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巻第十八
「家持が福麿招き饗宴す新旧歌を詠めると言える(天平二十一年、春三月の二十三日、左大臣橘の家の使者ツカヒ造酒司サケノツカサの令史ヒミヒト田邊史福麿タノベノフミヒトサキマロを、守カミ大伴宿禰家持が館タチに饗アヘす。爰に新歌ニヒウタを作み、また古詠フルウタを誦ウタひて、各心緒オモヒを述ぶ)」
「奈呉の海に舟しまし貸せ沖に出でて波立ち来やと見て帰り来む(#18.4032)」
「奈呉の海で舟を貸してよ沖に出て波立ち来るかと見て帰ってきます()」
「波立てば奈呉の浦廻ミに寄る貝の間無き恋にそ年は経にける(#18.4033)」
「波立てば奈呉の海岸寄る貝のいつも思って年が経ちます()」
「奈呉の海に潮の早干ヒばあさりしに出でむと鶴タヅは今そ鳴くなる(#18.4034)」
「奈呉の海に潮が干ヒいたと餌取りに出ようと鶴タヅは今そ鳴いている()」
「霍公鳥いとふ時なしあやめ草かづらにせむ日こゆ鳴き渡れ(#18.4035)」
「霍公鳥嫌いにならぬあやめ草かづらにする日に鳴いてきてくれ()」
「上の歌明日布施にて遊ぼうと約束をして作りし歌か(右の四首は、田邊史福麿。その時明日布勢フセの水海に遊覧ばむと期チギりき。かれ懐オモヒを述べて各作める歌)」