
今日の「 お気に入り 」は 、帚木蓬生さんの「 千日紅の恋人 」 。
この小説の女主人公は 宗像時子 ( むなかた ときこ ) 、38歳 。
自分の名前について「 わたしはいや 。ずっと嫌い 。ついでに言うと 、
宗像 ( むなかた ) という姓も気に入らん 。宗像時子なんて 、
戦国時代の奥方の名前よ 。男運が悪かったのも 、そのせいよ 、
きっと 」と語っている 。
はじめの夫とは死別し 、二度目の夫とは離婚し 、六年前から「 サン
ライズ 」という名の福祉施設「 特養 」で月に20日ほど「 ヘルパー 」
として働く傍ら 、近くで独り暮らしをする母親 宗像峰子が所有する 、
14世帯が入居する老朽化したアパート 扇荘 の「 管理人 」を務めて
いる 。 毎月一回 、アパートに住む14世帯から月家賃3万円を戸別
訪問して集金して回る 。父親が建て 、父親亡きあと 、今は七十代の
母が所有する 、小さなアパートを大事にして 、細かな揉め事 、修繕 、
住人の交代などに行き届いた対応をする「 管理人 」として 、周囲の
皆の信頼を得ている 。
そんな 「 ヘルパー 」兼「 管理人 」の女主人公が日々の生活
で出会う人々との交流が 、時子の視点で描かれている 、重ねて
言うが 、「 恋愛小説 」 。
そんな小説の中で「 介護 」の世界は 、ヘルパー2級の講習で
使われる教則本の中の説明文のように淡々と解説される 。
そのくだりを 、備忘のため 、抜き書き 。
引用はじめ 。
「 特別養護老人ホーム の正式名称は 介護老人福祉施設 で 、
一般に 特養 と略されている 。その他に 老健 と呼ば
れる 介護老人保健施設 があり 、双方とも介護保険の対象
になっている 。特養 がほとんど死ぬまで介護するのに対し
て 、老健 のケアは在宅復帰を目的としている 。施設サー
ビスには 、ほかに 、老人福祉法に規定された養護老人ホー
ム 、老人ホーム 、公的補助の全くない有料老人ホームがあ
る 。 」
( ´_ゝ`)
「 人間誰しも老齢になると 、他人の世話を受けなければなら
なくなる 。この摂理からはずれるのは 、若いうちに病死か
事故死か自死する場合のみで 、あくまで少数派だ 。大部分
の日本人は高齢に達すると 、要介護認定を受けるはめになる 。
その度合いは 、要支援1と2と 、1から5まである要介護の
七段階に分けられ 、介護のための給付額が決まってくる 。時
子が勤務する特養で生活できるのは 、せいぜい要介護が3以上 、
大半は要介護度4か5の頭も身体も不自由になったお年寄りば
かりだ 。
これに対して 、リハビリ中心の 老健 には 、足腰が比較的
達者で 、多少の痴呆もある介護度2か3の高齢者が入所する 。
しかし終 ( つい ) の棲家 ( すみか ) ではなく 、三ヵ月から
六ヵ月 、一年くらいで追い出される 。
これとは対照的に 、建て前上 最期 ( さいご ) まで住めるよう
に なっているのが グループホーム と ケアハウス だ 。グルー
プホーム は通常の住宅で 、最大九人のお年寄りが一緒に住み 、
介護者も同居して 、食事 、入浴など身の回りの世話をしてやる 。
いうなれば通いではなく住み込みの宅老所と思えばいい 。軽費
老人ホームの一種とはいえ高級感のあるケアハウスはいわゆる老
人マンションで 、自炊ができない程度の障害の軽い高齢者が個室
に住み 、共有の食堂や浴場を自由に利用する 。もちろん 、必要
となれば 、看護師の世話や嘱託医師の診察も容易に受けられる 。 」
( ´_ゝ`)
「 老人の終の棲家が千差万別なのは 、それだけ高齢者介護の市場が
広いからだろう 。老人が持っている財産や年金を 、大勢が寄って
たかって 、手を替え品を替えて少しずつもぎ取り 、ちょうど
貯 ( たくわ ) えが底をついた頃に 、寿命も終わる仕組みにな
っている 。 ( 仕組みはそうだが 、老人ホーム の場合 、入居一時金の償却期間が経過した後 、
貯えが底をついたあとも 、年金や仕送りだけを頼りに生き続けるはめになることはある )
時子にしても 、そのおこぼれを頂戴しているのは間違いない 。
時給九百円で 、一日五 、六時間 、ひと月二十日は働くので 、
十万円以上は手にすることができる 。たまに 、残業すれば 、十四
万円になる月もある 。 ( 国からの給付を含め 、当の高齢者がすべての所得の源泉である )
