今日の「お気に入り」。
「七平 会社員は定年を迎えると同窓会に出るようになる。
夏彦 定年でやめると会社に行けなくなるからですよ。そこに同役も下役もいるけれど、友はいません。一度は来てもいいけれども、二度、三度と来られたら、同役も下役もどういう顔していいかわからない。あわせる顔がない。あいさつの言葉がない。ですから歯をくいしばって行かないんですよ。そうして三年たち五年たつと電話をかける相手さえなくなる。
七平 社員だったころは忘年会、新年会、みんな友だちだと思っていたのに。
夏彦 定年にならなくたって電話かける先はないんです。むやみにかけてくるひとがいるでしょう。だからたまにかけてもいいだろうと思っても、それが駄目なんですよ。実ににべもないね。あれは自分の都合だったんですよ(笑)。
よくいるでしょう?『今かまわない?』って一応聞くから、まあ仕方がないから『かまわない』って答えるとね、延々とやってる。あれだけやったんだからこっちからやっても、受けこたえぐらいする義理があると思うと、さにあらず、『何か用?』
七平 そういうひといるなあ。」
(山本夏彦・山本七平著「意地悪は死なず」中公文庫 所収)
「七平 会社員は定年を迎えると同窓会に出るようになる。
夏彦 定年でやめると会社に行けなくなるからですよ。そこに同役も下役もいるけれど、友はいません。一度は来てもいいけれども、二度、三度と来られたら、同役も下役もどういう顔していいかわからない。あわせる顔がない。あいさつの言葉がない。ですから歯をくいしばって行かないんですよ。そうして三年たち五年たつと電話をかける相手さえなくなる。
七平 社員だったころは忘年会、新年会、みんな友だちだと思っていたのに。
夏彦 定年にならなくたって電話かける先はないんです。むやみにかけてくるひとがいるでしょう。だからたまにかけてもいいだろうと思っても、それが駄目なんですよ。実ににべもないね。あれは自分の都合だったんですよ(笑)。
よくいるでしょう?『今かまわない?』って一応聞くから、まあ仕方がないから『かまわない』って答えるとね、延々とやってる。あれだけやったんだからこっちからやっても、受けこたえぐらいする義理があると思うと、さにあらず、『何か用?』
七平 そういうひといるなあ。」
(山本夏彦・山本七平著「意地悪は死なず」中公文庫 所収)