「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

海からの贈物 GIFT FROM THE SEA 2013・11・12

2013-11-12 09:30:00 | Weblog


   今日の「お気に入り」。

   「 最初に来るのはこの日の出貝である。結婚の最初の段階をこれで表わすのは間違っていないと

    私は思うので、二つの少しも欠けた所がない面がただ一つの紐帯(じゅうたい)で結ばれ、完全

    に一つに合さって、どっちの面にも暁の光が差している。それはそれだけで一つの世界を作っ

    ていて、これこそ詩人たちが昔から歌おうとしていたものではないだろうか。


     私たち二人の目覚めた魂は、お早う。

     私たちは互いに相手の顔色を窺(うかが)ったりしなくて、
    
     それは愛が何を眺める時の心も支配し、

     一つの小さな部屋を凡ての場所にするからだ。
 
     探検家は新しい世界を発見し、

     地図は多くの世界を示すがいい。
 
     私たちはただ一つの世界を所有し、銘々が一つを持っていて、そして二人は一つなのだ。


   しかしジョン・ダンが歌っているのは『小さな部屋』で、それはやがて私たちには狭過ぎる

   ようになり、そしてそれが少しも不幸なことではない、小さな世界なのである。日の出貝は

   美しくて、壊れ易(やす)い、はかないものである。しかしそれだから幻影ではないので、我

   々はそれがいつまでもあるものではないという理由から一足飛びに、それが幻影であるなど

   と思ってはならない。持続ということは、真偽の尺度にはならない。蜻蛉(かげろう)の

   一日や、天蚕蛾(てぐすが)の一夜は、その一生のうちで極めて短い間しか続かない状態

   だからと言って、決して無意味ではないのである。意味があるかないかということは、

   時間とか持続とかと関係はなくて、他の基準に従って判断されなければならない。それ

   は或る時の、或る場所での現在の瞬間に属していることで、『現在あるものは、或る時

   の、或る場所での現在にしかない』のである。
日の出貝には、凡て美しくてはかない

   ものの永遠の価値がある。」

           (リンドバーグ夫人著 吉田健一訳「海からの贈物」新潮文庫 所収)



    上に引用した文章は、アン・モロウ・リンドバーグ女史の著書 "GIFT FROM THE SEA" を

   吉田健一氏が翻訳された「海からの贈物」(昭和42年、新潮社刊)の第4章「日の出貝」の

   最後の部分である。太字で示した箇所は、11月3日の「今日のお気に入り」で、落合恵子

   さんの訳文によって紹介したが、その原文は次の通りである。

   「 The day of the dragon-fly or the night of the Saturnid moth is not invalid

    simply because that phase in its life cycle is brief. Validity need have

    no relation to time, to duration, to continuity. It is on another plane,

    judged by other standards. It relates to the actual moment in time and place.

    "And what is actual is actual only for one time and only for one place."


    The sunrise shell has the eternal validity of all beautiful and fleeting things.


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