その代わり 、仕事は重労働だ 。おむつ替えに食事の介助 、入
浴介助 、車椅子を押しての散歩 、口内清拭 ( せいしき ) 、髪
梳きに化粧と 、仕事が途切れることはほとんどない 。
その中でも一番の重労働は入浴介助で 、週三日 、パートタイ
ムの職員は必ず出陣を要求される 。
パンツにTシャツといういで立ちでないと 、風呂場では熱気に
やられてしまう 。それでも汗が噴き出してしまうので 、着替え
は欠かせない 。
介護を受ける高齢者が肥満体なのは罪 ―― 。 これが六年間サ
ンライズで働いた時子の感想だ 。( 「 サンライズ 」は時子が働いている 「 特養 」の名称 )
体重が六十キロまではまだ許せる 。しかし七十 、八十キロの
老人は 、それだけで介護の手を取り 、介護者の健康を害する 。
車椅子からかかえ上げるときに 、体重が三十キロの入所者と八
十キロの老人では 、必要とする 力 が五倍は違う 。
おむつ替えのときも同様で 、三十キロのおばあちゃんなら 、あ
っち向きこっち向きさせて 、ひとりででも替えられる 。ときに
は 、赤ん坊のおむつ替えのように 、両足を片手で持ち上げ 、手
早く替えることも可能だ 。
しかし八十キロの巨体はそうはいかない 。転がすのも二人がかり、
それもベッドに上がって 、大木転がしと同じように 、掛け声とと
もにやる 。
だから 、肥った老人は存在そのものがうとましい 。反対に小柄な
高齢者は好まれる 。少女のように可愛らしいところがあれば 、な
おさら好かれる 。
自分が老人になったらどうか 。時子はよく考える 。高校時代は百
六十センチあって 、体重は四十七か八で 、五十キロを超えること
はなかった 。二十年たった今 、五キロ増えたものの 、やはり五十
五キロ以上になることはない 。できれば 、老人になったとき昔の
五十キロ以下に戻っていたい 。
母親の峰子は六十五キロの肥満体だった 。今のところヘルパー
もいらない一人暮らしで 、名目上の要介護度は2だ 。将来デイ
サービスに通い 、入浴するようになれば嫌われ者になりはしない
か心配ではある 。 」
引用おわり 。
(* ̄- ̄) ( ´_ゝ`)
こうした解説だけを読むと 、これが恋愛小説かと思い始めるが 、
読み進めると 、やはり恋愛小説だと得心がいく 。
「 閉鎖病棟 」とは趣を異にする作品 。
( ついでながらの
筆者註 :「 帚木 蓬生( ははきぎ ほうせい 、1947年 - )は 、日本の
小説家 、精神科医 。
ペンネームは 、『 源氏物語 』五十四帖の巻名 『 帚木( はは
きぎ )』 と 『 蓬生( よもぎう )』 から 。本名は 森山成彬
( もりやま なりあきら ) 。
経 歴
福岡県小郡市生まれ 。福岡県立明善高等学校卒 、九州
大学医学部卒 、東京大学文学部仏文科卒 。
東京大学仏文科卒業後 TBSに勤務 。2年後に退職し 、
九州大学医学部を経て 精神科医 に 転身する 。その傍らで
執筆活動に励む 。
1979年 、『 白い夏の墓標 』 で注目を集める 。1992年 、
『 三たびの海峡 』 で 第14回吉川英治文学新人賞受賞 。
八幡厚生病院診療部長を務める 。2005年 、福岡県中間市
にて精神科・心療内科を開業 。開業医として活動しながら 、
執筆活動を続けている 。
医学に関わる作品が多く 、また自身( 精神科医 )の立場
から 『 ギャンブル依存とたたかう 』 を上梓している 。
2008年 、短編 『 終診 』( 『 風花病棟 』 に収録 )を執筆
後に たまたま受けた定期検査で 急性骨髄性白血病に罹って
いることが判明 。半年間の入院生活の後 、復帰した 。
2019年 、小郡市ふるさと文化大使に任命される 。 」
「 センニチコウ( 千日紅 、学名 Gomphrena globosa )は 、
ヒユ科の 春播き一年草 である 。園芸植物として栽培されて
いる 。別名 千日草( せんにちそう ) 。
形 態
草丈は 50cmくらい 、近縁種の キバナセンニチコウ では 1m
近くになり 、よく分枝し 、葉は対生し 、細長く 、白みを帯び
ている 。全草に粗い毛が生えている 。花は 7月から9月 にか
けて咲き 、直径 2-3cm で 、松かさを少し押しつぶしたような
形をしている 。 」
以上ウィキ情報 。)
