今日の「お気に入り」。
「七平 いやいや、そこがほんとの儒教国家と日本との違うとこなんです。
夏彦 徳は孤ならず、孤ならんや孤ならんやと言うじゃありませんか。
七平 徳とは? ってのは朱子の『近思録』を見るとちゃんと定義があるわけです。『誠は無為、幾に善悪あり』で『徳は、愛するを仁と曰い、宜しきを義と曰い、理あるを礼と曰い、守るを信と曰う。焉(これ)を性のままにして焉(これ)に安んずる、これを聖という……』といった具合で、明確に定義してそれをマニュアル化しないと気が済まないんです。
その点ヨーロッパ人に似てるんですよ、中国人は日本人よりも。ところが日本人はね、あのひとが人徳あったらもっとお中元がたくさん来る(笑)。
夏彦 いえ、ほんとです。何度も言うけどね、うちの近所に会社を定年でやめて十年たっても二十年たっても山ほど中元が来るひとがいる。デパートからじゃない。ご当人が持参するんです。門前市(いち)をなしている。
七平 それが日本人における徳であってね。
夏彦 そうです。それなのに僕のとこへは誰も来ない(笑)。そうすると僕は反省しないわけにいかない。
七平 うーん、私も反省しないわけにいかない。
夏彦 それで僕はね、突然、お中元だとさとったの。おわかりですか。
七平 ご名答、ご名答、いや、それがね、天皇家に寄付することを法律で禁じてるでしょう。
夏彦 そう言やそうですね。
七平 天皇家に寄付しちゃいけないんです。
夏彦 許したら大変でしょう。
七平 もし許したら、あの皇居がお中元の山になって、天皇は身動きできなくなっちゃう。
夏彦 なーるほど。そんな法律あるんですか。寡聞にして知らなかった。
七平 だからお中元がたくさん集まるのが人徳なら……。
夏彦 そーうですよ。陛下はお困りでしょうな。
七平 人徳の象徴なんだ(笑)。」
(山本夏彦・山本七平著「意地悪は死なず」中公文庫 所収)
寄付をしてはいけないけど、手紙なら渡してもいいと考えたんでしょうか、あの山本さんは。
「七平 いやいや、そこがほんとの儒教国家と日本との違うとこなんです。
夏彦 徳は孤ならず、孤ならんや孤ならんやと言うじゃありませんか。
七平 徳とは? ってのは朱子の『近思録』を見るとちゃんと定義があるわけです。『誠は無為、幾に善悪あり』で『徳は、愛するを仁と曰い、宜しきを義と曰い、理あるを礼と曰い、守るを信と曰う。焉(これ)を性のままにして焉(これ)に安んずる、これを聖という……』といった具合で、明確に定義してそれをマニュアル化しないと気が済まないんです。
その点ヨーロッパ人に似てるんですよ、中国人は日本人よりも。ところが日本人はね、あのひとが人徳あったらもっとお中元がたくさん来る(笑)。
夏彦 いえ、ほんとです。何度も言うけどね、うちの近所に会社を定年でやめて十年たっても二十年たっても山ほど中元が来るひとがいる。デパートからじゃない。ご当人が持参するんです。門前市(いち)をなしている。
七平 それが日本人における徳であってね。
夏彦 そうです。それなのに僕のとこへは誰も来ない(笑)。そうすると僕は反省しないわけにいかない。
七平 うーん、私も反省しないわけにいかない。
夏彦 それで僕はね、突然、お中元だとさとったの。おわかりですか。
七平 ご名答、ご名答、いや、それがね、天皇家に寄付することを法律で禁じてるでしょう。
夏彦 そう言やそうですね。
七平 天皇家に寄付しちゃいけないんです。
夏彦 許したら大変でしょう。
七平 もし許したら、あの皇居がお中元の山になって、天皇は身動きできなくなっちゃう。
夏彦 なーるほど。そんな法律あるんですか。寡聞にして知らなかった。
七平 だからお中元がたくさん集まるのが人徳なら……。
夏彦 そーうですよ。陛下はお困りでしょうな。
七平 人徳の象徴なんだ(笑)。」
(山本夏彦・山本七平著「意地悪は死なず」中公文庫 所収)
寄付をしてはいけないけど、手紙なら渡してもいいと考えたんでしょうか、あの山本さんは。