投稿を行うユーザー投稿の削除を限定したり、規制への提案や明確化を関係機関に求めるものです。しかし、表現の自由を重んじるアメリカ国内での実効性は乏しく現在も多くの問題が山積みとなっているのが現状です。
フランス
2020年5月13日、インターネット上でのヘイトスピーチなど、違法コンテンツを削除することをオンライン・プラットフォーム事業者に義務付けるなどの内容が含まれた法律が仏下院にて可決されました。
しかし、一部の内容が違憲であると違法院から判断されたため意見部分を修正し同年の6月25日に再度公布・施行しています。
修正後の内容は、CSA(放送行政監督機関)に「ヘイトスピーチ監察局」を設置し、教育機関においてヘイトスピーチに関する問題への啓蒙教育を行うなどの条項が出されています。修正前に出されていた、各事業者への削除義務は違憲判断とされたため削除されました。
ドイツ
難民に対するSNS上でのヘイトスピーチの過激化が問題視されていたドイツでは、2017年6月にヘイトスピーチやデマの拡散の防止を目的として成立した「ネットワーク執行法」により、違法コンテンツについて年間1,000件以上苦情を受けた事業者に、以下の措置が定められました。
・半年ごとの報告書作成と公表
・違法コンテンツを申告するための手続き窓口を設置
・違法コンテンツの申告に対し7日以内(明らかな違法コンテンツは24時間以内)に削除対応
これらの対応により、表現の自由への侵害に対する懸念や、SNS事業者に多くの判断が委ねられていることへの様々なリスクなどが問題視されています。
韓国
芸能人への激しい誹謗中傷による自殺が多発したことから「指殺人」という言葉が生まれるほど、SNSでの誹謗中傷が問題視されるようになりました。2007年に制定された「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」において、違法コンテンツの削除要請があった場合の削除がプロバイダに義務づけられています。
SNSも安心して使えるイオンモバイルのセキュリティサービス
SNSでの誹謗中傷への対策として有効な方法が、インターネットの閲覧制限をかけるフィルタリング機能です。
イオンモバイルではセキュリティサービスとして「Filii」「イオンモバイルセキュリティPlus」の2つを提供しています。それぞれについて
また、SNSアプリをどのくらいの時間利用しているかもわかるため、SNSに依存していないかの傾向なども早期に察知し、子どもの様子に注意を払うことが可能です。
フィッシング詐欺サイトなど有害サイトのブロックやフィルタリングだけでなく、マルウェア対策やセキュリティ機能、位置情報確認機能や紛失時のリモートロック機能も搭載しています。
まとめ
SNSは匿名性が高いことにより、誹謗中傷が発生しやすい環境です。
誹謗中傷が投稿される場所はだれでも見られるコメントの場合もあれば、個人間のクローズドなやり取りの場合もあります。
フィルタリングサービスを利用すれば、子どもがSNSで巻き込まれやすいトラブルを早期に把握し、見守ることが可能です。